カヤック日記


2014年7月の出来事


カヤック浮遊の術!





















写真:カヤック浮遊の術!

今月はイルカ関係の出来事が2回もありました。
まず23日には館山市館山湾内の見物という海岸にコマッコウというハクジラの一種、つまりイルカの仲間が生きたまま浅瀬に乗り上げるという事(ライブストランディング)が起きました。
私はたまたま現場を通った知り合い数人から電話をもらい、そのことを知りました。急いで準備しましたが現場に着くまでに30分以上経っていたと思います。
普通、海の生物が生きたまま陸を目指すというのは異常な事ですが、鯨類に関しては時々起きる事です。
ただこれが太古の昔から、人が近代的な生活を始める前の環境を乱していなかった時代にも起きていたことなのかは疑問を感じます。
少なくとも近年のような高い頻度で起きていたのかは怪しいのではないでしょうか。

しかし館山湾に群れが泳いで来たり、浅いところを自由に泳いでいたという事は昔は普通に見られたことでしょう。
まだ個体数が十分で、人に捕獲される可能性も低く、餌も豊富だった時代に豊かな湾内へイルカやクジラが入って来るのは極自然な事と想像できます。
館山湾にはイルカを捕まえて食べた形跡の残る遺跡や海岸にはイルカの耳小骨が比較的高い密度で見つかっていたりと、実際にイルカの来遊が多かったことを示すものが残されています。
多数のイルカの耳小骨は太古のマスストランディング(多数生存漂着)を想像させますが、岸寄りを泳いでいたイルカを捕まえて岸辺で捌いた形跡ではないかと思われます。
今回コマッコウが打ちあがった海岸線の延長上の坂田海岸でも過去にやはりコマッコウが生存漂着していて、死亡後に発見し国立科学博物館に報告、次の日に浜で解剖が行われました。
これは私が実際にストランディングの調査に直接接した最初で、館山湾でコマッコウというとこの時のことを思い出します。

※「海棲哺乳類ストランディングデータベース」坂田、コマッコウ×2、2001年12月15日

浅瀬に乗り上げてしまったコマッコウ。目を見ると哺乳類なんだと実感します。



















写真:浅瀬に乗り上げてしまったコマッコウ。目を見ると哺乳類なんだと実感します。

今回のコマッコウは発見された23日夕方にブルーシートを用いたりして、近辺のダイビングサービスの方などと沖出しをしましたが、何度沖に出しても必ず岸に戻ってくるという事を繰り返しながら20時過ぎまでトライし続けました。
最後は沖の闇に消えて、なんとかこのまま沖に泳いで行ってほしいと願いましたが、結局24日朝に死んで漂着しているところを地元の方が見つけ、船で曳航し港に繋いでありました。

ここの地形は海岸線が東西に長く伸びており、ほぼ真北に東京湾湾奥が望めます。
もしイルカが日本の太平洋岸の海岸線に沿って東に向かっていたとすると、三浦半島先端から東へ東京湾を渡り、房総半島西岸に当たります。
そこで北上すると東京湾内湾へ入り込んで迷い、南下しようとすると館山湾の鉤状になったこの場所で一旦西に向かわなければ、それ以上南に(もしくは東に)行く事が出来ず、混乱するのかもしれません。
例えば人でも千葉市などから房総半島西岸を車で南下して来た人が、気づいたら自分が西に向かっていた事に気付き戸惑うという事が良くある場所でもあります。
とにかく、この個体は沖へ、つまり北方向へ追い出すとUターンしてまた岸(南、やや南東方向)へ戻ってくるという事を繰り返していました。
いっそのこと船にでも載せて太平洋側の沖で放してあげられれば良かったのは分かっているのですが、とにかく時間がなく、情報があった時点で日没が近く、人も少なく、できる事が限られていました。
しかし以前、館山市の太平洋岸でも同じように岸を目指して幾度も戻ってくるコマッコウがいましたので、地形に関わらず岸を目指してしまうということもあり実際のところは不明です。

今回も死亡が確認された時点で国立科学博物館のグループが調査に来ました。
2001年以来、幾度か現場に参加させてもらったことで今は解剖の手伝いを少しだけ出来るようになりましたが、毎回知ることがあり無駄になることがありません。
コマッコウの死は残念でしたが、早い段階で調査ができたことにより、更に彼らの生態を知ることで、人が彼らの生活にどんな影響を及ぼしているのかを理解する機会になったのだと考えています。

