カヤック日記


2011年4月の出来事


福岡県唐津街道沿いの海、沖に見えるのは福岡姫島 まず始めに東北関東大震災により亡くなられた方々の御冥福をお祈りさせて頂きます。
また1日も早い復興を強く願っておりますことをお伝えさせて頂きます。

先月はこのページを初めてお休みさせて頂きました。
またこのページだけでなくカヤックツアーそのものも現在休止しております。

3月11日の大地震から続く余震と原発事故の影響について、まだ決断がつかない事からツアー再開を出来ずにいます。
現在(5月1日)時点で余震はそれまでに比べれば随分と減ってきましたが、震災以前の感覚で冷静に考えれば震度4前後の地震が頻発する状況が「普通」というのは恐ろしいことです。
余震による規模の大きな津波の発生は見られないようですが、現在日本の東半分のどこで大きな地震が発生しても不思議ではない状況でお客様を海に連れ出す状況ではないと判断しております。
ご迷惑をお掛けしますが、どうぞ御了承下さい。

福岡県新宮浜から相島に落ちる夕日 私はこの41年の人生の内の半分くらいをシーカヤックを通して海に関わってきました。 たったそれくらいの時間ではありますが、海の怖さを強く感じながら過ごしてきたつもりです。
もちろんそれ以上に素晴らしさを感じる事の方が多く、海からもらったものは数知れません。
ですが、今は海に出る時では無いという考えは変わりません。
ひとによっては「そろそろ良いのではないか」、「全然大丈夫!」という意見もあるでしょう。 ほんとうにそうなのでしょうか…私にはまだ決める事は出来ていません。

そもそも本業をこれほど長く自ら閉める事は、厳しい事であり、残念な事です。 しかしそれは時間的スケールを短縮してみれば普段から普通に行っている事でした。
たとえばツアーが予定されていても前日の天気図が明日の荒天を予測させるのならばツアーは中止にせざるをえませんし、中止するべきです。
以前からよく言っていたことですが、シックスドーサルズの社長はお天道様と海神様で、私にもお客さんにも海に出る事の可否に対する決断権は元々委ねられていませんでした。

長崎県佐世保市南九十九島 あくまで海と空のご機嫌の下で遠慮がちに営業している仕事であり遊びなのです。
またツアーの最中でさえ神様の機嫌は急変します。 予め天気図を通して彼らの意思をちゃんと理解していなかったからかもしれません。 ツアーは途中で中断し上陸して歩いて帰ったり、雷雲が去るまでジッと待つしかない時もありました。
今回はそれの延長線上でただ時間的に影響が長いだけだと考えると営業中止はそれほど驚く事ではないのだと考えています。

地震や津波は天気と違い、当たり前ですが天気図にはその兆候はひとつも載っていません。 実際的には未来についての情報は皆無であり予測は不可能です。
我々が津波を避けるために出来る事は直前までを含めた過去の記録を知り、五感と畏れを持って必要であれば距離を置き、あとはただ待ち受けることしか出来ません。
その判断は科学的に立証できず、実際今回の震災は予測されていたものを遥かに越えていましたし、予測は役に立ちませんでした。
結局天気予報と同じで、その予測に責任は生じていません。

福岡県宗像市の海岸 晴れの天気予報で大雨が降る事は多々あることです。
結局は全てにおいて個人は得られるデータを元に、個人それぞれが自らの命を守らなければならないという事が今回改めて示されました。

天災を誰のせいにすることも出来ないのはもちろんですが、誰か(何か)をあてにすること事態が間違っているという事なのでしょう。 これはアウトドアで遊ぶ人に備わっていなければならない、もっとも大切な感覚と常識です。
フィールドに出る時の判断は悪い影響も良い出来事も全て判断した本人に戻ってきます。 電車に乗っていて事故が起きて運行会社に賠償を求めることは出来ても個人的に海や山に遊びに行って天災に見舞われたとしても誰もその損害を支払ってはくれません。 (ただし私のようなアウトフィッターとよばれる屋外活動を案内するツアーを運営する場合は賠償を求める相手として対象になるでしょう。)
現在の日本では自らの生死について、本人が誰かにそれを委ねることに慣れすぎているのかもしれません。


