カヤック日記


2010年8月の出来事!


8月25日脱出確認の6月22日産卵の巣(左下から写真奥へ広がる細かい模様が子ガメの足跡) 今年は順調にアカウミガメの子たちが孵化に成功しました。
近辺を通った台風は無く、今年は自然による繁殖への影響はほぼ無しと言ってよい状態です。
人による影響に関しては、人出の特に多いお盆時期に脱出が見られなかった巣で、人が少なくなった頃を見計らうように脱出があったりと、巣の中にいる子ガメが人の気配を鋭敏に感じ取っているのではないかと感じられるケースが見られました。

以前から問題としている南房総市白浜町の海岸道街灯の明かりについては進展がありました。 ウミガメへの影響を減らすために、2005年に海岸道路の街灯の電球を低圧ナトリウム灯(オレンジ色の灯り)に変えていた(※)根本海岸キャンプ場で、今シーズンは街灯を目指して山方向へ向かってしまい海に辿り着けないという個体は1頭も無く、やっと球換えの成果が確認できました。

※詳しくは2005年4月の日記をご覧下さい。
2005年4の日記


意図しないウミガメトラップ これは白浜町議員の由木尾さんのお陰で実現し、南房総の産卵地を変える第一歩と考えていました。 しかし球換えの後、なかなか街灯の影響のあるエリアに母ガメが産卵に上陸せず、子ガメの行動への成果が確認できずにいたのでした。
今回の事でやっと一歩進んだ感じですが、他にも公衆トイレ・キャンプ場内の街灯・キャンプのランタン・キャンプ場外にある販売機の明かりなど光に関する影響はまだ多く残されていますし、南房総市の他の産卵地でも街灯の影響が出ていますから、今後いかに細部まで光の影響を無くし、海岸道の球換えを全域に進めていくかが課題です。

実際、今年も8月24日に巣からの脱出痕を確認した巣(7月4日産卵)ではほとんどの足跡が海を目指してはいるものの一部がトイレの明かりを目指し、更にはトイレ脇の海岸出入り口から見える販売機を目指してしまい、海岸道路を渡った足跡も確認しています。 販売機は巣からは見えない位置ですので有害ではなかったはずが、強い光を出すトイレに誘引された事で販売機の光まで誘導され道路に出てしまった訳です。


トラップの場所(根本海岸キャンプ場入口) 道路脇は植生が繁っており、多くのカメはそこに隠れてしまったのかもしれません。 私が探した時には1頭が車に轢かれていたのみでした。 もしかすると運良く朝の散歩の人に拾ってもらったのかもしれませんが…。

更にはキャンプ施設が設置してあるエリアに子ガメが入り込む事で写真のように行き場を失うケースも見られました。
この穴はキャンプ場入口を閉鎖する際に使われる杭を入れる穴です。(上と右写真2枚参照、右写真の「ここ」の穴がそれ)
他にもゴミ捨て場を設置する為の杭穴にも1頭見つかりました。 産卵地で落とし穴状のものは造ってはいけません、海水浴で子供が掘った穴でも同じ事が起きますので必ず埋め戻しましょう。

ともあれ、ここ根本海岸でも白い光がウミガメの繁殖に大きな損失を与えている事が確認できましたので、今年から根本キャンプ場を管理する事になった南房総市にはそれについて報告し、影響を抑えるよう伝えなければなりません。


生まれて初めての旅は日本縦断! 夏は繁殖期が終わり巣立った子供たちが旅に出る季節です。 子ガメも海に出れば黒潮に乗り、長い長い太平洋の旅に出かけます。

8月になると毎年ウミネコの子も北海道などの繁殖地から越冬地を目指し房総を南下して行きます。(写真左) いわゆるカモメ類の白と灰色のツートーンではない黒っぽいウミネコの幼羽の子は巣立って最初の旅が日本縦断なのです。 我々人間では不可能な事です。 そういう姿を見る時、野生動物の強さに憧れを感じずにいられません。

今月は南半球からの旅の途中である事を示す「しるし」を付けた鳥にも遇いました。 写真のミユビシギで足に付いている黄色やオレンジ色のものがオーストラリア発であることを示しています。(※2)
今月は奇跡的に5羽(白浜町で2羽、和田町で3羽)を確認し、山階鳥類研究所へ報告を済ませました。 こういう発見があると海を歩いたり漕いだりする楽しみが倍増します。


オーストラリアからやって来た!(って歓迎してるのに逃げてますけど…)
※2 山階鳥類研究所ウェブサイト内
「フラッグの付いたシギ・チドリ類を見つけたら」

[藤田の過去のミユビシギフラッグ確認記録]
2002年8月31日・白浜町根本/2羽(ヴィクトリア州南部より)
2007年8月13日・白浜町滝口/1羽(南オーストラリア州より)

今回で8羽目となると次々見つけてみたい気もしますが、そうはうまくゆかないでしょう。 でも時期が重なっている事と場所が絞れた事で確率が上がると思います。 一方他の時期に他の場所でもいつも気に留めておくのが良さそうです。
しかし、あんなに小さな体で地球半周を渡り飛んで行くなんて…スゴイですね!!

先月も書いたことですが、ミユビシギをもっと身近にするには海岸清掃の仕方を考える事です。 僕がミユビシギを見る海岸は漂着物はそのまんまという場所です。 彼らの餌生物を守る為に、それらの餌となる漂着有機物を残してあげましょう。

南房総のスナメリ そして本当はまず最初に報告したかった発見があります!
なんと30日と31日に南房総市の太平洋岸でスナメリの確認が出来ました。 これでもう、この秋は何が何でも時間を作ってスナメリ調査です!!

本願の東京湾スナメリではありませんがホームウォーターのひとつにスナメリが見られたのですから…。 東京湾は少しお休みにして、もっと調べてから、ここでもちゃんと報告できればと思っています。

ちなみにこのスナメリも先のミユビシギフラッグと同じくウミガメ調査の副産物です。 潮間帯を歩きながら、時にはマウンテンバイクで走りながら、ウミガメの足跡・海鳥の様子・漂着物・海の様子…とキョロキョロしながらあらゆるものを追いながら動いた結果、運良く遇う事が出来た者たちでした。

今シーズンは特に沖に目を凝らす事が多かったのですが、それは鈴野真帆 氏・白木原 美紀 氏・風呂田 利夫 氏による2010年7月に発表された論文の影響がありました。

タイトルは「千葉県沿岸域における小型歯鯨スナメリNeophocaena phocaenoidesの出現状況」というものでした。
以前から、九十九里のスナメリを調べている一宮の秋山先生の影響もありましたが、最近これを読んだ事で刺激を受け南房総の海にもスナメリを探すようになっていました。
見ようとすれば見つかるのかも?と思った出来事でした。
今までなんで見えなかったのでしょうね??

「千葉県沿岸域における小型歯鯨スナメリNeophocaena phocaenoidesの出現状況」
鈴野真帆・白木原 美紀・風呂田 利夫 著 千葉生物誌 第60巻1号 2010年7月





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