写真:海上を渡っていくウミウと海上で餌探しの合間に休むユリカモメとウミネコたち。
この1月はウミスズメ探しを目的にして漕いでみたのですが、結局ウミスズメには逢えませんでした。
以前には冬になるとある一定のエリアには数羽の小群が見られ、大きな群れが館山湾のあちらこちらにいたような珍しい日もありました。
※ウミスズメの群れについて。2009年1月の日記
このような状況にはその後は遭遇していないですが、これが1月の出来事だったことを考えると、やはり同じ時期に可能性が高くなるだろうと思います。
ただ海の条件と予定が合わないと、冬に凪の海であの小さな鳥を探すという好条件には恵まれないので、簡単ではないのも確かです。
きっと今もどこかで元気に群れているのだろうと思いたいと思います。
ただこの1月には対岸のアメリカ西海岸でウミスズメの仲間であるアメリカウミスズメが1200羽も死んで打ちあがるという事が起きています。
死因は餓死と言われていますが、これほどの数が死んでしまった要因があるのであれば日本沿岸のウミスズメ類にも同じような影響があって不思議はないように思います。
アメリカで打ちあがったのは全体のうちのほんの一部でしょうし、海流や地形など漂着しにくい条件が重なれば同じようなことが起きていても人には気付かれずに過ぎていっているかもしれません。
写真:ウミスズメ探し中の海上で。間もなく風が向きを変えました。
ウミスズメは繁殖で地上に上がる時期以外はほぼ一生を水面で暮らします。
空を飛ぶことはありますが、水面のすぐ上を高い頻度の羽搏きで飛ぶ姿を見る限りでは長距離の移動に利用しているのではなく、飛行は主に短距離の速度を必要とする移動の際に使われているように思います。
例えば危険回避、餌場での他個体の動向に応じた餌探索など。
むしろ大きな距離の移動は水面を後脚で水を掻きながら行っているように見えます。
以前ヒナを連れたカンムリウミスズメを見たことがありますが、この場合はヒナが飛ぶことも出来ないし、潜水も十分できないらしく親鳥も潜水や飛翔を行わずに移動していました。
※カンムリウミスズメのヒナについて。2006年5月の日記
その速度は非常に遅く、時速で言ったら何キロでしょうか?3〜4q/hでしょうか?
この場合はヒナがいるために仕方なくですが、この速度でも1日24時間で100q近く移動できることになります。
飛翔であればある程度天候に左右され、飛べない日もあるでしょう。
しかし水面遊泳は安定した移動ができて、潜水も得意となれば大波が崩れてきても心配はないでしょう。
条件にあまり左右されずに移動が可能だと思います。
写真:冬ならではの高い透明度の水ときれいな砂紋。
ウミスズメは水面での後脚を使った遊泳も得意ですが、潜水遊泳にもとても適応していて、前脚である翼を使ってペンギン並みと言っても良い様な優雅な遊泳飛行を見せます。
水中で魚を追って暮らすのですから、魚並みに泳げなければならないという事になりますし、水面上からの攻撃があれば水中に逃げるのが得策ですから、そういう事にも役立つでしょう。
実際、私がカヤックで観察している時にウミスズメが私から離れたいと思った時には、大抵は潜水して十数メートル先まで逃げるというケースがほとんどです。
また水中からの危険に際しては水面より上、つまり上空に逃げるのが最も安全です。(トビウオと同じ対策ですね)
飛ぶ能力も潜水の能力も高い上に、水面での行動に必要な後脚という動力も備えているので、あらゆる方向に自由に移動することができます。
ただし後脚は遊泳用に特化して後方にあるために、歩くのが得意とは言えないので、繁殖のために地上に暮らす時期は大きなリスクがあるでしょう。
それに関しては天敵の少ない孤島の断崖などで巣をつくるものがほとんどで、そういう点でも上手に生きているようです。
海上での移動能力の高さは環境条件適応能力に関わってきますので、ウミスズメ類の「滞在能力」が高いことが想像できます。
波が高すぎる、風が強すぎるという理由で湾内や港内に避難してくる外洋性のミツユビカモメやトウゾクカモメを見た経験から、他の外洋性の海鳥と比べてウミスズメ類は「滞在」に優位と感じられました。
※シロハラトウゾクカモメについて。2008年5月の日記
時化る度に岸を目指す必要が生じれば、それは大きな消費に繋がるでしょう、岸から離れていればいるほど、その量は大きくなるはずです。
飛翔能力が高ければ岸への回避はそれほど大きな仕事ではないかもしれませんが、無理なく居残ることができれば、それに越したことは無いように思います。
留まりたいその場所は良い餌場かもしれませんし。
写真:砂浜で一緒に群れている事の多いミユビシギとシロチドリ。
しかし水面での身のこなしには優れているウミスズメ類ですが、どうしても水面に暮らさなければならない為に、海そのものの条件悪化には弱いようです。
船舶からは微量とはいえ常に油や有毒な塗料が流れ出ていますし、船舶の事故による大量の油流出、海上で仕掛けられる網の類は潜水採餌の際にも危険だと思います。
網は切れて流れ漂っているものが多数ありますから、それも危険要因になるでしょう。
高速化した船舶により轢かれている数は分かっていないですが、実際の回避行動を見る限りではかなりの数になるのではないでしょうか?
