写真:台風の高波に洗われたツルナ。種子が浮遊し分布を広げるこれらの種にとっては台風の高波は歓迎すべきもの。
今月発生し、本州に影響を与えたふたつの台風は房総半島の海辺にも大きな影響を与えました。
台風9号は館山市に上陸し強い風が吹き、台風10号は沖合を通過しながら大きな波を打ち寄せて行きました。
9号は房総半島の上を通過した事でむしろ波高が上がらず、ウミガメ産卵地でも高波の影響は意外と少なく済みました。
10号では沖合に逸れてくれたために地上での被害は少なくなりましたが、海岸に寄せる波は高く、気圧低下による高潮も見られウミガメ巣の浸水も多くなりました。
ただし卵の流出は確認できませんでしたし、水溜り状に水没する巣もなく済みました。
8月末で今シーズンのウミガメ産卵上陸調査を終えましたが、確認できた産卵上陸数は以下のようになります。
6月×14回
6/4根本(ボ)、6/7平砂浦(ボ)、6/7平砂浦(ボ)、6/11根本(ボ)、6/16千倉(ボ)、6/17根本(ボ)、6/17滝口(ボ)、6/18白子(ボ)、6/20滝口(ボ)、6/20滝口(ボ)、6/22平砂浦(ボ)、6/25根本(ボ)、6/26白子(他、ボ)、6/26和田(他、ボ)
7月×19回
7/2根本(ボ)、7/8平砂浦(他、ボ)、7/8平砂浦(ボ)、7/8平砂浦(他、ボ)、7/13滝口(ボ)、7/13滝口(ボ)、7/13和田(ボ)、7/14根本(ボ)、7/19平砂浦(ボ)、7/19平砂浦(ボ)、7/19平砂浦(ボ)、7/26白子(ボ)、7/26和田(他、ボ)、7/26和田(ボ)、7/26和田(他、ボ)、7/26和田(ボ)、7/26和田(ボ)、7/26千倉(ボ)、7/27滝口(ボ)
8月×9回
8/1滝口(ボ)、8/3平砂浦(ボ)、8/3平砂浦(ボ)、8/9滝口(ユ)、8/10滝口(ユ)、8/13和田(他、ボ)、8/13和田(ユ)、8/13和田(ユ)、8/14白子(他、ボ)
ボ=ボディーピット(産卵痕)あり
他=他者により既に策など発見痕あり、もしくは他者より情報あり
ユ=Uターン、産卵痕無く上陸のみ
写真:砂を蹴散らしながら海へとまっしぐらに進む子ガメ。
白浜の砂取と名倉に上陸が無かったのが寂しいですが、その他は順調な方だったと思います。
孵化脱出の方はこれからですが、根本海岸では2ヶ所で既に脱出が確認できています。
うちひとつは人の通りの多い場所に産卵されていた為、踏みつけによる影響を知りたいと思い、久しぶりに孵化率を調べました。
101個のきれいに割れた順調に孵化した殻があり、その他にいくつかに分かれて細かくなった殻がおよそ卵6個分あり、殻が割れずに丸のままの卵が3個、なぜか殻が割れていて中の子ガメがまだ生育途中で卵黄を抱えていたものが1個という内容でした。
かなりの交通があっても孵化率には影響していないと考えられると思います。
ただし、この調査の際に巣から脱出できずにいた子ガメが18個体が出て来ています。
地表が硬くなっていて脱出穴が広がり難かったようです。
また、巣内に椅子の脚などについているようなキャップ状のゴミがあり、その中に首を突っ込んだような状態の子ガメがあり、その下に数個体が上でつっかえている子ガメが邪魔になって動けずにいるというような状態のものもいました。
いずれも巣から歩かせて放流しましたが、やはり日中にはかなり安定して最短コースで海を目指します。
写真:迷い歩いた子ガメたちの足跡。
その際、様々な記録を得ましたが、その中で子ガメが海に入ってからの速度の速さが人が歩くよりもやや早いという事が分かり驚きました。
もちろん遊泳による推進力だけでなく、潮の流れに乗っているのが感じられました。
また呼吸する際に水面で周囲の環境を見渡して確認しているのではないかという様子もうかがえました。
この個体の泳いで行く先には複雑な形状をして連なる岩礁があったのですが、潮の流れの都合でそちらに向かって流れて行っていたための行動だったのか、どの環境でも、どの個体も行っている事なのか興味深いです。
今回は海面の状態が良かったのと岸にやや水平に流れて行ったのが観察に幸いしました。
その際に撮影した子ガメの水面での呼吸の様子を動画サイトにアップしましたので、是非ご覧になってみてください。※1
また根本海岸では今回も子ガメの走光性による迷い歩き、陸登りを確認しました。
夜間に迷った場合には主に海岸入口にあるトイレの大窓からの強い光が誘引源になっており、今回はトイレのすぐ下で数個体が誘導されているのを確認しました。
このトイレはスロープ状の海岸入口に接しており、入口は直接公道に繋がっているために、以前には子ガメが多数道路に出て轢かれていたり販売機や道路の街灯下で弱っているという事例がありました。
トイレの灯りを道路側の入口だけ常光灯にして室内は感応式にするだけで、この問題が解決しそうです。
これによりシーズン以外ほとんど活用されていないこの公衆トイレの電気消費も大幅に抑えられるでしょうし、安全も確保できます。
人にもウミガメにも良いアイデアではないでしょうか?