※前回のコマッコウライブストランディングは「2010年6月の日記」をご覧ください。

ライフセーバーと過ごすイルカたち。



















写真:ライフセーバーと過ごすイルカたち。

もうひとつのイルカな出来事はストランディングではなく、元気なイルカの群れでした。
今月中ごろから、あまりはっきりしないレベルの情報があったのですが、28日の朝早くに運良く見つける事が出来ました。
ちょうどライフセーバーが朝練をしているところで、彼らは写真のようにかなり近くで観察していました。
私は岸からでしたが、彼らとイルカとの距離感やイルカの行動から感じられる好奇心が分かり、離れて見ていてもワクワクしました。
その後、カヤックでも捜索などしてみましたがイルカは見つかっていません。
遠目の写真でしかないので種は不明ですが、ミナミハンドウイルカのように思います。
また数は5頭ほどでした。
以前、確認した群れが戻ってきた可能性がありますが、まだ何もはっきりした事は言えない状況です。
位置についても漁業者との関係で問題が発生することを心配しており、少なくともインターネット上で発することはできない状況です。ご了承ください。
8月以降も是非長居してもらって、今回もしっかりと個体識別記録を残したいものです。

※前回のミナミハンドウイルカの群れについては「2012年7月の日記」をご覧ください。

海の家を目指すかのように上陸したウミガメの足跡。前回来たウミガメの巣に、ここの海の家の人が柵を作ってくれたので安心と母亀の間で噂になったのでしょう。(笑)




























写真:海の家を目指すかのように上陸したウミガメの足跡。前回来たウミガメの巣に、ここの海の家の人が柵を作ってくれたので安心と母亀の間で噂になったのでしょう。(笑)

ウミガメの調査も順調です。
ただし根本海岸の上陸がとうとう7月にも確認できませんでした。
そろそろ周辺の巣では孵化が始まる時期ですが、これほど遅くなったのは初めてで、内心大変心配しています。
「根本海岸最後の産卵は2013年でした。」という事になってしまわないよう願いたいと思います。

一方同じ白浜の名倉海岸では例年の上陸数が0か1なのですが、今年は先月に続き2回目の上陸が確認できています。
今月20日の上陸ではいつも情報を伝えてくれる海の家「うみなり」さんの敷地に産んでしまい、営業に差し支えるという事で例外的に卵の移転を行いました。
卵の数は128個で奇形の小さなものが1つありました。
たまたま居合わせた海水浴に訪れたご家族と白浜ライフセービングクラブのみんな、そして海の家の渕辺さんとで作業を行いました。
私の調査ではいろいろ試してきた結果、「卵に触らない」、「親亀に極力遭遇しない」、「柵をつくらず自然のままを保つ」を基本方針としてきましたが、臨機応変に対応することは周辺の理解を得るには必要なのだと改めて感じました。
移転作業をしない方針であったためにほとんど経験のない状況での作業でしたので不安もありますが、皆で協力して出来るだけのことをしましたので、どうか無事孵化し海へ帰ってほしいと思います。
名倉海岸の巣に関しては、「うみなり」さんの目も届きますし、狭く人口密度の高い海水浴場ということもあり、うみなりさんにより柵が設けられています。
先月の巣に隣り合わせた場所に移転しましたので、是非どんな場所なのか見に行ってみてください。

シロヘリハンミョウ。



















写真:シロヘリハンミョウ。

もうひとつ地味なニュースではシロヘリハンミョウの生息地を見つけました。
やや希少な種ですが、やはり生息環境は自然度がとても高い貴重な場所でした。
海浜というのは細い線状の生息地ですから、山や平野などで暮らす生物に比べて暮らせる場所が狭く分断され易い環境という事になります。
また日本では海岸線は人の暮らしに影響を受けやすく自然のままの海岸線は断崖で海に接しているところだけとなってしまいそうです。
緩やかな砂浜と海浜植生の茂る広々した後浜、砂丘が残っている場所を残す努力が必要です。
今でも残されている自然度の高い海岸は不便なところでもあり、それで開発から運よく逃れる事が出来ているのですが、不便なアクセスをしてでも行ってみると、そこは人がとても落ち着ける場所でもあって、特に海からのアクセスが出来るカヤッカーには欠かせないキャンプ地でもあるのです。
だからカヤッカーは率先してそういう場所を使い、見て、知り、保つという役目があるのかな…と思ったりします。

「レッドデータ検索システム」シロヘリハンミョウ 

スカシユリの群落。





























写真:スカシユリの群落。




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