カヤック日記


2015年9月の出来事


根本海岸のふたつのウミガメ巣。海岸でのイベントに備えて作った簡単な目印がしてあります。




















写真:根本海岸のふたつのウミガメ巣。海岸でのイベントに備えて作った簡単な目印がしてあります。

9日には18号台風接近に伴って高くなったのでウミガメ巣のある根本海岸に行き、様子を確認してきました。
波はうまい具合に巣まで届かず、大雨で出来た水溜りも避けていて安心しました。
ついでに大時化で打ちあがったものを見て歩いてみるとギンカクラゲが大量に打ちあがっていました。
大小の丸く平たい死骸が漂着物の列の中に延々と見られました。
波が高く風が強いための漂着に限らず、水面で暮らすギンカクラゲが大雨によって真水を大量に浴びたことが影響しているのでは?とも思いました。

普通は青い縁と触手を持っているのですが最近黄色い個体もいると知ったので、今回は丹念に探しましたが見つけられませんでした。
しかし、ギンカクラゲにへばりつく様にして沖合性のウミアメンボが複数見つかりました。
かなり前に見つけたことがありますが、今回は今打ち揚がったばかりという新鮮な状態で、生きているものも見つかりました。
カメラも昔よりは機能が良くなっているのでうまく記録できそうです。
シケで人もほとんど来ないので、集中でき小雨の砂浜で地べたに座り込んでアメンボを探しながら撮影を続けました。
次の日にも更に打ち揚がっているだろうと考え足を運んでみるとやはり多数見つかり、行動も観察できました。
本来水面に暮らす生き物ですから陸での様子を観察しても仕方ないですが、何か発見があるかもしれません。
生きている外洋性のウミアメンボを観察できる機会は少なく、なによりもそれを観察しようという人自体が少ないでしょう…。

軽石や平べったく丸いギンカクラゲに混ざって打ち揚がった小さく鮮やかなヒメルリガイ。




















写真:軽石や平べったく丸いギンカクラゲに混ざって打ち揚がった小さく鮮やかなヒメルリガイ。

ギンカクラゲの群れと一緒に打ち揚がったりする様子から沖合性のウミアメンボたちは同じような場所を漂流して暮らす浮遊性のクラゲの体液を吸っているのではないかと思いました。
浮遊しているクラゲにとり付いてしまえば生きたまま体液を吸い取ることもできそうです。
少なくとも死んだクラゲの体液を吸っているところは観察されているといいます。
普通、海面で得られる動物はプランクトンや魚の死骸か浮遊性クラゲ、アサガオガイの仲間くらいでしょう。
その中でギンカクラゲやカツオノカンムリは抵抗もせず、生きたまま採餌するには持って来いの相手ではないでしょうか?
しかも同種でほとんど同じところで漂流しています、一度それに乗っかってしまって生きたまま吸ってはまた近くのクラゲまで泳いでいけば、しばらくは餌にありつけるでしょう。
だとしたら乗り物を利用する唯一の昆虫かもしれないですね。クラゲが餌であり、乗り物でもある。
今回クラゲにへばり付いていたものは、採餌している時にクラゲに乗ったまま漂着してしまったのかもしれませんね。

他にもルリガイに付着していたものがいましたが、この個体はまだとても元気でした。
その個体は歩いたりすることはせずに真ん中の脚(昆虫なので片側3本の脚があります)を高々と掲げて制止していました。
これは風を待っている姿勢かもしれないとすぐに思いました。
この極小生物が広大な太平洋で自分の脚を使って移動するとは考えられないと前から思っていましたが、水面に浮いているのでは水の流れはほとんど利用できないでしょうから風を使うのだろうと。
帆を持った浮遊性のカツオノカンムリに付着していた例もあるという事なので、今回のギンカクラゲと同じように彼らを餌にするとしたら、それに従って移動するために風を捉まえなくてはならないでしょう。
しかし風の抵抗が少なそうな体型を見ていると風を受ける方法が分かりませんでした。 一方、今回のギンカクラゲのように帆を持たない種に同行する場合には帆は畳んでおきたいでしょうから、可変式の風の受け方をしていると想像できます。
脚の付け根の形から、頭を上にして水面に胴体を高く持ち上げて風を受けるのかな?と考えたことがありましたが、脚を帆に使うのは思付きませんでした。

沖合性のウミアメンボの一種。乗っかっているのはルリガイとその浮き袋。




















写真:沖合性のウミアメンボの一種。乗っかっているのはルリガイとその浮き袋。

今回のこの行動が帆走を目的にしているかを水面に放して確認して見るべきでしたが、現場は強風が吹いていて、持ち帰った個体は全て死んでしまっていました。
風を積極的に利用しているのなら同種が合流する可能性も高くなりそうですから繁殖にも有利でしょう。
果たして次の機会はいつなのか分かりませんが次回のチャンスにはきっと確認してみたいものです。
それにしても生き物の形からその生き方を想像するのはとても楽しいですね。

