カヤック日記


2012年5月の出来事


潮溜まりに取り残されたカタクチイワシ 今月もオオミズナギドリと大型魚に追い回された挙句、岸に追い詰められたカタクチイワシが頻繁に見られました。
季節が移り、カモメ類の多くが北へ旅立ったこの季節には代わって繁殖で忙しいカラス達が臨時イワシ食堂に集っていました。
一口で4匹も上手に加えるカラスもいて、今年はカラスがよく増えそうです。

ウミガメの死骸も繁殖シーズン間近という事もあり、よく打ちあがりましたが先月に引き続き、幼いザトウクジラも漂着しました。
生き物たちの、繁殖に関わる淘汰が厳しい季節と言えるのでしょう。 それにしてもザトウクジラが同じ市の海岸に2月続けて打ち揚がるというのは珍しいことだと思います。

ザトウクジラの揚がった場所は館山市の南岸(太平洋岸)に位置する平砂浦(へいさうら)海岸です。
今回も同じようなサイズ(藤田計測7.3m)のコドモで、腐敗が進んでいました。 解剖をするまでもなく市により早々に埋められましたが、なんとか埋められる前に寄生生物のサンプリングと全長計測、撮影はできました。

オニフジツボとミミエボシ(と思われる) サンプルの内容は皮膚の一部、付着していたフジツボ(オニフジツボ)、そのフジツボに付着していたこれまたフジツボの類でエボシガイの仲間(おそらくミミエボシ)でした。
写真のように特に大きなオニフジツボにミミエボシが見られました。
クジラのような大きな生物では寄生している生物もデカイですね。 しかし気持ち悪い画像でスミマセン。

サンプルは丸ごと即日宅急便で国立科学博物館へ送りました。
クジラ本体の傷み具合からすると外部寄生生物の痛みは少なく、漂流していた時にはまだそれらは生きていたのだろうと考えられます。
寄生しているといってもフジツボの類はクジラから養分を摂るのではなく、海の水に浮かんでいるものを濾しとって食べているので、海に浸かってさえいれば死なないでいられます。

前回のザトウクジラにはフジツボがなく、その前の沖ノ島漂着のザトウクジラにはフジツボがあり、今回もあり。
こういう違いはどんな要因によるのか興味深いですね。

ヤセウツボ 寄生といえば動くものをイメージしがちですが、植物でも寄生するものがいます。
この5年くらいで南房総全体に広がったヤセウツボもそれで、最近では海岸のみならず、市内の市街地などでも見かけるようになり、先日はとうとう我が家の庭にも現れました。
10年位前に初めて根本海岸で見た時には絶滅危惧種のハマウツボだと思い驚きましたが、見かけるたびに主な寄生植物のカワラヨモギが見当たらないので怪しいとは思っていたのですが実はこのヤセウツボでした。
それが判ったのは比較的最近で、なんだかガッカリしたりしましたが…。

それでも海岸にニョロニョロのように生える姿は愛嬌があり、マメ科植物の根に寄生しているちょっと奇妙な生態も手伝ってどうも気になります。
帰化種との事ですが、南房総の海岸にはハマエンドウが沢山ありますから、これからますます増えてしまうのでしょうか?
あまり増えてしまうと気持ち悪いかもしれませんね…。

こちらはちょっと珍しい白いハマヒルガオ。
普通のピンク色のハマヒルガオは南房総ではほとんどどの海岸でも見られますが、この白い個体は滅多に見つかりません。
ここは小さな群落ですが毎年咲くので穴場ですが、念のため場所は伏せておきます。
シロバナハマヒルガオという和名もついているようです。
図鑑によるとハマヒルガオは北アメリカ西岸にも見られたそうで、黒潮の流れに乗って分布を広げたのだろうと想像すると感心してしまいます。