鹿児島県錦江湾と圧倒的な存在感を感じさせる桜島 生きていくうえで、誰かを助ける事はできたとしても、誰かに助けを期待したり責任を問う姿勢を前提に生きるというのはとても心細い事だと思います。 電車に乗るのも結局は自身の判断と考えられます。

今回の震災を受け、私と家族は3月の13日に館山を離れ西に向かいました。 実際に地震や津波の物理的被害を受けたというわけではありませんでしたが、福島第一原子力発電所の事故の状況が安定するまでは距離を置く必要を感じたからでした。
地震の活動が活発なうちは同原発に更に影響が出る可能性は高かったですし、制御の見通しも未だに完全といえません。

結局、4月14日に館山に戻るまで九州で自主避難をしていました。 これも先に書いたようにフィールドで身を守るときの基本である「自分の事は自分で守る」の延長による判断でした。
与えられる情報や、「安全」という予測とも期待とも取れる関係機関の報告をどういうふうに判断したかは結局自身の責任であり、自身に戻ってくる事です。


九州南端鹿児島県佐多岬 これについては社会的影響について様々な意見があると思いますが、まず自らと家族の安全を守らずに社会への貢献はあり得ないという私自身の考えに基づいて行動しました。
また今後の関東での悪化する業務状況を想定して九州ではカヤッキングに適したフィールドを調べて歩きました。 最悪の場合には移転、そこまでいかなくても影響の少ない九州で出張営業を行なう可能性も考慮しました。 今はまだその必要性については決定していませんが、海へ放たれた放射能と余震による津波への不安がどれくらい影響するのかを見守っています。

九州へはカヤックは積んでいけませんでしたが、素晴らしいフィールドを実際に目にすることが出来ました。 火山が多く地震との関わりが感じられる土地ですが、東日本から離れている安心感は実際に感じられました。(私は元々非常に地震が苦手です)
特に鹿児島、九十九島、福岡周辺の海の素晴らしさに感心し、以前漕いだことのある天草には寄りませんでしたがイルカもいます。 震災の影響がなくなったとしてもいつかここでツアーをしたい、少なくとも個人的にカヤックを漕ぎたいと思う場所が多々ありました。

鹿児島湾の向こうに指宿市開聞岳と夕焼け 今回はその九州で見てきた海の写真を含めご紹介させて頂いています。 もう少し必要な事を整えてシックスドーサルズのツアーで南房総の海に親しんで頂いていた皆さんにいつか九州の海を案内できる日が来ればと願っております。
また昨日発売された「KAYAK」誌で内田正洋さんが言われていたように被災地の観光復興にシーカヤックツアーが一役買える時がきっと来ると思います。 まだその時ではないですが、そちらについても積極的に検討していくつもりです。
南房総でのツアーに拘りを持ち「狭いところにある広がり」を楽しむ形でやってきたツアーですが、今回の出来事はその殻を破る機会となるのかもしれません。 一方では他の海を見る事で南房総の素晴らしさを再認識した面もありますので、南房総を拠点に「日本」という狭い国土を囲む広い海を相手にできればと思っております。
また帰りには原発反対運動にシーカヤッカーも参加している山口県上関(かみのせき)と広島平和資料記念館にも立ち寄りました。 美しく豊かな瀬戸内の海に原発が出来る事について、原爆を受けた広島のすぐそばの海にそれが出来る事がいかに不当な事か、その美しい海を見ながら実感しました。

