カヤック日記


2015年8月の出来事


アカウミガメの産卵地でありながら産卵期に混雑する時期を迎える根本キャンプ場。ほとんどの人はここが産卵地だという事を知りません。




















写真:アカウミガメの産卵地でありながら産卵期に混雑する時期を迎える根本キャンプ場。ほとんどの人はここが産卵地だという事を知りません。

今年も無事にウミガメ産卵上陸の調査を終えることが出来ました。
数としては以下のような結果となりました。

館山市平砂浦 上陸×5(その内で産卵していると思われる形跡のあるもの×4)
南房総市根本 上陸×3(その内で産卵していると思われる形跡のあるもの×2)
南房総市砂取〜川下 上陸×2(その内で産卵していると思われる形跡のあるもの×0)
南房総市名倉 上陸×0
南房総市千倉南〜瀬戸浜 上陸×0
南房総市白子〜和田浦港 上陸×2(その内で産卵していると思われる形跡のあるもの×2)

その他に8月1日に根本海岸にて子ガメの足跡がいくつか見つかりました。
この時期に孵化脱出しているという事ですから、調査を始める前の5月末頃に産卵があったものと考えられますが、キャンプで混み合う砂丘の中で足跡が途絶えていたために巣を見つけ確認することが出来ませんでした。

ウミガメの迷走に繋がっている南房総市白浜地区の街灯の件はどういう対処が最善かを判断する事が難しくなってきています。
この海岸線では過去に夜間の事件があったという事で防犯の備えに対する要望が地元であり、早朝の散歩の方からも街灯にルーバーを取り付けた事で道が暗くなり不安との意見を頂きました。
ルーバーと簡易的なフィルタで既に光量はかなり落ちていますので、問題が解決している可能性がありますが、今シーズンの白浜での上陸数の激減を考えるとその辺りが定かではありません。
しかし15日に根本海岸で上陸したウミガメの足跡は目の前に街灯のある海岸道路ギリギリまで歩いてきたうえで、海岸道路との隔たりにある大きな垂直の段差を回避してUターンしていました。
今までこの海岸で見られた母亀の経路、巣穴掘りの位置は光源が見えにくい場所を選ぶ傾向がありましたが、光源にこれほど近づいたのはほとんど初めてと言えます。
もしかするとルーバーとフィルタが役に立っていて、母亀には光源が意識されなかった可能性もあるのではないかと考えています。

根本海岸で見つかった海岸道路の街灯へと真っ直ぐに向かった足跡。奥に見える白い柱がルーバーを付けたLED街灯。































写真:根本海岸で見つかった海岸道路の街灯へと真っ直ぐに向かった足跡。奥に見える白い柱がルーバーを付けたLED街灯。

今まで街灯の光を避けるために母亀が波打ち際に卵を産んでしまう事の問題を意識していましたが、この上陸痕を見ると今度は光源を避けないがために道路まで真っ直ぐに出て行ってしまう問題が起きる可能性が示されました。
千倉と和田では1mほどある垂直の段差から母亀が落ちてサイクリングロードで彷徨ったことが確認できていますが、それでもサイクリングロードでしたので夜間に通行はほぼ無く、通っても徒歩、自転車、原付に限られ事故には至っていません。
しかし、白浜も街灯の件が解決した後には自動車道路へ直接出てしまう事になりますのでウミガメと自動車との事故が考えられるようになります。
光に向かって歩いて行く子ガメに関しては既にそれが発生しているので、母亀についてもそちらの問題が多発しそうです。
先日は沖縄の産卵地で道路に出て来てしまった母亀が自動車と接触し死亡したニュースがありました。(※リンク参照)
掲載されていた写真を見る限りではこの道路はウミガメに影響の少ないとされる低圧ナトリウム灯が使われているようです。
光や段差などの障害さえなければ母亀は浜のかなり奥まで来ます。

