写真:今年もウミガメ産卵調査に自転車を活用しています。
毎年の事ですが、この6月にも南房総のウミガメ産卵についての調査を始めました。
しかし6-8月の全日調査を行っている根本地区から東へ3qほどの滝口地区までの区間で、なんと一度も上陸が確認できませんでした。
これは調査を開始した2001年からの15年間で初めての事で、上陸しても産卵をしなかったのではなくウミガメが岸に来る事さえ無かったというのには驚きました。
それでも調査をそこそこ長い間続けているので毎朝足跡が無くてもガッカリすることもなく、むしろ「来なかった」という記録を確認し残せたという意義が感じられますが、これが調査初年度であったなら調査意欲に大きく影響したと思います。
それでも不定期に行っている他の地域(千倉-和田間と平砂浦)に関しては上陸が確認でき、いずれの上陸痕にも立派な産卵痕が見られ安心しました。
こういう時にこそ白浜との比較のために隣接する他の地域を調べるという事が初めて役立ちます。
白浜沖には今年サメが多いという話を聞きました。
以前この海域でイルカを観察していた頃にも梅雨時期にシュモクザメの一種が定期的にやって来ていました。
特に沢山いて、あちこちに見られる背ビレとカヤックを調べるように周りを泳ぐサメが普通だった年もありました。
その時のシュモクザメは小さなもので、その背ビレは水面を流れるように切ってとても美しく、慣れてしまえば怖いこともなく見とれてしまうほどでした。
流石に船上で見るに限っていましたが、周辺では海女さんが普通に潜水している季節ですから危険は感じませんでした。
今年もこの時のようなサメの多い年のひとつに過ぎないのかもしれません。
ちなみにサメが怖い方には残念ながら滅多にサメには逢えない海域でのツアーを行いますからご安心くださいね。
ウミガメ上陸調査はあと2ヶ月ありますし、今年は11月に日本ウミガメ協議会が毎年行っているウミガメ会議が初めて千葉県で行われる予定ですから、是非良いニュースを記録したいと思います。
写真:とあるウミガメ産卵地に咲く白い花びらのハマヒルガオが今年も咲きました。
今月は今までに見たことのない場面を見ることが出来ました。ハヤブサが海面を泳ぐウミスズメを捕食したのです。
海上からでなければ観察できない場所でのハヤブサの観察に出かけるとハヤブサは不在でした。
カヤックで海面に浮かんだままハヤブサが飛来するのを待つ事にして、周辺の様子に注意していました。
そんな中、ベタ凪の海上に小さな点が現れました。
最も近い岸から20mほど、釣人のすぐそばを泳ぐでもなく漂うウミスズメでした。
少し近づいてみると警戒したのか、翼を羽搏かせて海面に立ち上がり、こちらの様子を見ているようでした。
特有の警戒の鳴き声は出さないので単独のようです。
周りに他個体の姿も見つかりません。
ウミスズメは少なくとも房総で見る時には2羽以上の群れでいる事が多く、1羽かと思ったら鳴き合って間もなく他個体と合流するという事が普通でした。
この個体はよく見ると羽毛が水を弾く能力が低下していて、何らかの問題があるようでした。
弱って群れから逸れたのかもしれません。
水を弾けない為かカヤックで観察に寄っても潜水して逃げる事をしません。
カヤックを怖がらない個体は時々いるので、それでかもしれませんが、少し撮影をさせてもらってから見送りました。
脚ヒレをほとんど動かさず、泳ぐというよりは潮に流されて徐々に南東方向へ小さくなっていきました。
写真:ハヤブサの良く現れる海岸線に無防備に浮かんでいたウミスズメ。
それと交代するように2羽のハヤブサが戻って来ました。
ここはほとんど毎年彼らが繁殖する場所のひとつですが今年はまだ営巣が確認できていませんでした。
しかしツガイでの行動はよく見られますし、交尾も確認できています。
飛来した2羽のうち1羽は私の前の崖にとまり、もう1羽は視界から直接見えない崖の側面に着地したようでした。
手前に見えている個体の様子を見ていると、視界の端でもう1羽が飛び立ったのが見えました。
そして崖で視界が妨げられる方角へ飛んで行きました。
それを見た時に、その方角がさっきのウミスズメが流れていった方角でしかもハヤブサは水平ではなくやや下降しながら崖から飛び立った事に気付きました。
ハヤブサが水面に浮いているウミスズメを捕食するという話は聞いたことがなかったですし、弱った様子のウミスズメと繁殖シーズンで餌を必要としているハヤブサが2羽もいるこの状況でもそれを想像することが出来ずにいましたが、ハヤブサの行動を見て慌ててそのハヤブサが見える位置へ移動しました。
私がそのハヤブサを目で捉えた時には既にそのハヤブサはさっきの崖に戻って来るところで、崖に降り立ってからは沖を見ています。
その様子はいかにも私では見えない数百メートル先に浮いている小さなウミスズメを見ているという感じでした。
ウミスズメの所在を確認するために漕いで行ってみるとやはりさっきのウミスズメが確認できました。
私はハヤブサの見える位置に戻りましたが、そこからは肉眼でウミスズメが確認できません。
間もなくしてハヤブサは再度飛び立ち、真っ直ぐにウミスズメのいた南東方向へ向かいました。
やはり緩やかに下降していきます。