瀬戸内、山口県上関に向かう途中の海辺 比較的余震がおさまりつつある状況を見て、4月14日に帰宅し家族への心配が減ったと判断し、私は19日に宮城県を目指しました。 以前漕いだことがあり、安否が分からずにいた昔の知人の暮らす気仙沼での被災地ボランティアに参加させて頂きました。
気仙沼大島はカヤックを始めたばかりの頃に一周した事があり、私にとって唯一の東北の海のイメージとなっていました。
その気仙沼が津波と火災で覆われ、大島が被災孤立する姿をテレビで見ていましたので、ある程度の安全確保とボランティア受け入れが始まればそこへ向かうつもりでいました。

行きの高速道路で季節外れの雪に阻まれ到着が1日遅れてしまいましたが21-23日の間、津波を受けた個人宅の瓦礫撤去と泥掻き出しをさせて頂きました。
周辺の様子はテレビで見た事が事実で、実際には数十倍も大きなスケールであった事が私に津波の恐ろしさを再認識させました。 ツアーが再開できる日が延びたと今感じているのは、この時に見たものの影響が大きいように感じています。
川には二階家が流れ着き、乗用車から大型トラックまでが幾つも川にありました。

山口県上関町の海辺、町南端の四代の集落が見える それでもここは壊滅地区ではなく、少しはまともな場所であるということでした。 別のお宅では比較的海に近く、近くの3階屋はそのままの形で数件分も移動していたり、目の前に立つ3階鉄筋の屋上では津波から逃れた人々がヘリコプターで救助された場所のひとつだったそうです。
数字では理解していたものの、あの高さまで水が押し寄せた事を考えると、まだ収まらない余震の中でここにいる事が普通に考えたらどれほど危険なのかに気付きました。 一日も早い被災地復興は強く願う事ですが、二次災害を考えた場合、もしかするとボランティア受け入れはまだ早いのかもしれないと感じました。
また現地で自宅や職場を片付ける人々が再度被災しないか今とても心配しています。

私が数日見ただけでも、これから先とても長い間、人手が必要な事は分かりました。 このゴールデンウィークには多くの人が現地にボランティア参加をされているようですが、これから先も長く人々の助けが必要でしょう。 私も余力を作り、また現地にお邪魔させて頂きたいと願っています。


広島県広島市原爆ドーム 昨日30日には南房総富浦で被災地へのチャリティーイベント「 Paddlefloat Project (PDF)」にお邪魔してきました。 主催は房総で長く活動しているカヤッククラブの「房州素人船団」でカヤックマラソンなどで縁のある宮古市への義援金を集める為のイベントとして開催されました。
震災の影響で南房総の観光は非常に落ち込んでおり、この海岸も普段のGWでは考えられないほど静かですがイベント会場には多くの人が集まっていました。 船団の皆さんには頭が下がります。

カヤック体験にはSALTYSの山本さん、チャリティーフリーマーケットの後に鴨川在住の尺八奏者、ジョン海山ネプチューンさんのミニコンサート、その後私はスライドショーをさせて頂きました。
開催にあたってはパンフレットに書いてあったように「集まること自体が時節柄、良いことかどうかもわかりませんが、祈っているだけではいかんと思い、企画いたしました。」と葛藤があった事が分かります。 私も考えましたが確かに出来る事はしていかなければいけませんし、ドンチャン騒ぎをするわけでなければ集まること自体が悪いとは思えませんので参加させて頂きました。

チャリティーイベントで尺八を演奏されているジョンさん これから先もシーカヤッカーが出来る事、出来ない事を見極めて過ごしていかなければならないでしょう。
夏までにどういう方向を見出せるのかは私自身もまだ分かりませんが、このサイトを通して今後も皆さんと繋がりを保てたら幸せです。 これからもどうぞよろしくお願い致します。

皆さんと笑って再会できる時を楽しみにしておりますので、どうぞ地震や原発の動向には十分注意して元気にお過ごし下さい。
長文となってしまいましたがお読み頂き、ありがとうございました。





お知らせ



「kayak〜海を旅する本」Vol.32
4月末日発売
店頭希望小売価格=840円(税込み)
藤田連載の「カヤック乗りの海浜生物記」はM「海の生活と災害」編です。
どうぞ宜しくお願い致します。

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