カヤック日記


2006年2月の出来事!

今月は日記の更新が大変遅れました。
いつも見てくださる皆さん、すみませんでした。

いい訳を少し…。 28日千葉県の外房、一宮で70頭ほどの鯨類生存多数漂着(ライブマスストランディング)があり、日記の更新を気にしつつもボランティアとして28日午後より参加し1日の夜に帰りました。
その後も雑多な用事があり結局更新が今日になってしまいました。しかも今回の日記は私が主催しているストランディングのメーリングリストへ2日夜に報告した今回の現場レポートそのままです…。 報道でも少し話題になったようですので、この機会に是非現場でのボランティアに興味を持って頂けたら幸いです。

漂着した種はカズハゴンドウ、英語でMelon-headed、学名はPeponocephala electra。
体長は最大で2.75m、知られている最大体重は275kg。分布域は熱帯と亜熱帯の大洋域で北緯40度以南、南緯35度以北。
高度に社会的で普段100〜500頭の群れを形成(最大2,000頭の記録がある)。
引用文献:海の哺乳類 FAO種同定ガイド(FAO SPECIES IDENTIFICATION GUIDE-MARINE MAMMALS OF THE WORLD) 国際連合プログラム 国際連合食糧農業機関 NTT出版発行
下の写真は2002年に茨城県で同じ種で同じ事が起こった時のものです。今回は余裕が無く良い写真が撮れませんでした。
 
2002年2月25日の茨城県波崎町でのカズハゴンドウ集団漂着

2月28日
まず最初に念の為、あまり注目されていない少数の漂着を確認したいと思い、南から見て行きました。
太東港の2kmほど南(須ヶ谷?)にある小さな海岸と太東港南側の小さな海岸に漂着は見られませんでした。
太東港の北側の海岸では海岸からみえる範囲で3頭が浅瀬に確認でき、それらを10人弱のサーファーが沖へ戻す作業をしているところでした。(16:30頃)
太東港が漂着最南端と思われますが、その後太東港南の消波ブロックが続く遊歩道下にも漂着ありという未確認情報もありました。
北を見渡すと遠くにヘリコプターが数機飛んでいるのが確認でき、そこが漂着の集中している場所なのだろうと思われました。
とりあえずは人の足らない場所でと思い、すぐにウェットスーツ、ドライトップなどを着込み太東での作業に参加しました。
内1頭は何とか見えなくなるまで沖に向かって泳いでいってくれましたが後の2頭は沖で時々見えましたがあまりちゃんと泳いでいるようには見えませんでした。
また港南端の堤防下に挟まれている個体を確認し見える範囲で4頭が確認できました。
暗くなり浅瀬に戻って来る個体がいなくなった時点で主な現場と思われる東浪見に向かいました。
東浪見と言ってもかなり広く、1.5kmほどありますが、その中でさっきヘリの見えた東浪見海水浴場へ向かいました。
海岸では車から照らされたライトを頼りに未だ波の高い水中での作業が行われていましたが、海の博物館の職員の方が作業の中止を呼びかけているところでした。
浅瀬では横倒しになり暴れるイルカが何頭も見え、サーファーはそれを見ると作業を止めるのが辛いようでした。
私としてもかなり辛かったので、とりあえず浅瀬で横倒しになった状態で砂と水を吸い込んで死んでしまわないようにブルーシートを使って浜に引き上げる作業を呼びかけると皆すぐに手伝ってくれました。
この方法であれば危険な水に入る作業をしないで済みますし、とりあえずイルカの呼吸を朝まで確保する事が出来ます。
この作業を繰り返すうちにサーファーはシートへ載せる方法や浜に置く際に胸ビレが納まる穴を掘ること、胸ビレを持たないこと、神経質で鋭い歯のある頭周囲を触らない、力の強い尾びれに近づかないこと、出来るだけイルカの息を吸わない事…等をどんどん覚えてくれたので数十頭の作業を一緒に行った人々は今後漂着があった際にリーダーとして役立ててくれるだろうと期待できました。
その作業は21時ちかくまで続きましたが、日中から何時間も救出を行っていたサーファーは力尽き、残念ながら全ての個体を同じような良い状態にしてあげることは出来ませんでした。
特に海水浴場の南の突堤の北側の付け根では二十数頭が突堤と消波ブロックと波に挟まれるように固まって漂着していました。
ここでは消波ブロックに阻まれて人手があったとしても引き上げにはかなり苦労しただろうと思われました。
1人でしたが、せめてもと思い出来る範囲で噴気孔に直接波に当たらないように山側へ背中が向くように動かしましたが大型のオスや折り重なった状態のものは動かせず諦めました。
21時までに、海水浴場北の河口から北に500mにある突堤周辺までで私が確認できたのは51頭か50頭、多くの個体で力強い呼吸やホイッスル音も確認でき可能性があると思われましたが内2頭は既に死亡もしくは瀕死の状態でした。

