カヤック日記


2008年3月の出来事!




ウミスズメ 3月の海はとっても静かです。
夏には人だらけになる海水浴場も存在を忘れられたかのように人気がなくなります。 写真のように数キロ先まで人っ子一人いないので砂浜を独り占めするには良い季節です。

浜の喧騒はありませんが、この季節の海は高い頻度で海が時化ますので本当は3月の海は静かではありません。
北寄りの風が主役だった冬から春になると南風が加わり、忙しなく入れ替わりながらほとんど常にどちらかが海を支配しています。 カヤッカーはそんな海の顔色を窺いながら、海に出ます。

それでも日差しが徐々に強くなり海の透明度が非常に高いこの季節は漕ぐ価値があります。
海面にはホンダワラが漂い岩場にはヒジキ、海中にはワカメが繁る豊かな季節です。 ホンダワラを取り上げてスプレイデッキで揺するとパラパラと細かい生物が落ちてきます。
写真の個体は長さが1cm程度ですが大きくなるとナナフシのような細長い形になります。 この海藻とそっくりな半透明で茶褐色の「ワレカラ」は甲殻類で、春に繁るホンダワラには驚くほど沢山見られます。 これらはホンダワラの森で幼少期を過ごす魚達の貴重な餌生物になっているそうです。

ワレカラ 海藻の森には人にとって危険な生物もいます。 最近特に気になったのは徳島県の橘湾で起きた事例でカギノテクラゲという直径2cmほどの小さな有毒種についでした。

以下引用。 採貝漁業者が海藻の近くで何かに刺され、次第に体がだるくなって思うように泳ぐことができなくなり、船に這い上がることも難しくなる(溺死する危険性もある)という深刻なもの。 このクラゲはサイズこそ小型ですが強い刺胞毒を持っており、刺されると激痛とともに呼吸困難などの全身症状を伴うことから、重大な事故につながることが報告されています。 本種はその名前のとおり、「鍵の(ように折れ曲がった)手」で海藻に付着しています。 橘湾ではガラモに付着していましたが、カジメやアマモといった他の海藻(海草)にも付着していることが知られています。(棚田2004)

ワレカラを観察する際に海藻を拾い上げる時は十分注意してください。 このように海藻に暮らすクラゲは他にもいて、どれも小型ですが先に出たワレカラなどを餌にしています。 これらのクラゲにとって餌となる小魚や小型の甲殻類が沢山暮らす海藻の森は浮遊生活をするよりも住み心地が良いのでしょう。(並河2000)

アカクラゲ クラゲといえば写真のアカクラゲを少し見るようになりました。
例年に比べると少し早い気がします。 赤くてきれいな模様が青い海に映えます。 ただしこれもまた有毒種ですので御注意を。
安全な水族館で見るクラゲは不思議な美しさに見入ってしまいますが、海で身近にみるクラゲには思わず逃げ出してしまいますね。
でもやっぱりよく見るときれいな生物だと思いますけど。

この季節、海岸に上陸すると漂着物に混じってあちらこちらにラーメンの食べ残しが捨ててあります。
まったく困ったもんだ…と春の海に初めて行った人は思うかもしれません。 ところが実はこれ卵です、カエルの卵は良く知られていますが、あんな感じのものです。

親はアメフラシです、いじくると怪しげな紫の液体を出す褐色の大きなナメクジみたいなあれです。
アメフラシは巻貝の仲間ですが殻は退化し皮下に隠れていて背中を探ると、その殻が分かります。
ラーメン風の卵は海藻に産み付けられますが時化の時に海藻と共に流れ着きます。
やはり昔からウミソウメンと言われています。

アメフラシの卵塊 良く打ちあがる物にタツナミガイというアメフラシの親戚がいます。 アメフラシは滅多に打ちあがらないようですが何故かタツナミガイはゴロゴロと転がっています。

巻貝の一種でありながら隠れる殻も持たないタツナミガイは打ちあがってしまった場合、乾燥を防ぐ為に出来るだけ表面積を減らしたいのでしょう水中での姿とは変貌し写真のように丸く硬く萎みます。
この状態で次に潮が高くなり波が海に戻してくれる事を期待してひたすら待つようですが、このまま干からびてしまっているものがほとんどです。
もう少ししっかり海藻などに固着できるようにアメフラシにアドバイスをもらった方が良いような気がします…。

なんだか今月は見栄えの悪いもの特集になってしまいましたが、見た目が悪くても面白いものが海にはたくさんありますね。






タツナミガイ 引用、参考文献

徳島県立農林水産総合技術支援センター 水産研究所
海藻に付着する危険な生物の正体 棚田教生
http://www.green.pref.tokushima.jp/

クラゲガイドブック 並河 洋/楚山 勇 TBSブリタニカ











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