カヤック日記


2013年3月の出来事


館山湾を飛ぶコアホウドリ 今月は久しぶりにコアホウドリを見ました。館山湾に吹き込んでいた強い南西風の海上を美しく飛翔していました。
カモメ類やミズナギドリ類とは違うと、ひと目で分かる大きな翼が目を惹きます。 広げた翼の長さは2m前後にもなります。
前回見たのはなんと館山市内の海岸道路でした。その時の様子は 2008年12月のカヤック日記 に書いてありますので、よろしければ見てみてください。 近くで見たその大きさはちょっと驚きでした。

コアホウドリの色合いは翼の上面が濃い灰色で胴体や頭部は主に白く、その近くにカモメなど身近な鳥が飛んでいないとサイズが分からずにカモメ類と見間違えるかもしれません。
冬季の関東では沖合いは通常の分布域で特に珍しい鳥ではないのですが、南房総の沿岸では見る機会が少なく、そういう意味では珍しい部類と言えると思います。
このコアホウドリのように繁殖の目的以外では陸に上がらない鳥は船に乗ってみるのが一番です。 銚子のマッコウクジラウォッチングではこのコアホウドリも見られましたのでお勧めです。 優雅な滑空を間近で眺めることが出来るすばらしい機会です。

南房総市南無谷に漂着したザトウクジラ 南房総市の東京湾側では、またザトウクジラの死骸が打ちあがりました。 全長が7.8mとまだコドモのメスで、今回も夏を過ごす餌場への旅の途中だったようです。
最近はこのような若い個体の漂着が続いていますが、今回のクジラには下の写真のように明瞭な網の痕が背中に残っていました。 定置網か何かの網に入ったのは間違いなく、断定はできませんがその死に関係していると考えるのが自然でしょう。

クジラは音によっても周辺環境を確認できますから網の反響音が聴こえるのでは?と思いますが、なぜ網に近寄ってしまうのでしょうか?
現場で知り合いと話していて思いついた事なのですが、最近、死体が揚がるのは若い個体が目立ちます。
もしかすると、網を初めて「見た(聴いた)」のであれば、魚も引っかかっている網は魚の群れのように見えるのかもしれないと考えました。
ザトウクジラのようなヒゲクジラは歯の代わりについているヒゲと呼ばれるフィルター(写真ふたつ下)を使って魚を群れごと食べています。

ザトウクジラの背中に残っていた網の痕 コドモのクジラが乳離れをして食べ物に興味が沸き始めた頃であれば、自然に魚の群れにも興味が沸き始めるでしょう。
そんな時期に網を音で見つけたとしたら思わず近寄って行ってしまうのではないでしょうか?

ザトウクジラが魚を食べるのは主に北の餌場の海に着いてからと言われていますが、若いクジラではどうなのでしょうか?
バブルネットフィーディングと呼ばれる、アラスカなどの餌場で見られるザトウクジラ特有の採餌方法があります。 鼻腔から出す空気の泡を使って数頭が共同で魚の群れを追い込み食べるというものですが、若者が参加するにはかなり難しいものだと思います。

それに参加するまでにどれくらいの時間が必要なのか分かりませんが、もしかすると旅の途上でも既に餌を追う練習をしていたりするのではないのでしょうか? イルカのコドモでも食べない魚を咥えて遊ぶようなことはしますので、ザトウクジラであれば少なくとも魚の群れがいたら追い掛け回すというような遊びくらいはしそうなものです。

クジラの「ヒゲ」 あ、魚の群れだ!と音で見つけたそれが網の迷路だったとしたら、判断力の無い若いクジラには対応しきれないのかもしれません。

それにしても千葉の南の海岸線にこれだけ多くのクジラが打ち揚がるとは改めて驚きです。 私が館山に越して来たとき、そんな事は想像もしていませんでした。
以前、小笠原で見たザトウクジラが遠くアラスカの海へ毎年泳いでいくという事は知っていましたから、毎年房総の沖合いをザトウクジラが通っていくことは想像できました。
それは数千キロに及ぶ旅なので様々な苦労があることも想像できます、もちろん死ぬものもいるでしょう。
それでも他のクジラ類も含め、あれだけ大きな生物がこういう頻度で死んでしまうという事は想像できませんでした。

これらの死の何割が今回疑われるような人間活動との関わりを持つのでしょうか? 人間が海で活動したり、海を汚していなかったとしたら打ち揚がるクジラというのは本来どれくらいの頻度で見られるものなのでしょうか?

市により現場で埋設処理されるザトウクジラ 胃袋から見つかるゴミとか、体の様々な場所から見つかる科学物質や網、船との衝突など…死に関係しているかはっきりしないことが多いようですが、間接的、無意識に人の生活がクジラに死をもたらしている可能性はもっと知られるべきかもしれません。

また更に、放射能の影響も気になります。 地球上の様々な海域で放射能の影響が既にあった上に、今となっては福島発の濃厚な放射能の影響も考えないといけなくなりました。
身近な海域でクジラが被爆していることを考えれば食べ物としてクジラを見ている人にとっても大きな問題でしょう。 もちろんその生態に影響を与えていないのか考えている人も多いと思います。

ザトウクジラは房総の沿岸を泳いで行った後、福島の沿岸も泳いでいくはずで、餌は食べないかもしれませんが何も影響がないと考える方が不思議だと思います。
これから先どんな変化が起きてくるのか分かりませんが、少なくとも捕獲できないザトウクジラのような種に関しては漂着死骸(ストランディング)は、そういう変化を知る上でも貴重な情報源だと思います。

ザトウクジラの埋められた南無谷の浜にたくさん咲いていたハマダイコン 今回のザトウクジラも陸に引き上げられて間もなく埋められました。
自治体にとってはお金のかかる厄介者ですが、人間の生活が影響して死んだのだとしたらそれを片付けるのも人間ですから仕方ないかもと思ったりしました。

野生動物より人の方がずっと少なかった大昔であれば、関東でもクジラが打ちあがった場合にはオオカミやクマ、鳥が集まって来てそれを利用していたでしょうか。
あとは骨が残って長い時間かけて分解されて無駄なく自然に戻るというもので、水中に沈んだ時にも同じようなことが確認されています。
こういう自然界の無駄の無い循環をなかなか人間は真似ることが出来ないでいますが、人間もいつかはきっと自然界には分解できない生産物とか、無駄な殺生とかをなくして生きていく方法を見つけていけるのだと信じたいものです。






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