カヤック日記


2013年8月の出来事


平砂浦海岸でウミガメ産卵調査中の一コマ。





















今年も8月いっぱいでウミガメの産卵調査を終えました。
館山市の平砂浦で5ヶ所、南房総市白浜町では14ヶ所、南房総市千倉から和田港の南までにかけては6ヶ所、合計25ヶ所のウミガメの上陸を確認できました。
白浜町の名倉海岸では上陸が確認できず、毎年連絡を頂いている海の家うみなりさんからの情報もなく今年は母亀が来なかったようです。

名倉のような小さな海岸に来ていた母亀が1頭だけだったとしたら、その1頭の母亀が死んでしまうだけで、その海岸は今後産卵地ではなくなってしまいます。
だからと言って産卵地でなくなってしまえばウミガメの産卵に配慮する必要がなくなるのでしょうか?
私は個体識別をしていないのでそれらの海岸に来ている母亀が毎年同一個体なのかは分かりません。 もしその母亀が来なくなっても、そのニッチにはちゃんと別の若い母亀がいつかは来るのかも知れません。
ですから上陸が途絶えたとしたとして、そこで調査をやめてしまっては意味がありません。 その後、どれくらいの空白期間があった後に上陸が記録されるのかについても興味を持つべきでしょう。
とにかく個体が失われても遺伝と数と環境が保たれていればアカウミガメ全体にとってはそれで良いのですから。 ともあれ、今はそれらの浜にウミガメが来続けている事の事実を記録することが大切と思っています。

根本海岸6/22産卵巣の近くで死んでいたアカウミガメの子。





















  18日に根本海岸で子亀の脱出が確認できた巣では多くの子亀が無事に海に到達できたようで、たくさんの足跡が波打ち際まで続いていて嬉しかったのですが、巣の周辺をよく見ると6頭の子亀が死んでいました。
最初見たときは大きな外傷もなく、うずくまる様に死んでいる姿が不思議でしたが、写真に撮って拡大してみてやっと気付くような小さなしかし深い傷が見つかりました。 鳥に突かれたのでしょう。
すぐ近くに住む人に聞いたところでは、その日の朝にはカラスやトビがたくさん集まっていたそうです。

朝になってしまったのなら焦らずに次の日の夜を待って出てきても良かったと思うのですが、何を焦っていたのでしょうか?
実際、次の日の朝にも子亀の足跡は増えていて無事に海まで到達していました。 危害を加えられながらも捕食されずに死んでしまった個体はそこに残っていましたが、実際に捕食された個体はもっと多数いたと想像できます。 これが自然な淘汰なのでしょう。

早朝の調査中に出会った若いハヤブサ。シギの群れを追い回していたけれど、ことごとく失敗…。





















明るい時間に巣から出てしまうような遺伝子は残らないし、注意深く次の夜を待つことのできる遺伝子は残されるということです。
しかし本当に人間の活動が影響を与えた結果でなかったのかは注意深く考えておきたいと思います。 誰かが巣を掘り返して巣の中で待機していた子亀を危険な朝の時間に巣から追い出したのではないか?とか。(過去には実際にそういう事がありました)
しかし巣の様子は子亀が出た後の窪み以外の変化は見られなかったので、その心配は消えました。
以前のように街灯の光に惑わされて…という事は今回はなさそうです。 ほかの足跡はほぼ真っ直ぐに海に向かっており、以前のように街灯のある海と反対の方向に向かった足跡はひとつもありませんでしたし、死んでいた子亀も巣より海側で死んでいました。

今月は多かった軽石の漂着。





















なによりも現在この巣に近い街灯は光を出していません。
近所に人が住むようになり、その効率の悪い横に向かって光を発する街灯が明るすぎて不快という事で一部の街灯は消されているのです。 この街灯は野島崎灯台をイメージしたデザインになっていて、おかげで正に灯台下暗し街灯になっていて、夜道を照らすという街灯の本来の機能を一切していません。
ともあれ今回のケースでは根本海岸では珍しく人為的ではなく自然な子亀自身の問題により淘汰が起きたと判断しました。