13日には館山市市街の北条海岸でアカボウクジラというイルカのような吻のあるクジラが漂着しました。
残念ながら私は次の日の夜になって情報を知ったため、現物を見ることが出来ませんでしたし、情報を得るのが遅くなってしまい調査が行われないまま市によって埋設されてしまいました。
国立科学博物館の海棲哺乳類ストランディングデータベース(※)によると千葉県での同種の漂着や目撃例は1972年から1995年までに5件、うち館山では0件ととても少ないので、非常に貴重な機会を逃したことになります。
情報はいつもストランディングの対応でお世話になっている国立科学博物館の動物研究部の方からでした。
定かでない漂着情報があったので調べてほしいとの事で、とりあえず大雑把な位置情報がありましたので、夜でしたが早速探しに行きました。
重機で何か作業をした形跡があり、恐らく既に埋められたのだろうと推察しました。

その後、知人などに情報を求めたところ前日に漂着していたことが確認でき、写真も見ることが出来ました。
いつもクルマで通り過ぎている身近な海岸でも浜に出なければ情報が見えないし、同じ館山の出来事でも案外情報が届かないという事が残念でした。
また館山市が未だに漂着する海の生物の研究に関心がなく、こういう場合に館山市の博物館などとの連携もないという事が良く分かりました。
今回の漂着現場のすぐそばには館山市の博物館があります。
しかし漁業や暮らしに関する資料が主で生物に関する資料はほとんどありません。
館山市のような東京湾と太平洋の境にある多様で貴重な海のある館山市にそれについて知る博物館が無いのはとても残念なことです。

打ち揚がるのは海のものだけではありません。奇妙な形をしていた菱の実。




















写真:打ち揚がるのは海のものだけではありません。奇妙な形をしていた菱の実。

市役所はとりあえず市立博物館に連絡し、博物館は自ら収集の必要が無くても関係する博物館へ連絡して情報を共有するという連携があって良いと思います。
今回のような場合に館山市がクジラをゴミとして処理するだけというのでは、館山市が教育や学問に興味の無い土地という印象が残ります。
地元の人の多くが自分の生まれ育った土地にクジラが来たりウミガメが卵を産みに来ているという事を知らずに育っているのは、そういう事を知る環境が整っていないからでしょう。
館山市の子供達が大学に行ったり、就職で他県へ出て行った時に、南房総の自然について質問されて「大きなクジラが泳いで来るし、ウミガメも産卵するんだ」と自慢するようになれば館山市は美しい豊かな海のある土地なのだと知ってもらえますし、話した本人も産まれ故郷を誇りに思う事でしょう。
今回のような大きく明らかに珍しい生物でなくても、市民や観光に来た人が海岸で収集したものを気楽に持ち込んで質問できる博物館が館山には必要だと思います。

月の後半になると大きなクラゲを見る頻度が高くなっていきました。
人に教えていただいたり調べたりして、それらがスナイロクラゲやビゼンクラゲらしいと判りました。
ツアー中や東京海洋大学のカヤック実習の最中にもそういうクラゲが水面から見られて楽しかったですが、それで気付いたことは多くの人が大型のクラゲほど毒が強いと思っている事でした。
関東であれば主にカツオノエボシとアンドンクラゲが心配ですが、いずれも傘や浮き袋は数センチしかありません。
大きいと怖いが小さいと怖くないにならなければ良いのですが。

これらのクラゲが食用になる種だという事も知りました。
中華料理で出てくれば好んでパリパリ食べますが、日常的に必要な食材ではないので採取して食卓へ…という発想にはなりませんでした。
図鑑によると本来の分布はスナイロクラゲが「九州から陸奥湾」、ビゼンクラゲが「瀬戸内海及び九州地方」とありました。
なんでまた今年は館山までやって来たのでしょうか?

美しい船型の日本丸。































写真:美しい船型の日本丸。

台風20号が日本の南を北上しているのを見送るためか航海練習船の日本丸が館山湾に比較的長く停泊していました。
15日にはツアーでそばを通ってみましたが、カヤックから見る帆船はとても迫力があります。
次の21号台風は北上せずに西に向かったために関東では影響が感じられませんでしたが、与那国島で最大瞬間風速81.1m/sを記録したそうです。
ちょっと想像するのが難しい風です。
風というよりは空気の津波といった感じではないでしょうか?
恐ろしいですが、台風がなければ無いで心配になるでしょう。
毎年必ず台風が生まれるのが自然で、それによって地球が生きていける仕組みがあるはずです。

19日には根本海岸で7月21日に産卵されていた巣で今年初めてウミガメの孵化、脱出が確認できました。
今年は2ヶ所しか産卵の無かった白浜ですから、なんとか無事に巣立ってほしいと願っていました。
巣穴は海側に向かって開いていて、山側に向かった形跡は無く、とても嬉しく思いました。
根本には8月26日に産卵された巣もありますから、10月にも楽しみがあります。
また来月にここで良い報告をご紹介できればと思います。

実を結んだハマカンゾウ。




















写真:実を結んだハマカンゾウ。

参考

※国立科学博物館 海棲哺乳類ストランディングデータベース
http://svrsh2.kahaku.go.jp/drift/

「クラゲガイドブック」並河 洋 著 楚山 勇 写真 TBSブリタニカ

「ゲッチョ昆虫記-新種はこうして見つけよう」盛口満 著 どうぶつ社






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