カヤック日記


2014年8月の出来事


波を被り濡れている子ガメ。





















写真:波を被り濡れている子ガメ。

今年も無事ウミガメの産卵上陸調査を終えました。
いろいろありましたが、やはり調査の中心地としている根本海岸で一度しか上陸がなかった事の印象が強いです。
31日まで、まだ来るかもしれないと思っていましたが無く、残念な気分になってしまいました。
周辺の漁師さんや知り合いなどに話しても、海岸の騒がしさがいけないのだろうという話になりますが、キャンプ場の存続とウミガメの産卵地としての役割のどちらかしか選べないとしたら、どちらが大切かはそれぞれの価値観の違いが影響し結論は出ないかもしれません。
世界中の人に投票してもらえたとしたら、恐らくウミガメに多くの票が入るでしょう。
しかし、それを決めるのは当事者でなければならないと思います。
単にキャンプ場が騒がしいというだけでなく、キャンプ場の何が具体的に悪いのかを考えて対策を進めれば、もしかすると両立ができるかもしれません。
私はやはりキャンプシーズンに海岸に増設される灯りとトイレの光、花火が特に悪いと思っています。
また子ガメの死因としては道路の街灯に引き寄せられる事で海岸に辿り着けないだけでなく、道路まで出て行ってしまい轢かれたりドブに落ちてしまうケースなども確認できていますから、光についての対策だけで多くの問題を解決できるはずです。

夜の根本海岸。増設された海岸の街灯と奥にあるトイレの明かりが特に強い。



















写真:夜の根本海岸。増設された海岸の街灯と奥にあるトイレの明かりが特に強い。

もし、近い将来ここにウミガメがやって来なくなったとしても上陸と産卵の記録はこの10年ほど残せましたので、いつからウミガメが来なくなったのかは将来的にも明確にできます。
後世の人たちがどう考えるかを想像しながら今の行いを考えてみる必要があるでしょう。
記録を残して実際に起きたことを後世の人が見てくれて後悔もすることで、その時代は今より良くなるかもしれません。
時間が後戻りしない事を実感し、環境の改変がこれ以上進まないように気にかけてくれるようになるかもしれません。
もちろん、それが今この時ならもっと良いのですが、ここにウミガメがいなくなるという事の意味を理解することができないのは、ウミガメがまだ来ているからでしょう。
来なくなってしまえば分かることです。

植生内で迷っていた子ガメ。



















写真:植生内で迷っていた子ガメ。

子ガメが海に無事辿り着くかは母ガメの産卵した場所のセンスによって運命を左右されます。
子ガメ自身の能力ではどうにもならない場合があります。
例えば母ガメはどうやら人工光のあたる場所を避けて産卵している様子です。
そうすることで光に向かって歩いて行ってしまう本能を持つ子ガメが光に惑わされることが無いようにしておきたいという本能的な配慮なのかもしれません。
また母ガメは台風の時にも波の押し寄せない場所を選んで産卵しようとしています。
しかしあまり海岸から離れていたり草の中に産んでしまうと、巣から出てきた子ガメは海を見つけられずに迷ってしまうことがあります。
それでも本来の自然な元々の姿の海岸で緩やかに広がる砂丘であれば問題は起きず、傾斜に沿って引力に逆らわずに歩けば海に至るのが普通でしょう。
今回は海岸道路の海側手前に出来た半人工的な砂丘のやや複雑な傾斜によって海が見つけられずに海浜植生の中で迷ってしまっていたケースが確認できました。
砂丘の海側と山側を分断する形で海岸道路が出来ることで砂丘は急斜面になり、道路の手前では山側に下る形状になりやすい事が問題となっています。
その面に産卵した場合、子ガメは道路の方へ降りて行ってしまう事になります。