生き物にとっての脅威や問題が自然のものなのか、人が関係しているのかは大きな違いですが、見分けるのは難しいので注意深く判断するよう注意しています。
人が関わった問題の場合は、それを行った人が必ずいますので、その人が良かれと思ってしたことを非難することになる場合もあります。
しかし単純に起きたことを記録して、こういうことが起きていますという事を示せば分かってくれるでしょう。 その人もウミガメを殺したくてそれをやったわけではなく、知らなかったというだけの事でしょうから。
しかし自然に対して、子亀が食べられて死んでるからカラスは朝飛ばないようにしてくださいとか言えません。 人が関わらずに自然界で起きていることは全て正しいのですから。

こちらも漂着の多かったギンカクラゲ。潮溜まりに浮かぶ生態はとてもきれいでした。





















しかし視野を広げて考えるとウミガメの全体数が減っているのは人間活動の影響で、そのためにこの淘汰されるはずの子亀も保護しなければ数が保てないという事であれば自然界に代わってカラスを駆除したり、ウミガメの卵を安全な場所で孵化させて更には天敵が少なくなるサイズまで育てた後に放流するとかいう事をすることになったりします。
人がしたことの副作用を人が解決をするという事になりますが、これはますます混乱を進めていくことにしかならないと考えています。 人がウミガメを育てて海に放つというのはさらに人間活動の影響を拡大させているだけで、本当の意味でウミガメの将来を守るということにはならないでしょう。
カラスを敵視するなんていうことは本当におかしなことで海辺のカラスにとってこれらの子亀は代々活用されてきた、この季節に時々得られる貴重なタンパク源なのかもしれません。
ウミガメに起きたことを判断、解決するために直接関わることを極力避けるために私の調査では最近はウミガメの卵を見ることもしていません。 ウミガメを調べることでまた、その環境に人の影響が加えられているということにはしたくないのです。

今年も活発なヤマトマダラバッタ。ただし環境の優れた一部の海岸のみで。





















母亀が用心深く埋めた卵(巣)は我々では感じ取れないくらいにデリケートにウミガメの本能に刻まれた方法で埋められたものですから、卵の有無を確認するというだけのために人が巣を掘り返すことがどれくらい悪いことなのかは実際のところ分かりません。 産んであったかどうかは母亀が上陸してきたという事以上には重要なことではないように考えています。
産まなかった理由は知りたいのですが、それを調べるために卵に影響を与えるのは本末転倒でしょう。 もし卵を確認するのであればシーズンを終えてから巣を掘り返すのは正しい方法だと思います。

しかし、それさえも今度は孵化に失敗したウミガメの卵を食べて暮らしている小さな生き物に影響を与えることになってしまいます。 以前行っていた孵化率調査では孵化に失敗した卵の多くが何かしらの生物に食べられ活用されていました。
それらの生物に取り込まれるのは砂浜の標準的なエコサイクルでしょう。 とにかく最近はできるだけそういう自然の行いの中に手を突っ込まずに見えることだけを記録していきたいと思うようになっています。

波打ち際に映り込んだ朝焼け。





















写真:上から
平砂浦海岸でウミガメ産卵調査中の一コマ。
根本海岸6/22産卵巣の近くで死んでいたアカウミガメの子。
早朝の調査中に出会った若いハヤブサ。シギの群れを追い回していたけれど、ことごとく失敗…。
今月は多かった軽石の漂着。
こちらも漂着の多かったギンカクラゲ。潮溜まりに浮かぶ生態はとてもきれいでした。
今年も活発なヤマトマダラバッタ。ただし環境の優れた一部の海岸のみで。
波打ち際に映り込んだ朝焼け。



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