シロバナハマヒルガオ






海辺の草たちは潮風や砂の嵐などを受けて育つイメージから、丈夫だと思われがちですが意外とデリケートな側面があります。
例えば、本来、海岸に大きな動物が侵入する機会が少ないからでしょう、踏みつけには弱い種もあり、夏の間に植生の上にテントを張ったり、いつも人が通るところでは簡単に姿を消してしまいます。 そして、その隙に代わりの植物がどんどん侵入して来ます。
またハマボウフウのように食用として用いられながら栽培されていない種では海岸の山菜(海菜?)として採取されています。
最近は根っこごと掘り返して持っていく人が増えて減っていく一方でしたが、昨年、今年と放射能の影響で採取される事が少なくなったようで一気に盛り返しています。

スナビキソウ群落のヒョウタンゴミムシ そんな草の中にはいろいろな生き物が隠れています。 これから暑くなってくれば、そこはますます貴重な木陰になってきます。
植生の繁る砂地に暮らす昆虫は案外多く、ハサミムシの類、甲虫の類、クモの類、バッタの類と多様です。
写真のヒョウタンゴミムシなど大抵の者は暑い時は砂の中にもぐる事で暑さから逃れているようですがバッタなどは、このミクロの木陰が大切な様子です。

海岸の砂を重機で自由に移動するのが普通になっていますが、砂の中にも沢山の生命がいて、きっと何がしかの役目を果たしている事も頭に入れておく必要があると思います。

最近アサギマダラのマーキングでよく出かける海岸の草地ではキジの母子が棲みついています。 先日は足元から突然母鳥が飛び出してきてビックリしましたが、そばには写真のヒナがいました。 サッと1枚撮らしてもらって立ち去りましたが、なんだか悪いことしました。
別の日には珍しく海岸に猫がいるなあと思ったらすぐそばで、またキジが飛び立ちました。

草むらに隠れるキジのヒナ 猫はキジのヒナを狙っていたのでしょう。
自然界でコドモを育てるのって本当に大変そうです。
頑張ってほしいですね。

アカウミガメもそろそろ産卵シーズンです。
今年は少し早めに5月27日から白浜町根本だけ調べ始めました。
5月後半の上陸はありえるので、以前から気になっていました。
しかし今回は確認できず。
やはり例年通り6月1日スタートで良いのかな…と思ったりしました。
今年も沢山のウミガメに来てもらえるよう期待しています。








白浜町の海岸から望む伊豆大島 <カヤックツアーについて>

カヤックツアーですが、長いことお休みのままとなっています。
一時、大きめの地震がやや少なくなり、8月から再開という気持ちでいました。
しかしまた今月も後半になって24日に青森県、最大震度5強(M6.1)、29日には千葉県北西部、最大震度4(M5.2)など津波発生の可能性のある強度の地震がいくつか起きてしまいました。
気持ちが揺らいでいたところへ、これを書いている今日(1日)にも茨城で震度4(M5.2)が起きました。

震度4や5の情報に慣れてしまって、しかもしばらく津波が発生していないために気持ちが麻痺しがちなところがまた怖いです。
そもそもシーカヤッキング自体、絶対安全はない遊びなのですが、この地震頻度ではまだダメだと感じました。
気長に待ってくれているお客さんには申し訳ないのですが、もうしばらく様子を見る事に決めました。
ウミガメの季節ですので御希望頂ければウミガメ産卵調査体験などは行なえますので御相談下さい。

金環日食 シックスドーサルズとしての基盤であるカヤックツアーは中止していても、このページでお伝えしているように、付随して継続してきたホームエリアの環境記録は継続しております。
これはカヤックツアーと同じレベルで大切な根っことなる活動ですので、これからも断つ事無く継続していきます。

またお会いできるまでお元気でお過ごし頂けると嬉しいです。
これからもどうぞよろしくお願い致します。












参考

国立科学博物館、海棲哺乳類情報データベース「<932>千葉県館山市でザトウクジラ漂着」(2012年5月7日)
http://svrsh1.kahaku.go.jp/m/mm/?p=2828

国立環境研究所、侵入生物データベース「ヤセウツボ」
http://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/80370.html

日本の野草〈春〉 (フィールド・ガイド)  菅原久夫 著 小学館





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