写真:ハマダイコンの花が今年はすごいです!(白間津の海辺)
先月から読んでいた「日本の古代 8〜海人の伝統」という本の文中に以前読んだ「海女たちの四季〜房総海女の自叙伝」田仲のよ 著/加藤雅毅 編が出て来たので今月半ばから本棚にしまってあったこの本を読み直し始めました。
この本は1983年に発刊された本で、千倉の白間津という海辺の町で実際に暮らしていた海女さん自身が書いたものです。
その内容は当時の海女さんの生活を、取材では得られない、実感の籠められた文章で伝えてくれる貴重なものです。
海女操業の実際や本当なら極秘情報であるべきアワビやサザエのいる根の位置や事細かな情報を含むことで、読んでいてもその根についての想像が湧き、まるで自分がのよさんになって潜りながら根を見ているかのような気持ちにさせられます。
また海上での事ばかりでなく、陸に上がってからの生活、太平洋戦争時代を挟んだ、漁村の生活の変化なども描写されており、その表現はとても正直で、そういう時代に、そういう場所で暮らすという事がどういうことなのかを実感することができます。
写真:白間津の磯。
話し言葉は全て訛りのある完全な房州弁で、房州弁の大好きな僕は読む度に嬉しくなります。
20年ほど前に館山に移り住んだ頃、私は仕事場や海岸で年配の人とお話をするとほとんど聞き取ることができず、その度に話を遮ってしまいながらも意味を教えてもらっていました。
その音のきつい様で優しい感じが好きになり、むしろ好んで年配の人と話すようになり房州弁を完全にマスターしようと良く真似たりもしていました。
お蔭で今ではこの本を読んでも音の感じや、それを発している時のその人の表情まで想像できるようで、とても嬉しくなるのです。
海岸で漁師さんや海女さんとお話しする時に房州弁は必須です。
貴重な情報を得る事も出来ますし、その海での昔噺や楽しい話も聞かせてもらえます。
しかし最近では房州の子供たちが房州弁を話しているのか心配です。
少なくとも20代以下は東京と全く変わらない標準語です。
房州弁が普通に聞かれなくなる時代が迫って来ているのかな…と少し残念です。
写真:白間津の磯に生えるイワタイゲキ。
16日には「海女たちの四季」の舞台となった白間津の海辺と港周辺を自転車で探索してきました。
こういう時に本当に自転車は便利です。館山市の私の家から15qほど走れば白間津に着きます。
この海域は海が厳しいこともありますが、密漁監視なども厳しい事からトラブルを避ける必要もあってほとんどカヤックで漕いでいません。
海岸から舞台になった磯根を見て回ると、のよさんが書いているイメージ以上に厳しい感じの場所で驚かされます。
当日は時化気味でしたので尚更ですが、やはり房総でも東に行けばいくほど海が厳しく海女操業の厳しさも増すのではないかと感じられました。
大地震の隆起によって海底から沸き上がった地面が続く海岸線には新しい家しか建っていません。
白間津の漁港は奥深くTの字のような形で完全に外海から隔てられていますが、これも過去の地震による隆起地形を利用して造られたそうです。
写真:白間津港。
元々海況が厳しく、操業できる頻度が低くなるうえに地震で大きな被害も受けたことのある白間津ですが、過去には遠洋へのカジキ漁で盛んだったそうです。
しかし、それを陰で長年支えたのは女性たちの海女操業だったようです。
男たちの賭博に近い漁に比べ、地道で地味な作業の継続が求められる海女の漁が対照的に感じられました。
白間津の港は今でもカジキ漁が盛んだった頃の面影が残されていて、のよさんの言葉を読んだ後に行ってみると、見ていていろいろな想像が湧いてくる時間が止まったような素敵な場所でした。
今では初春の花摘みが有名な白間津ですが、それものよさんの時代の海女さんたちが残した貴重な遺産という風に見えてきます。
花畑で見かけるおばちゃんたちはみんな活き活きしていて、きっとのよさんも素敵なおばちゃんだったんだろうと想像できます。
園芸の花にはあまり興味が持てなかった私ですが、そういう背景を知るとその花畑の意味がまた違ってくるのが面白いです。
写真:海辺の花畑。
文中に出てくる陸のポイントもいくつか散策しましたが、村の上部にある日枝神社はまるで絵本に出てくる竜宮城のようで、パッと見た時に気に入ってしまいました。
更に拝殿には素晴らしい彫刻が掘られており、特にカメが沢山見られ、更に浦島太郎も彫られていました!
やはり竜宮城だったのですね!
その浦島太郎は竜の頭をしたウミガメに乗っていて、新種だ!とか思ったり…。
神社に見られる彫刻は波や海の生物が多数みられますから、見ていて飽きないですが、それについての具体的な知識について私はまるで勉強不足です。
房州には貴重な彫刻の見られる神社が沢山あるそうです。
これを機に海を表現している神社の彫刻について少し勉強しようかな、と思いました。
写真:日枝神社のカメの彫刻。
今月の空模様はほとんど曇りという印象で、雨のひたすら続く日などもあり、暗いイメージな日が多かった4月ですが月末の午後は既に夏を感じさせるような日になりました。
今日5月1日は短パンTシャツ日和となりましたので、もうカヤックで水に落ちても笑って楽しめる良い季節が近いですね。
それに自転車には最高の季節となりました。
風はまだ涼しく、日差しは暖かで、カヤックや自転車を頑張って漕いでもほんのり汗をかく程度です。
春は潮がよく退き、気温は暖かく、足を濡らしながら磯を散策するのが楽しい季節です。
そんな磯場には海藻がギッシリと育っています。
今年もワカメがたくさん生えていて、磯に漂着したものを拾って美味しく戴きました。
ヒジキの方は漂着せずに岩に生えているので漁業権が発生するため持って帰ることができませんが、お土産でも売っていますのでお勧めです。
房州ヒジキはとても歯応えのある美味しいヒジキですよ。
写真:磯にギッシリ生えたヒジキ。
食物が食べ物になる前の姿を見た後にそれを口にすると、いつも食べるよりも美味しい気がするのは私だけでしょうか?
それが育った環境が健全であることを知りながら食べることができるというのは都市生活をした場合にはかなり貴重な事になってしまいます。
肉も、魚も、野菜もどこか遠くから運ばれてきて、死んでしまってから時間も経っているものが普通ですから、岸辺で拾ったワカメをその晩に味噌汁に入れる事ができるという事が、どれくらい素晴しいことか、忘れないようにしたいものです。
またのよさんのような海女さんが潜ってくれたりして漁業を続けてくれなければ貝さえも手に入り難くなるということも忘れないようにしないといけないな、と感じました。
房総に来た際には是非、その海で生きていた生き物の生活と、その海で生き物を獲って暮らしている人の姿を想像しながら美味しい魚介を楽しんでみてください。
写真:カヤック日和になりました!
参考図書
「日本の古代 8〜海人の伝統」大林太良 編 中央公論社
「海女たちの四季〜房総海女の自叙伝」田仲のよ 著 加藤雅毅 編 新宿書房
お知らせ
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