300mくらい先で水面に着水するような様子を見せた後にまた真っ直ぐに戻って来ましたが、その脚に獲物は見当たりません。
捕獲に失敗したようです。
今回はさっきまでのよりも高い位置にある木に降り立ちました。
遠くを見易くする為でしょう。
写真:ウミスズメを捕獲した直後の様子。重そうに低空を飛んで戻ります。
この一連の行動でこのハヤブサがさっきのウミスズメを狙っていた事が確実と分かりました。
その後、間もなくハヤブサが飛び立ち、さっきとはやや違う経路をたどってやや高い位置から目標の手前で急降下するような対応を見せました。
出来るだけ岸に沿った違う経路を辿ったのはウミスズメ側から崖の背景に紛れてハヤブサの姿が見つけにくい状況を出来るだけ保とうとしたからではないかと感じました。
相手からどう見えているかまで想像できる能力があるのかもしれません。
崖にいる時に海に背を向けていることが多いのは崖の色と背面の灰色が紛れて保護色になり、餌生物から見つかり難いようにするための本能だということは想像していましたが、行動中の背景の状態まで配慮しているとなるととても慎重で賢いですね。
しかし、この2回目の攻撃も失敗し、ハヤブサは手ぶらでさっきに木の枝まで戻って来ました。
これは難しいかな…と見ている私は思い始めましたが、ハヤブサはウミスズメから目を逸らす様子がありません。
あのウミスズメが潜水能力をほぼ失っているとしたら、ハヤブサにとってそれほど難しい相手ではないように感じますし、もし飛び立って水面を行くことがあればその速度は遅いですからハヤブサには簡単な相手になるでしょう。
水中だけがウミスズメが逃れられる可能性のある場所です。
ウミスズメは潮に流されてどんどん遠ざかっていくのでハヤブサも焦りがあると思いますが、この日はベタ凪で遙か遠くの漂流物も見つけやすい条件でした。
少し経ってまたハヤブサが飛び立ちました。
さっきと同じような戦略で、今回は水面に一度タッチした後に再度水面に足を延ばしてから重そうに舞い水面すれすれを戻って来ました。
どうやら捕獲に成功したようです。
水面から10mほどの崖の中腹に降り立ち、餌となったウミスズメを捌き始めました。
写真:獲物のウミスズメを運ぶハヤブサ。
しかし私としてはそれがウミスズメだという確信が得られません。
写真で確認したいと思いハヤブサの脚の下にある獲物の撮影を始めました。
なかなかうまく撮れずにいたところ、私が近づき過ぎたのかこちらを気にする様子を見せ始め、更に高い崖に移動しました。
ところがこの時に運よく脚に持ったウミスズメが撮影できました。
上の写真他数枚ですが、後方に付いた脚や羽色、サイズなどウミスズメで間違いないと思います。
その後ハヤブサは2回場所を移動し、1時間以上かけて餌を食べ終えました。
過去にもハヤブサが捕食している場面はヒヨドリの群れにアタックしたところを数回と、崖下を飛んでいたハトに急降下で攻撃したところ以外見たことがありませんでしたが、今回のように水面にいる鳥も捕獲できるということを確認できたのは幸運でした。
ヒヨドリの群れにアタックした時には海上を低空飛行しているところを、1羽がハヤブサに蹴飛ばされ水面に落下したところを拾い上げられて捕獲されるという流れでしたから、考えてみれば水面にある獲物を捕まえる事はできるはずです。
ウミスズメもハヤブサがいる可能性の高い海蝕崖下を行くという事が高リスクだとは知らないようでしたから、ウミスズメにとってもそれほど経験のあることでは無いのかもしれません。
写真:カラスもちゃんと海岸の生命システムに参加しています。
ウミスズメはカヤッカーにとって同じ水面を共有している身近な感じのする仲間のような生き物ですから、間際まで生存していた姿を思い起こせば複雑な気持ちも浮かびます。
しかし弱って群れから逸れ、いずれにしても間もなく自然に還る過程であった個体が、十分に食べ物としての価値ある段階で他の個体に取り込まれることでハヤブサの身体の一部として機能するという事の意味が実感できました。
生物は本来、個体でなく地球全体をひとつの生命の一部と考えた場合に今回のような無駄のないシステムに組み込まれていることが重要なのだと改めて感じました。
ウミスズメはハヤブサに食べられなかったとしても、死骸となって分解される時には微生物に食べられて循環していきます。
そう考えると、もしサメがウミガメを食べていたとして、それで産卵上陸の回数が減ったのだとしても、そこには何かバランスを取るための人間では計り知れないもっと長いスパンで仕組まれた自然の仕組みがあるかもしれません。
もし「カメの為にサメを殺そう」という発想が浮かんだとしたら、それはあまりに単純すぎるように思います。
「減ったから保護」で「増えたから間引き」というのはあまりに単純な発想で、単に自然を人間が制御したいと思う欲の延長のような気がします。
自然の動きについてはかなり気長に見ていきたいと考えています。
一方、人間の動きには素早い対応が必要とも思います、残念ながら人間は自然に害を及ぼすスピードだけはどんな生物も真似できない高い能力を持っていますので。
日本ウミガメ協議会「ウミガメ会議概要」
http://www.umigame.org/J1/2014_amami_top.html
過去の日記一覧へ
|