ここのところ何だか春のような暖かな日が続いています。
温暖化でカヤックシーズンが長くなるとすれば、とても皮肉な事ですが天気の予測は難しくなってきているように感じます。
それでも秋らしい高い雲の下で漕ぐ海は気持ちが良いです。
秋になりウミガメの産卵調査も終盤に入りました。今月は7月6日と7月25日に白浜町で産卵されていた巣の掘り出し調査を行ないました。
6日の巣では少なくとも58個の卵が孵ったことが確認でき、全体数は約74個ほどでした。
25日の巣では63個が孵化し全体数は150個以上で孵化に失敗した卵はほとんど未発生でした。
全体数や孵化卵の数が正確ではないのは孵化の際に細かく割れた卵殻の数を正確に推定できないからなのです。
正確な産卵数を知るには産卵後すぐに巣を掘り出してしまえば確実ですが産卵された卵を触る必要があり孵化への影響を考えて行なっていません。
総数を正確に把握する事よりも自然な状態で孵化する事の方が重要だと考えているからです。
巣を掘り出して孵化率調査を行なうのは産卵日より3ヶ月以上経ってからと決めています。
孵化には大よそ2ヶ月間かかります、それから更に1ヵ月置く事でまだ生きているかもしれない卵に関わらずに済むようにしています。
孵化率調査では孵化に失敗した卵の状態を記録する為に殻を割って中を見るようにしています。
様々な生育段階で死んでしまっている子ガメや胚が見られますが巣ごとに見ると、ある程度一定の段階で死が訪れているようですので死亡の原因になった外的要因があるようです。
多分台風などの波を被り浸水した事がほとんどの要因のようです。
今回はウミガメ調査の全体の流れを紹介します。
調査重点地の白浜町(現南房総市内南端部)の調査では以下の流れでシーズンを通して行なっています。
また館山市の平砂浦、南房総市の他の海域では上陸調査頻度を下げ、掘り出し調査なども行なっていません。
白浜町に重点を置いている理由は最も人間活動の影響が大きい繁殖地だからです。
産卵シーズンに入ると調査地域の海岸を毎朝調べて周ります。すると時々写真のような足跡が見つかります。シーズンは普通6月から8月までです。
足跡を辿って行くと足跡が途切れると同時に巣穴を掘った形跡が見つかります。ここをボディーピットといいます。
足跡が鮮明なうちに写真を撮り、記録をします。私のところでは街灯など人的光による影響を調べたいと思っているので母亀が辿った後を細かく記録しています。
例えば街灯の多い白浜の海岸では写真の記録のように非常に蛇行した足跡が見られ、真っ暗な他の海岸では直線的な足跡が残されています。
他に母亀の目線の高さで足跡を辿った写真を撮り母亀に見えた海岸の姿を確認できるようにしています。
ボディーピット内の状態を見て巣穴を探し出します。穴を掘っていてもゴミが出てきたり砂の質が気に入らないと卵を産まずに海に帰ってしまう母亀も多く見られます。
卵が見つかった場合には写真のように最上部だけ観察した後、埋め戻します。
卵があった場所に目印を立てて背景と共にいくつかの角度から写真を撮ります。これは3ヵ月後に巣を掘出す時に大切な記録になります。
写真を撮った後、いたずら防止のため目印は取り除きます。更に念の為GPSで緯度経度を記録します。
台風などで波が高くなった時には産卵地の様子を見に行きます。
今年は台風9号の影響が大きく7月25日産卵巣の近くで洗い出されてしまった卵が見つかりました。このような簡単な状況記録をするためにはGPSの位置記録で十分です。
産卵日より3ヶ月が経った後、産卵日に撮った位置記録用の写真を元に巣を探し出します。
巣穴は幅20cmほどと案外小さなものの為GPSのような数メートルも誤差のある位置記録では役に立ちませんが海女や漁師の使う山立てという位置把握の方法を写真を使って行なう事で非常に高い精度で巣を再確認する事が出来ます。
巣から全ての卵を掘り出し、孵化率の調査を行います。記録が済んだ後全て埋め戻し調査が全て終了します。
他に巣穴の幅、深さなども記録します。
調査を始めた頃、アナログカメラでフィルムを多数消費して行なっていた調査が今ではデジタルカメラのお陰でとても簡単に、更に経費も安く済むようになりました。
母亀目線の写真などはひとつの巣だけで数十枚も撮る事がありますのでフィルムでは大変な負担で、思いたっても実際にはとても出来ないと思っていましたし、撮った写真を確認するのもモニターですから部分を大きく見ることも簡単です。
GPSはカヤッキング用に以前から持ってはいましたが今のように高い頻度で活用するようになったのは動物を調べるようになってからでした。
GPS、デジタルカメラ、パソコンによるデジタル化によって調査は随分楽になってきています。
全ての産卵上陸記録は毎年日本ウミガメ協議会に報告しています。
今のところ記録を残す事が重要と考えていますが環境改変の可能性があった場合などに、その地域の重要性を示す大切な記録になるものと思いますのでこれからも毎年続けていきたいと考えています。
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