海岸道路がそもそも産卵地であった砂丘を切り崩して造られている場合が多い事を考えると母亀が本能的にそこを目指すのは当然ですから、道路が既にできてしまっているところでは道路と砂浜との境にウミガメが乗り越えられない程度の障壁を設ける必要があります。
もしくは母亀の進路を道路に向けさせないために光が使える可能性はあるという事にもなります。
構造物を造るよりは部分的に意図的に白い光を下向きに放ち、そこまで母亀が来たら戻ろうとするように導くという事も出来るのかもしれません。
とりあえず南房総の件もウミガメにどのように作用するか、またしばらく観察することが必要なようです。

グンバイヒルガオの花の中で花粉を食すハナムグリが何匹か見られました。他には頻繁に吸蜜するキアゲハやイチモンジセセリも。そして、この日結実も初めて確認。




















写真:グンバイヒルガオの花の中で花粉を食すハナムグリが何匹か見られました。他には頻繁に吸蜜するキアゲハやイチモンジセセリも。そして、この日結実も初めて確認。

今月はいくつかの台風が波を運んできました。
大シケが多く、漁師さんは数えるほどしか漁に出られなかったと話していました。
先月は靄がひどく視界が得られずに海に出られず、今月はシケという厳しい状況です。
ウミガメが上陸しにくい条件でもあったかもしれません。
その点、サーファーは活き活きしていましたね。

内房ではカヤックを漕ぐには問題の無い日が多かったのですが、潮の流れが異常に早いところに出遭う事が多かったです。
波と違い、一見して判り難い潮の流れは、特に海に通い始めたばかりの人には滑らかで安全そうに見える事さえあります。
気付かずに潮の流れに入り込み思わぬ方向に流されたり、立ち往生してしまうと場所によってはとても危険です。

そういう潮の影響もあってか海水浴での事故も多発しています。
子供たちや親子が離岸流の真ん中でこれから泳ごうとしている時には時々声をかけてしまいました。
見ていたのに後で死んでしまったなどと聞くのは堪えがたいので、自分の為です。

ライフジャケットを着用するとか、シュノーケルの使い方を周知するとかも大切だと思いますが、海を見分ける事をもっと意識するように進めていかなければ事故は無くならないのではないかと思います。
今であればゲームでも良いかもしれません、画面上に表現された水面の状態を見ながら潮の流れなども配慮することで優位に立てるように設定されたカヤックや水泳の競争ゲームや、様々な波の状態を考慮してサーフィンの技を競うようなゲーム。
もちろん生の海が良いに決まっていますが、海面の様子で水の状態を理解できるようになるまで海に通うのはとても時間がかかるはずですから、何もしないよりはゲームでも良いのではないでしょうか?少なくとも興味を持つきっかけにはなるかと思います。
自然に触れる機会が少ない人が年に一回だけ大自然の中にいきなり足を踏み込むのはあまりに心配です。しかも時には酒気を帯びながら…。
海では水に入った瞬間、そこは砂漠や高山と同じかそれ以上に危険な流動的でしかも呼吸のできない空間です。
人の通常の生息環境ではありません。
そこに入った瞬間に人も自然界の選択と淘汰の選り分けに加わることになります。

南房総では滅多に見つからないイボダカラガイが見つかりました。




















写真:南房総では滅多に見つからないイボダカラガイが見つかりました。

6月にウミガメの上陸がほとんど無かったことで、この時期に孵化脱出の経過を記録する作業が少なくなり今年の8月は比較的余裕が生まれました。
その余力で貝殻をよく見ながら歩くことが出来ました。
台風の高潮の影響で海岸線の砂の位置が大きく変わったところもあり、そういうところにはシケで岩から剥がされて死んでしまったのか多くの貝殻が溜まっています。
海に生きる生物でさえ荒波に淘汰されているということですね。
その中には私が特に好んでいるタカラガイも珍しいものを含め沢山ありました。
他にも特に珍しいものでなくてもきれいなものは沢山ありますが、ビーチコーミングをする他の人にも同じ浜で楽しんでもらうには全て持って帰らずに残すのも大切だと思います。
そっくりどれも持って行ってしまっては後から来たビーチコーマーにとっては退屈な海岸になってしまうでしょう。
しかしひと口にビーチコーミングと言っても拾う対象の好みは様々ですから、同じ場所で多くの人が拾っていても目的が違うためにそれぞれが満足できるという事もありますね。