植生の中で迷っていた子ガメを浜に放ち、自分で歩かせ海に辿り着いた後に浅瀬を泳いでいるところ。



















写真:植生の中で迷っていた子ガメを浜に放ち、自分で歩かせ海に辿り着いた後に浅瀬を泳いでいるところ。

「海岸は海に向かって下っている」という事を大前提として子ガメの帰海行動が行われているという事になるでしょう。
今回は試験的に、海岸に流れ着いていたもので簡単な子ガメの誘導路を作ってみました。
子ガメの脱出は二日くらいに分けて起きる場合が多いので、今回一日目に迷ってしまった兄弟の二の舞を踏まないようにと試してみました。
実際に脱出したのはどうやら一匹だったようですが、無事誘導に従って海に辿り着いた様子でした。
今回の誘導路を作る際にとても役立ったのは、この巣より数日前に脱出が確認できた巣で、たまたま脱出痕記録中に巣からひょっこり出てきた子ガメの行動をじっくり観察できたことがあります。
この子ガメは様々な障害物に向かって行き、その都度様々な対応を見せてくれました。
一度は砂ガニの穴に落ち上がって来れずに助けたりしましたが、カニの穴が罠として役立っている可能性や、障害物を目視して予め避けるという事をしないこと、乾いた海藻など複雑な形状のものにはかなり手こずることなどが分かりました。
こういう観察は通常の脱出時間帯である夜間では観察が難しく、ライトを当てれば自然な行動が阻害される上に一匹の観察に集中しすぎると他の個体を踏み潰しかねない状況です。

子ガメ誘導路。手前の囲いの中央が巣穴の位置。





























写真:子ガメ誘導路。手前の囲いの中央が巣穴の位置。

今回出てきたのは一匹であった事で観察に集中しやすく、目視しやすい日中に、巣から出てきた所から海に至るまでをほぼ自然な状態で観察できたことは、今回の誘導路だけでなく、今後様々な場面で役立ちそうです。
具体的に子ガメは何センチまでは越えられるとかいう感じではなく、感覚的に自分が子ガメだったら「これは越えられない」とか「先の事は考えない」という子ガメの歩き方を子ガメになった気分で以前よりはっきりと想像できるようになりました。
以前にもドブに落ちてしまっていた子亀や道路を歩いていた子ガメを拾って砂浜に戻し、海まで歩かせたことは幾度かありますが、やはり弱っていたり、既に一度迷った個体はどうも行動がおかしいのではないかと感じる事が多かったのです。
やはり今回の健全な状態の子ガメを見た後ではやはり普通では無かったのだと分かります。

白浜町では海岸道路の街灯が古くなったことなどから徐々に交換が行われており、それはLEDの街灯になってしまっています。
白浜だけでなく南房総の砂浜は全てウミガメの産卵が行われる可能性のある場所ですから、ついでに全ての街灯を低圧ナトリウム灯(オレンジ色の電球)に変えて、海岸近くの自動販売機は禁止するなど光源規制をしてウミガメの町であることに誇りを示してほしいと思います。
しかしいつも身近にいるのが当たり前なものがいなくなった時の寂しさは、やはりその時にならないと分からないのでしょうね。

今月も現れたイルカたち。



















写真:今月も現れたイルカたち。

最終日の31日には先月に引き続きイルカを確認できました。
この夏はかなり低い頻度ではありますが、時々現れていたようです。
しかし実際に出逢える可能性が低く、定期的な観察に至っていません。
9月は時間があるので、もう少し距離を縮めたいと思っております。
今回撮れた遠目の背ビレの写真でもある程度の特徴は掴むことができ、2012年までに見られていた個体も含まれているようだと分かりました。
正確な事はちゃんとした写真を撮ってからここでご紹介できればと思っています。

他にはやはり最終日の和田でのウミガメ調査中に南房総で私が観察できたのは初めてのセイタカシギの幼鳥を確認しました。
ここ数年はこのエリアでのミユビシギのオーストラリアからの渡り個体が見られずにいましたが、久しぶりに見慣れない鳥に逢えてとても嬉しく撮影しました。
セイタカシギ自体は例えば千葉県でも谷津干潟などに行けば普通に見られるはずですが、自分の定点観測地で確認するという意味に喜んでいます。
そして何よりとても美しい鳥でした。
こういう当たり前でない出逢いが面白く楽しい一方、いつでもいるものや、いつもの場所の貴重さを忘れることなく、身近とは言っても全てを知っているわけではないという事を忘れずに、見続けることの大切さを忘れないようにしていきたいと思います。

長い脚がステキなセイタカシギ。深い水溜りでの餌探しが得意ですね。



















写真:長い脚がステキなセイタカシギ。深い水溜りでの餌探しが得意ですね。






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