繁殖地が狭く限られている種もありますから、繁殖地も大切ですが、まずは水面での成鳥の暮らしでしょう。
小群で観察されることの多いウミスズメですが、2009年の館山湾のように非常に大きな群れが見られることから、運が悪ければ多くの群れが一気に大きな悪条件に掴まり失われる可能性が十分あると思います。
小さくて、人には資源として見られていないために調査の行き届かないこういう生物が人知れず数を減らしていても、なかなか生活や興味には結びつきませんから対策は遅れ、絶滅種を増やすことになるかもしれません。
写真:ウミスズメの代わりにいつもよりやや多めに見られたウミアイサ。
そういう海鳥の観察をするには船をチャーターしたり、定期航路の船に乗って船上高くから長い時間、気長に見渡して探索したりするしかないように思われていますが、シーカヤックを用いればむしろ人の生活圏に近い沿岸の海鳥の生態を間近で観察することができます。
しかしその頻度は低いので、多くのカヤッカーが興味を持つことで日本中を網羅した記録を残すことができるかもしれません。
またウミスズメは岸から数メートルのところにもいて、潜水を繰り返しながら餌を探している時もあります。
釣人やビーチコーマー、サーファー、ダイバーといった水辺の人々が興味を広げてくれて、たまたま見かけた時に記録したり、報告したりしてくれることが増えると更に大きな情報源になるでしょう。
もちろん死体が打ちあがった時には大きな情報となります。
そうやって少しずつ分かっていなかったことが分かっていけば、結果その生物の生活に何が起きて来たかという記録を残すことができます。
それがあって初めてその生物の地球での、海での、生物圏での役目や現状と近未来の想定が可能になります。
写真:潮がよく退いて砂浜を走りやすい季節になりました。
しかし今の状況ではウミスズメ類の本州での姿はほとんど見えていな状況です。
まずはなんでもすべての海鳥に目を向ける事から始め、見慣れたものが出てくれば、見慣れない種も分かるようになります。
ここで種名を判定したり記憶することの難しさが付き纏いますが、ここはむしろ後で良いと思います。
いつも行く場所にいつもいるものを見慣れることで見慣れないものがいた時に気付くのが大切です。
その時には写真を一応撮っておいてもらえれば後で誰かに見てもらうことができますし、興味が湧けばインターネットで種を調べてみることも出来ます。
調べてみたら、その海域では記録の少ない種だったりするかもしれません。
珍しいから凄いという事ではなく、珍しいということは既に数を減らしている種だったり、なんらかの理由があっていつもと違う場所に入り込んできたと考えられるので、その特殊さは生態を知るうえで貴重な情報と成り得ます。
来月はウミスズメを是非観察したいと思っています。
もし皆さんもウミスズメの様な鳥を見かけたら教えて頂けると嬉しいです。
東京湾のスナメリや、東京湾のアマモのように、気付いたらもう随分少なくなってしまっていた…というような事にならないように、東京湾にやって来るウミスズメなど様々な海鳥にも目を向けていきたいですね。
※今回はウミスズメの話でしたが写真はいつも通り、同月に南房総で撮影したものを載せています。
写真:日が落ちる頃になると西を目指すウミウたち。
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