私の周りでは新年は目立ったニュースも無く静かに過ぎていましたが、月の後半になってクジラが打ち揚がるニュースがありました。
場所は館山市民にとってはとても身近な沖ノ島という館山湾にある砂浜で繋がった周囲1kmほどの小島です。
国定公園に指定されている島内には植生が密生し、貴重な自然のままに近い海岸の森を散歩する事が出来ます。
磯と砂浜が隣接する浅瀬は潮通しが良く館山の市街地から数キロの距離でありながら年中美しさを保ち、夏にはローカルに人気のこじんまりとした海水浴場にもなります。
また水質の高さを物語るようにサンゴ群生息地の北限とされていて、近年では海辺の自然観察に適した場所としても注目されています。
打ち揚がる貝殻やサンゴは種数が豊富ですし、館山で布袋石と呼ばれ縁起物のイルカの耳小骨も時々拾う事が出来るためビーチコーミングスポットとしても注目されています。
その沖ノ島に多分今までで最も大きな漂着物がやってきた訳です。
種はザトウクジラで20日の午後に館山波左間の漁港に勤務している義弟から情報が入りました。
連絡をもらう直前に風景写真を撮りに車で島の手前まで行ったのですが、あまりの強風と凄まじい量の砂が舞い上がっていて島へ渡るのをやめて戻ってきたところでした。
やっぱり島に渡っておくべきでした、こんな日こそこういう事が起こると分かっていたはずなのですが…。
最近ではホエールウォッチングが各地で行なわれてクジラの生態を見る事が難しい事ではなくなりました。
特に今回打ち揚がったザトウクジラはホエールウォッチングの花形で、日本で最も早くホエールウォッチングを始めた小笠原などでは沿岸で普通に見る事が出来ます。
私も1991年に小笠原を訪れ、ザトウクジラを見た事でクジラに興味を持ち始めた人間のひとりです。
左の写真はその時撮ったものです。
ホエールウォッチングや海上での生態調査がかなり頻繁に行われていても見えているのは水面から見える体の一部と行動がほとんどです。
彼らが主には水中で活動している事を考えると私達からは見えていない事がほとんどと言っても良いくらいです。
また間近で見ないと分からない細かい事、例えば表面に寄生(共生)している小さな生き物たちをじっくり観察する事は至難の業です。
このザトウクジラにもクジラ専門で付着するフジツボ(写真右、更にフジツボに寄生している生物も…)が見られたり、クジラジラミといわれる甲殻類が小さな切り傷などに集っていました。
またダルマザメという深海性のサメによる咬み痕も多数見られました。
こういうものは生態ではじっくり観察する事が出来ないので貴重な機会です。
更には体の内部で起きている事を知るには死んだものから教えてもらう事が必要になります。
今回のザトウクジラのように捕獲が禁止されている種では死体を調べるという機会はほとんどありませんから、今回のような漂着はとても貴重な機会です。
こういう海の生物が打ち揚がることをストランディングと言い、欧米ではかなり以前から、日本でも比較的最近になって主に国立科学博物館が力を入れて調査をしています。
ストランディングについてはこちらをご覧下さい。
私は海でストランディングに遭遇し報告する側で国立科学博物館のメンバーとお知り合いになり、最近は千葉でクジラやイルカが打ち揚がった場合には解剖も含めて調査に参加しています。
今回は久しぶりの参加でしたが、いつも漕いだり散歩している特に身近な海での調査となり感慨深いものとなりました。
また房総の海がクジラの海だという実感を再度確認する事が出来た気がしました。
調査(剖検)は全身血まみれ、腐りかけの筋肉や内臓に埋もれての重労働でなかなか大変ですが、それから得られるものを考えると力が沸きます。
今回は1日中をかけて解体し内臓や皮脂などのサンプルは確保され、剖検中にもいくつかの知見が得られました。
骨格は無事沖ノ島に繋がる砂浜に埋められ、いつか予算が付けば館山の博物館に展示される可能性もあります。
今回の見物人の多さには多くの人が暮らす東京湾岸にクジラが打ち揚がる事への人々の驚きと依然衰えないクジラへの強い関心を感じました。
館山市の貴重な博物資源として「館山に打ち揚がり」、「館山で解体された」この骨格の「館山での展示」を是非とも期待したいと思います。
捕鯨について話す時、死んだものをしっかりと利用する事が動物の死への敬意を払う事になるとよく聞きます。
同じように今回のクジラを博物的に展示し活用する事はこのクジラへの敬意を表す良い方法だと思います。
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