写真:迷いながらの上陸痕。
今月になってやっと南房総市の白浜エリアはウミガメの上陸がありました。
しかし2回だけです。
最初の7月19日の上陸では半人工砂丘まで登りましたが、濃い海浜植生の根に阻まれて産卵を諦めて海へ帰りました。
次の7月21日はキャンプ場内で、迷い続けて漸く産卵するも、台風の高波が寄せれば巣が波を被るような場所で心配です。
これほど記録が少ないと3カ月のうちほとんどをただひたすら歩くだけになってしまい、記録というほどの記録が取れません。
残るのは「上陸数が少なかった」という残念な記録になってしまいますが、それも事実ですので記録しておくことに意義があります。
しかし他所の産卵地から聞こえてくる情報も上陸数の少なさを訴えていて南房総だけではない事のようです。
南房総で私が不定期に調べているエリアでも数が少なくなっています。
館山市の平砂浦では6/15、6/30、7/30に2ヶ所の計4ヶ所の上陸を確認し、内3ヶ所で産卵の様子でした。
千倉から和田にかけては和田6/10の1ヶ所のみですが、ここは産んである様子でした。
しかし計7ヶ所だけという寂しさです。
写真:一方、ウミガメの漂着はコンスタントに続き…。
そんな状況の中、今日31日には根本海岸で3匹ほどの子ガメと思われる足跡を見つけました。
辿って行っても柔らかい砂や硬く締まったキャンプのエリアに入ってしまうと足跡が消えてしまっていて、巣を見つける事が出来なかったため子ガメと断定できませんでした。
例年足跡は見ていますので間違いないと思いますが、確証を得られれば上陸数も書き換えられます。
ウミガメの子であるとすれば調査を始める前の5月の末頃に産卵した母亀がいたという事になります。
今夜、明日と後続で巣から出てくる子ガメの足跡が増えるかもしれませんので注目しておきたいと思います。
今年、ウミガメがあまり来ないという事を話すと長年この海で漁師をされている方や、ここで生まれ育って海の家をしている方も異口同音に「何か起こるんだろうか?」、「何が起きているんだろうか?」という事を口にされていました。
この人たちは実際に毎日の暮らしの中で子供の頃からこの海を見続けてきたので、カメの事はその中のひとつの情報であるだけで、お話を聞くと既に多くの違和感を感じ取っているのです。
南房総に限らず世界中で今までに無かったような自然現象が沢山見られるようになって来ました。
我々より繊細なウミガメはそれを感じとって、既に非常に困った状況に追い詰められているのではないかと心配になります。
写真:霧の中で佇むシギたち。
まだ8月も産卵の期間ですが、後半になるとその卵が孵る10月頃には北限に近い南房総では既に気温も水温も低くなることで、生き延びられる可能性が低くなってしまうようです。
気温に伴って冷たくなった砂中の巣の中で、卵からは孵化はしたものの巣から脱出することも出来ずに弱った子ガメや死骸が見つかるのもこの時期です。
ただし巣内の温度が下がった事が子ガメが弱った直接の理由なのかが分かりません。
秋の方が台風の影響を受ける回数が増すので、高波で巣が水を被る回数も比較的多くなりますし、巣の場所がすっかり水溜りになってしまう事もあります。
いずれにしても6月から7月までに産んでくれた方が安心なのです。
それでもまだ8月の産卵に期待し、少しでも子ガメが海へ帰ってくれればと願っています。
海水の温度が低いことで靄や霧が発生することが多くなっています。
夏の朝霧は気温の高い白浜に関しては珍しいことでは無いのですが、今年は昼になってもずっと靄が残り続け、ちょっと気持ち悪い様な日もあります。
涼しくて調査には都合が良いのですが…。
もちろんカヤックにはあまり靄が濃いと危険です、漁師さんも出漁に困っているらしく岸で様子を見ている姿を多く見かけました。
台風が続いてウネリが高く漁が出来ずにいたと思ったら、今度は毎日のように霧で漁業者には厳しい月だったようです。
同じようにカヤッカーも海に出られない状況が多くなりましたが、決まった港から漁に出る漁師さんに比べると車にカヤックを積んで別の浜へ簡単に移動できる気楽さがあります。
船舶の入って来ないような場所があればコンパスだけを見て漕いでみたりするのも良い経験になるかもしれませんが、やはり海上交通も事故は心配ですね。
写真:水面から湧くように雲が作られていきます。
白浜の産卵地では写真のように岸近くの水面から沸き上がるように雲が作られていく様子も幾度か見られました。
海水の温度が低い上に、この海岸特有の大きな潮溜まりのような岩の浅場に川の冷たい重い水が流れ込み、台風の後、凪が続いた事で水が掻き混ざり難い条件で発生した特殊な状況かもしれないと考えました。
もし実際に海岸近くにそのような冷たい水が留まっているとしたら、上陸前に母ガメは産卵に適した季節ではないと勘違いしたりするのでしょうか?
極端に水温の低い水域の上にある砂浜に卵を産めば子ガメたちは真っ先にその冷たい水に浸からなければならず、体温を一定に保つことが出来るウミガメにとっても身体の小さなコドモには負担が大きくなるでしょうから、母親としては本能的に産卵地として適当ではないという判断があっても不思議はないように感じます。
今月は日本に影響を与えた台風が2つやって来ました。
房総は直撃した訳ではありませんでしたが、海は繋がっているため、海上は大時化になりウネリが高い状態が長く続きました。
11号は白浜に大量のカジメ(海藻)を打ち揚げて去りました。
そして12号台風はそのカジメに砂を被せたり、移動したりして分解を促進していきました。
そのお蔭で海岸ではハマトビムシ、ハマダンゴムシなどが大量に発生し、それを求めてシギなどの鳥も多くなりました。
海岸に海藻の山が出来れば海水浴場としては台無しなのですが、自然として、海としては良いこともあります。
しかし近年の漂着カジメの量は多すぎるかもしれませんが。
写真:大量に揚がったカジメ。
「ウミガメが来ない」、「水温が低い」、「漂着海藻が多過ぎる」という印象の7月でしたが、8月はどういう風になるのでしょう。
あまり良いニュースが無く残念ですが、ここでは実際に見たものを伝えていきたいと思っていますので受け止めて頂けると嬉しいです。
海辺に通わないと見えてこないものをここで読んでいただく事で、海から離れたところで暮らしている人にも変化を敏感に感じて頂けると思います。
そういう事に気持ちを向けてもらえると食卓に上る魚ひとつにも、その魚が暮らしていた環境である海が見えてくるかもしれません。
そう考えてみると食卓の魚は最も身近な海と言えそうですね。
写真:グンバイヒルガオ群落は今年も元気です!
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