3月1日
海水浴場で車中泊し、朝になり再度同じ範囲で数えると48頭になっていました。流出したか海に帰る事が出来たのかもしれません。
生存率は予想よりは高く7割ほどでした。運良く夜間雨が降り続いたことで体の乾燥と高体温症になりにくかったのではないかと思われました。
大潮でしたのでかなり高いところまで引き上げたものも波を受け、再度横倒しになっていましたが引き上げたことで溺れる事は防げていたようでした。
また死亡していたものは引き上げる作業を諦めた海近くに残されていた個体がほとんどでした。
その中でもやはり噴気孔が海側になって横倒しになったものの死亡率が高く、昨日噴気孔を山側にしたものも何頭かは波で洗われて海側になって死亡していました。
徐々にサーファーが集まりだしたので北から順にブルーシートを使って河口や浅瀬で溺れそうな個体を引き上げて呼吸を確保する作業を始めました。その作業を私を含む7人で続け南下して行き太東港までの約2kmを歩きました。
帰りにはこの区間の漂着数を記録する為に私は総数、3人は死亡個体、3人は生存個体のカウントを行いこの時点でのある程度の正確な数を出す事が出来ました。すぐにメモをしなかったので自身はその後の作業中にすっかり数字を忘れてしまいましたが科博の記録に残っています。
また海水浴場の南の突堤の消波ブロックでは昨日暗くて気付かなかった悲惨な状態の死亡個体が何頭も見られました。
海水浴場に戻ると7時頃で、科博のメンバーが到着し死亡個体の記録をはじめていました。
また一方では生存個体をトラックに載せ太東港に運びリリースするという作業が始まっていました。
太東港までの状況を伝え、私は運搬作業に参加しました。うちのハイラックスでも小型の個体を運ぶ事が出来、他にもデリカや軽トラックでも十分運ぶ事が出来ました。
港に降ろされた個体はサーファーが泳ぎながら介助していました。まともに泳ぎ始めるものもいましたがスパイホッピングのような状態で頭を上にしてプカプカしているものも多く見られました。
輸送が終わった時点で私はカヤックを降ろして港内の介助に参加しました。カヤックでは港出口への誘導を試みました。浅瀬にいるものはサーファーが押し出し、泳いでいるサーファーと私のカヤックとで徐々に港の出口の方へ誘導する作業を行いました。
自立して泳いでいる個体の場合、出来るだけ驚かさないように斜め後から徐々に接近しイルカの前にゆっくりと入ることで前方に障害物が現れたと判断し反対側に向きを変えます。
イルカの反対側に回る時は追い越さず一旦さがり後からまた斜めに徐々に接近を繰り返します、こうする事で蛇行する個体も案外うまく移動できました。うまくいくと接触を最小限に出来ますし人間が接近するよりもカヤックの舳先が視界に入る場合の方がクリックスで調べても生物と判断せず例えば漂流物と判断する為か興奮しにくいようでした。反応の弱い場合に限りイルカの目の前にパドル(私のは黄色)をかざすと反応が見られました。
また興奮気味の特に大型のオスと思われる個体ではカヤックの下に入る場合もありましたが冷静な個体はほとんど向きを変えました。
一番難しかったのは頭を上にして浮かんでしまっているものでした。この場合背中がこちらに向いた時を狙い背ビレと噴気孔の間の後頭部を手で押し出すようにして次に背ビレをつかみ押し進めると目が覚めたように少し泳いでくれました。
港にはふたつの区画があり、リリースされた一番奥の区画から出口に向かって細い通路がありそこを抜けると広い区画が広がっています。ここから更に堤防に沿って数百メートル進むと外海に出られるのですが、この堤防までは波が入ってきており衰弱個体はついて行けないのではないかと考え、この広いブースに全てのイルカが入った時点で作業を中止しました。後は明日以降まで生き残ったものが判断して自ら外を目指す事を期待しました。
リリースを切り上げた後、東浪見海水浴場に戻ると科博によるサンプル採取が始まっていましたので参加しました。
この作業が日没前まで続き、残りは2日の午前までに作業を終了するということでした。
私はこれで館山に戻りました。
作業がどれも忙しく余裕が無かった為、この日の時間経過や写真など記録は全く残せませんでした。

残念ながら2日は現場に残ることが出来なかった為、その後の状況が分かりません。
特に港に放したものがどうなったかが気になります。
もしも本日以降だれか現場を訪れた方は是非教えてください。

低温時期の生存個体救出作業を行う場合に必要なものはウェットスーツ、もしくはドライスーツと痛感しました。
また長い時間作業に残ってくれた人ではウェットスーツ生地のフード、ブーツ手袋を使用して素肌がほとんど出ていないように装備していました。
体温を発散し易い部位を守る為、寒くならずに長く作業に参加できたようです。
泳ぐ事になる場合もありますし作業が長時間に及ぶのが普通ですので体温保持時間をいかに長く出来るかで救出の成功率と安全性が向上します。
また水中での機動性が必要になった場合に備え、いわゆる3点セットやカヤックも使えることが分かりました。
特に今回は一枚のブルーシートが大変役に立ちました。1枚のブルーシートで10人の男性が持つと2.5mのカズハゴンドウが砂に滑らす状態では楽に移動でき、更に数人増えることで持ち上げる事も出来ました。

とても長くなりましたが今回参加出来なかった方には現場の状況をイメージしてもらい今後参加される際のお役に立てれば幸いです。

このページでストランディングに関して詳しく紹介しております。
http://www.6dorsals.com/stranding/stranding.htm

また国立科学博物館 海棲哺乳類情報データベースでは更に詳しい内容が見られます。
http://svrsh1.kahaku.go.jp/



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