カヤック日記


2014年3月の出来事


漂流する重油。(大房岬沿岸)




















写真:漂流する重油。(大房岬沿岸)

今月は重油流出事故が目の前の東京湾湾口で起きてしまいました。 沈没位置は南房総市の勝山港の真西約10qの海上です。
勝山は房総捕鯨発祥の地で過去には東京湾内でツチクジラを捕獲していましたが、幸か不幸か今ではツチクジラがここにやって来ることは稀なので重油の影響を受けることはないでしょう。
過去にも私の知る限り1回は同じく東京湾湾口で油を積んだまま船が沈み、流出、漂着が起きています。
その船内の重油は回収不能でしたので、まだ海底の船内には重油が残されているか、徐々に流れ出ているのでしょう。
今回の事故では更に複数の行方不明者が見つかっていません。
目の前の海でこういう事故が多発しているのは悲しい事実です。

※前回重油漂着時の日記(2006年4月)

今回の重油は春の強い南の風に流されて主に富津までの東京湾外湾の北端までに広がっているようです。
沈没地点から比較的近い館山市や南房総市東京湾岸にも打ち揚げがありますが、想像したよりも少なくなっています。
とは言っても安心できる量ではなく、地道に回収作業をし続ける覚悟が必要でしょう。
沈没地点からは南に位置するうちの艇庫がある塩見の海岸でもかなりの量が上がっていることが分かり回収を行いました。

館山市が設置した重油回収所。(沖ノ島)























写真:館山市が設置した重油回収所。(沖ノ島)

回収前に重油処理の正しい処理方法と市の対応について館山市の問い合わせたところ、なんと当初重油のボランティア回収は禁止されていたことを知りました。
なんの為かというと補償の問題で、つまりお金の問題です。
どれだけの損害、被害が発生したのかの最終的な量を確認したうえで初めて回収の作業が始められるという考えです。
そうこう言っている間に砂浜には打ちあがった重油の塊が砂に埋もれることを繰り返しています。
このまま放っておけば一見したら汚れていないかのように見える状態になった事でしょう。(それを待っていたのかもしれませんが…)
実際回収で砂浜を歩くと目の前をよく見て重油を探して歩いたにもかかわらず、終わってみると靴の裏は重油だらけでした。
砂の中には表面的には見えない重油がたくさん埋もれていたのです。

自然分解にも限界がありますから、取れるだけ取ったうえで仕方なく最後には自然の力にお願いするというふうに考えるべきです。
重油は産業廃棄物扱いで、燃えるゴミでは出さないようにしなければならないので、26日になってやっと館山市はボランティアが利用できる重油回収用の袋の設置を行いました。
南房総市は確認していませんが、館山市では船形の崖観音下の海岸、八幡、北条、沖ノ島、坂田のそれぞれの海岸に立札と共に設置されているとのことです。

富浦南無谷の海岸で波待ちする人と漂流重油対応していると考えられる海上保安庁の船。




















写真:富浦南無谷の海岸で波待ちする人と漂流重油対応していると考えられる海上保安庁の船。

それにしても船が沈んでから一週間も経ち、重油の流れ着きが他所で確認されてから数えても何日も経っていながら回収を行わないという市の判断には驚かされました。
ボランティアはともかく、市は漂着を確認していながら(調べていなかった?)この春休みに重油の流れ着いた海岸に遊ぶ子供たちのことを市は考えたことがあるのでしょうか?
海上保安庁からの指示だからと自らの考えや安全対応は一切なく、上からの指示をそのまま受け入れる情けなさ。
ボランティアを希望する人と海岸に訪れる観光客の安全と漁業者の生活を後回しにして補償(おかね)と御上との都合だけを考える姿勢には相変わらずの館山市を見た思いです。
館山市が館山の自然や観光に訪れる人のことに全く興味がないことは住んでみると良く分かります。
海や自然はそこにあって当たり前で、そこに遊びに来る人は市の歓迎するべき客人であるという事も理解できていません。
それがお金になるかどうかにしか興味がないのでしょう、自然と、その自然を求めて観光に来る人々に興味を持つのはお金になる時だけです。

館山の砂浜に遊びに来た方で靴が汚れたり、お子さんが誤って重油を触れてしまった場合などには館山市の苦情を入れてください。
目の前に現場がありながら、一切見ることなく海上保安庁の言葉で対応を決めるような市ですから、そういう事例を直接耳にしても届くのか心配ですが、届けないよりは良いでしょう。
市が、管理は県や国のものだからと言うならば、なぜ館山市は県に早急な漂着重油除去の依頼をしないのかを問いただす必要があります。
でなければ海岸への一般出入り禁止を厳しく行うべきでしょう。
一番近くにいる市が状況を把握し上へ対応を要求するのが正しい順番です。
そしてもっと悪いのは海上保安庁です。
海上を保安する庁という名称ですが、海上を保安しているといいながら、海上にいる人や海上の生物への影響や海上の延長である海岸に近づく人々の安全にも無関心です。
沖で漂流重油の対応をしている海上保安庁の船は見えても、そのすぐ沿岸でサーフィンをしている人への注意喚起もありません。
重油は毒物です。