私はまだあまり持っていない珍種を見つけた時には拾得状況の写真を撮り、持ち帰ってひとつの記録として保管します。
数十年、百年と経った頃にこの浜でそれが拾える状況が保たれているのか?という疑問提起のための素材として。
もし残念なことに、その海岸が自然の失われた海岸に変貌してしまい「ここでこれが!」となってしまった時の反省をする材料としても保存しておきたいと思います。
もちろん自分の眼を楽しませるコレクションとしても。

タカラガイの種毎の模様は色鮮やかで様々です。




















写真:タカラガイの種毎の模様は色鮮やかで様々です。

31日にはウミガメ調査終了の日で余裕があった事から、夏の間に足を向ける余裕の無かった近くの海岸にも貝殻を探しに出掛けました。
そこではいくつかの珍しいタカラガイが見つかり、他にも様々な鮮度の良い貝殻が見られました。
最近目について拾い始めた濃いピンク色の巻貝をこの時もいくつか拾っていました。
またひとつ!と拾い上げようとしたところ、その貝がコロリと転がるように動きました。
今までなら気にしなかったことですが、それがヤドカリだと分かりました。
ヤドカリなら水の中にいくらでもいますが、そこは波が届かないような乾いた砂浜です。
水がいらないヤドカリ…そうですオカヤドカリだったのです。

この8月にカヤックの授業の為に通っていた東京海洋大学の食堂で知り合った研究員の方がいました。
どんな研究をしているんですか?とお聞きしたところオカヤドカリだと言います。
昔、小笠原で実物を見ていましたので、房総半島でオカヤドカリがいるという事にとても興味が湧き、いろいろと教えて頂きました。
その方は研究用に採取したオカヤドカリの幼体を水槽に入れて飼っていて、見せて頂きました。
この種は房総では普通越冬できず、しかし浮遊生活(プランクトン)の時代に黒潮に流されてきて夏の間育つのだという事でした。
図鑑で確認すると日本では最も東(北)の分布が紀伊半島のナキオカヤドカリでした。
このまま温暖化が進めばこのオカヤドカリも房総で越冬し、繁殖を始めるのでしょう。
今回見つかった彼はリスクを負いながらしかしその流行の先端を行っている個体なんですね。

南房総市で見つかったオカヤドカリ。眼と眼の間が1o程度です。




















写真:南房総市で見つかったオカヤドカリ。眼と眼の間が1o程度です。

運よく最近気にしていた貝殻に入ってくれていた事、発見の少し前にこの種についての説明と実物を見せてもらっていた事は本当にラッキーでした。
この件はその方に報告することが出来ました。「今年上陸したムラサキオカヤドカリかナキオカヤドカリのよう」との事でした。
房総半島でのオカヤドカリの生態記録に役立てばとても嬉しいです。
皆さんも、もしおかしなところにヤドカリが歩いていたら是非写真を撮って場所を教えてください。
貴重な記録になるかもしれません。
オカヤドカリの簡単な特徴はハサミの左が大きい事だそうです。
ただし天然記念物に指定されているために研究で許可を得た場合以外での採取、飼育は禁止されていますのでご注意くださいね。

ハマカンゾウが咲きそろうとすっかり秋な海。




















写真:ハマカンゾウが咲きそろうとすっかり秋な海。

※「産卵で上陸 ウミガメひかれ死ぬ 沖縄・大宜味村の国道」沖縄タイムス
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=129297



お知らせ



第26回日本ウミガメ会議inいちのみや千葉の参加申し込みの受け付けを開始しました!

2015年11月27-29日開催
藤田も発表を予定しています。
千葉県民の方は会議参加無料という特典もありますので是非ご参加ください!

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