写真:シケの海を往くオオミズナギドリたち。
この季節はいつも決まった生き物たちのことを書いているのでマンネリなところもありますが、毎年必ずそれがやって来るという事は実はすごいことだと時々感じます。
私がいつも気にしているものとしてはハヤブサ、オオミズナギドリ、アサギマダラが飛び、スナビキソウ、ハマエンドウ、ハマヒルガオが咲きます。
房総の海に行けば、出会える可能性の十分あるものばかりですが、少し気にしないで数年経ってしまっただけで、その場所から全く失われる可能性のあるものもあります。
それでいて一見しただけでは他の似た生物、植物と見分け難く、草なら「雑草」として、鳥なら「カモメかタカかなんかだろう...」という程度の扱いで過ぎていきます。
南房総に見られるような美しい自然的な海岸にも「的」を欠かす事が出来ないほどの手が加わっています。
太古から人為的な影響を与えられずに今に残る砂浜海岸は日本にはもうないのでしょうか。
少なくとも千葉県ではほぼ見られないと言って良いと思います。
写真:スナビキソウ群落。
その名の通り水辺に最も近い場所に群落をつくり地下茎を通年保ち砂を引き寄せ保ってくれています。
運よく残された一部の海岸は厳しい海辺の環境により開発を免れているというだけで、確保しようと意識的に考えなければある日簡単に消えてしまうでしょう。
砂浜や磯は人がアクセスしたり開発しやすいために心配も多い一方、目の届きやすい場所ですが、アクセスの困難な海辺の断崖では例えば巣を営むハヤブサもいます。
ほぼ毎年私が観察していた、あるハヤブサの繁殖地では今年は何かしらの理由で繁殖が失敗したようです。
恐らくいつもと同じツガイと考えている2羽はこの春、少なくとも2ヶ所の巣を放棄しましたが、その後に新たな巣をつくったことを確認できていません。
近くでは重油の流出がありましたし放射能もありますので、目に見えにくい原因も想像できますが実際のところは分かりません。
もっと単純な理由だったかもしれません。
写真:和田町で見つかったウミガメの上陸足跡。
5月の終わりになると産卵にやって来るウミガメはさすがに目立つ生き物で、大切にされる生物の代表になりましたが、残念なことに鳥や草とは違い陸に暮らす人にとっては遠い存在と思われています。
しかし実のところ都市部の人たちが週末にドライブに来る海岸、毎年利用していたいつもの海水浴場と言った、ありきたりな場所こそが希少な産卵地だということ、生き物そのものが希少になったのは、その生き物が繁殖を安全に行う事ができる場所が希少になったからだという事にもなかなか気づいてもらえません。
昼間海水浴で賑わう砂浜に夜、全長が1m近くにもなる大きな爬虫類が歩いているという事を知らずに過ごす人が大多数というのが少なくとも千葉県の実情です。
もちろん知らなくてもよいのですが、知らないために知らず知らずにウミガメの邪魔をしているということにも気づかないで過ごしてしまう事になっているようです。
具体的な問題はいろいろありますが、まずはどこの海水浴場にも日本で最大の爬虫類が夜な夜なやって来ている(かもしれない)ということを想像しながら海水浴を楽しんでもらうという事が大切のような気がします。
実際に何をどうした方が良いのかは個々がそういう想像を膨らませていけば良いと思います。
30日にはいつものウミガメ産卵調査エリアよりも北の海岸線でクルマを走らせていたところ、道路からチラと見えた砂浜に足跡を見つけ記録しました。
ここも産卵地だという事は分かっていましたが、シーズンにはどうしても手が回らず調査地から省いてしまっている場所です。
今回見つかった足跡は防波堤、河口の護岸、松林保護、海岸道路保護の為のコンクリート構造物に行き当たった末、周辺を歩きまわりながら4か所の巣穴を掘りながら母亀はどうやら産卵せずに海に帰っていました。
4か所目の巣痕(ボディーピット)には産卵の可能性が少しありますが、少なくともすぐに産卵適地が見つからない問題のある場所だったことは分かります。(現在卵の掘り出し確認は行っていません)
写真の足跡を見て頂き、このカメが何を気にしたのか想像してみてください。
そしてすぐ上の道路では人々が海がそばにあることが忘れられてしまったかのような景色の中でクルマを走らせています。
写真:水面すれすれを滑空する愛嬌のある顔をしたオオミズナギドリ。
カヤックを漕いで出たある日にはオオミズナギドリが比較的岸近くの凪の水面で大群をつくっていました。
多分、この下ではカタクチイワシが群れていたのでしょう。
その中を大きな魚がイワシを追っているのが想像できます。
オオミズナギドリは水中に潜って魚を捕りますが、先日の船舶沈没による流出重油が一応ほぼ見られなくなってからやって来てくれて本当に良かったと思いました。
もし油の海面に潜ってしまったら翼に油がついて、生存に大きな影響を与えたことでしょう。
オオミズナギドリは風が強い日にはむしろ活き活きと飛びます。
内房の凪の海で間近に見るよりも、一番上にある写真のように外房でシケの日に大波の中を滑空する姿の方がイメージしやすい鳥です。
飛ぶのも早いですし、それでなかなか近くで良い写真が撮れずにいましたが、この凪の日は沢山撮らせてもらえました。
水面にカヤックで浮かんで鳥を撮るのはなかなか難しくて面白いのですが、これをしている時はまさにハンティングの気分での撮影になります。
銛を投げるようにシャッターを押します。
写真:海上を飛ぶアサギマダラ。
そういえば鳥ではなくてチョウも水面上をよく飛んでいますが、先日は念願のアサギマダラの海上での飛翔を撮ることができました。
幾度か機会はありましたが、コンパクトデジカメでは難しく、この日はたまたま一眼レフを持って漕いでいたので思ったように撮ることができました。
海を渡ってくるアサギマダラが目指す数百メートル先にはスナビキソウ群落がありました。
スナビキソウがなくなればこの海岸を目指して来てくれるアサギマダラも見られなくなってしまうのでしょう。
写真:スナビキソウの葉の表面を舐めているアサギマダラ。
花の蜜だけでなくアルカロイドの一種を摂取していると言われています。
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