館山市でのワカメ狩りの様子。カタクチイワシが浅瀬に寄ってユリカモメも集まっています。重油漂着直前の豊かな館山の海。




















写真:館山市でのワカメ狩りの様子。カタクチイワシが浅瀬に寄ってユリカモメも集まっています。重油漂着直前の豊かな館山の海。

写真は3月初めのワカメ刈りの様子です。
事故が起きた18日以降もワカメは大量に葉を広げていますが、採取は行われていない様子です。
ヒジキ刈りも今年はどうなるのでしょうか?
2006年のようにヒジキが刈れないとなれば漁業者にとっては大きな損害でしょう。
ヒジキなど水面近くの海藻の中に暮らす生物たちにとっても大きな問題になるでしょう。
また漂流する重油は水面にある細かな有機物を吸着しながら漂っていました、漂流する大きめの有機物は逆に重油を絡め取りながら流れ、漂着していました。
これらの油の付着した漂流物を雑食性のウミガメなどが食べてしまった場合の問題はどのようなものなのでしょうか。
海鳥も特に水面で暮らす種については油の水面に一度舞い降りたら最後、二度と飛び立てないという事も起きるかもしれません。
飛べないという事は鳥にとって死ぬという事ですので、ウミスズメ類など数が少ないとされている種に関しては特に心配です。

さて先月お伝えしたハヤブサの繁殖についてですが、こちらは順調のようです。
一応巣のそばに親が留まっている姿は確認していますが、巣の中の様子も分かりませんし、デリケートな時期にあまり行っても良くないので観察はほとんど行いませんでした。
そろそろヒナの鳴き声とかも聞こえるかもしれませんので、4月はもう少し観察頻度を上げたいものです。
しかしここも沈没海域に近い場所なので、間接的に繁殖に油が影響しないかは気にしておく必要があるでしょう。
ここのハヤブサは主にハトなどの鳥類をエサにしている様子なので直接海に関わりはないのですが、予想しなかった影響があるかもしれません。
またそれを確認することも難しいですが、できるだけ観察から得られる様子を大切にしてしっかり見ておきたいと思います。

巣近くで監視中のハヤブサの親鳥。




















写真:巣近くで監視中のハヤブサの親鳥。

関東にも放射能があるのが普通になってしまった今、これ以上の環境に毒物を撒くことを避けなければ生き物の生活の場がなくなり結果として人の住める環境もなくなってしまうかもしれません。
非常に発達した運送の利益を受けているのは運送に関わる会社だけではありません、国内のほとんどの地域では一日で、海外からでも短い時間で個人的な輸送ができる世界に暮らしているのですから、我々自身の問題でもあります。
カヤックを漕いで海に出ればしばらくは重油の漂流に出くわすでしょう。
しかし毒物ですからツアー中に漂流重油回収をお勧めしません。
重油から揮発する成分は毒性が強いそうです、海上で匂いがしたらできるだけ早くそこから離れる対応をさせて頂きます。
回収作業を行いたいと考えられるお客様もいるかもしれませんが、申し訳ありませんがツアーでは安全確保のために回収を遠慮して頂きます。
どうぞご了承ください。

ただしツアー終了後の海岸で重油が見つかった場合にはツアー終了後の、あくまで個人的な活動として回収して頂ければ私の方で回収重油の方は処理しておきますので、よろしくお願いいたします。
私の方でも時間を作って時々海岸の重油漂着状況をしばらくは監視し、除去を続けていきたいと思います。
ツアーではできるだけ安全できれいな環境を選んで楽しんで頂きたいと考えています。
風が強い日があまりに多いですが、気温は十分に上がり、風さえ止めば心地よく漕げる季節になりました。
皆さんのご参加お待ちしております!

岩場に見られる赤く色づいたタイトゴメ。




















写真:岩場に見られる赤く色づいたタイトゴメ。




関連リンク

館山市ホームページ「貨物船沈没により流出した油の処理について」3/28


FNN「貨物船事故で流出の重油が千葉県海岸に漂着 海の幸に影響」03/20 18:31


ちばとぴ「『今年の収穫もう駄目』 油漂着に漁師らため息 貨物船衝突事故 富津」3/21 09:39


msn産経ニュース「流出重油漂着の恐れ…東京湾の潮干狩り場閉鎖 富津漁協」3/30 15:58


独立行政法人製品評価技術基盤機構「流出石油が環境に及ぼす影響」




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