写真:右脚にフラッグと左脚に足輪を付けたミユビシギと、その仲間たち。
ウミガメ調査地のひとつとしている外房和田では久しぶりに足環を付けられたミユビシギを2羽確認することが出来ました。
今回の個体もそれぞれオーストラリアのヴィクトリア州からのものと山階鳥類研究所から回答を頂きました。
足輪は金属の円筒のものですが、それは目立たず観察しただけでは、そこに記載されている情報が得られないという事で現在足輪と共に使われているフラッグと呼ばれる色のついた大きめのマークも付けられています。
これがある事で再捕獲しなくても、放鳥地が確認できる為、個体への負荷を軽減することが出来ますし、気軽に多くのバードウォッチャーからも情報が得られるという利点があります。
ある意味では研究機関としては放鳥はするけれど、再確認はアマチュアに期待という事なのかもしれません。
宇宙の事などはアマチュアが随分活躍しているようですし、星の数ほどいる鳥や昆虫などの生物もアマチュアが活躍する必要があるのでしょう。
それによって生物の生活の実際が分かってくることで、自然への理解が広がるのであれば素晴らしいと思います。
足かせであろう足輪やフラッグを付けられた鳥には少し申し訳ないのですが、せっかく付いているのであれば記録に役立てていきたいと考えています。
皆さんも写真のようなものを脚に付けた鳥を見かけたら是非撮影して報告してみてください。
種類など分からなくても日付け、場所と写真があるだけで多くの情報が残ります。
詳細は山階鳥類研究所サイト内「
フラッグの付いたシギ・チドリ類を見つけたら
」をご覧ください。
写真:カヤックの舳がお気に入りになった?ウミネコの幼鳥。
海にはカモメの仲間から、シギやチドリの仲間、ウの仲間、ウミスズメの仲間、サギの仲間、カイツブリの仲間にイソヒヨドリなどツグミの仲間、ミサゴやハヤブサ、トビといった猛禽類からヒバリ、ホオジロ、カワセミ、セキレイの仲間、ツバメの仲間、ハトの仲間など普通は海鳥とは言わないようなものまで「海辺の鳥」は沢山います。
その中でもやはりウミネコは日本人にとって特に身近で「海の鳥」として最初にイメージされる鳥なのではないかと思います。
私もウミネコは身近で好きな鳥のひとつなのですが、今回写真のようにウミネコに接する機会がありました。
これはもちろん餌付けではありません。
私としては野生生物の餌付けや飼育は基本的に望みませんし、できるだけ避けるべき行為と考えています。
今回はカヤックでのツーリング中にパドルに絡んできた釣り糸を巻き取ってみたところ、なんとこの若いウミネコの脚に繋がっていたために、それを解く必要から接したという事でした。
苦労しましたがなんとか糸から解放することが出来、放鳥したところ、驚く事にこの個体はしばらくデッキで休んでいったのでした。
おかげで大変楽しい時間を得ることが出来ました。
この時は東京海洋大学の実習での館山湾ツーリングの途中でしたので、周りには数十艇のカヤックがいたのですが、この個体は怖がらずに人々を見渡していました。
糸を外す際には当然かなり激しく抵抗し、私の手を嘴で繰り返し噛みつけたりしていましたので、友好は築けないな…と思っていました。
しかし糸が外れてみると、若い個体だったから、何かこの短い間のやり取りに学習したのか分かりませんが、「カヤック人間」は安全で友好的と思ってくれたのかもしれません。
バランスの悪い、滑るデッキにバランスを崩しながらもしばらく留まり、カヤック人間を観察している様子でした。
片脚を失ったカモメ類は良く見ると意外と多いものです。
全てとは言えないと思いますが、今回の個体のように釣り糸が絡んで壊死が起こり脚を失った個体もいるでしょう。
釣り糸がせめて生分解性で時間が経てば切れやすくなるようなものの利用が広がり、それが普通になる事で今回のような事故も問題を減らすことが出来るでしょう。
釣りや漁業は、魚がいて人がそれを食べる限り必要な行為ですから、それに用いられる網と糸、針など捕獲対象でないものの命を無駄に奪う可能性がある道具の、漁獲量増大以外の面の進化をとても期待しています。
それは結局のところ人の安全や環境汚染を減らす事にも繋がるのですから、メーカーとユーザーが配慮していくべき事柄だと思います。
写真:芽の出ていたニッパヤシ。
大きな台風が2度も接近した事で海辺では台風の置き土産が沢山見られました。
すごい量のカジメなどの海藻にはじまり、多数の浮石、表層性の貝類やクラゲなど…。
特に今月多く目にしたのは南方種の種子たちでした。
写真のニッパヤシはいつもは滅多に見かけませんが、この台風が去ったすぐ後の漂着物の中で発芽した状態で見つかりました。
調べてみるとニッパヤシは水に浸かったまま暮らすことが出来る植物の総称のマングローブの一種で、日本では西表島と内離島(うちばなりじま)だけに分布といいます。
だとすると直線で2000qも流れて来たことになります!
はじめて見つけたサラクという種子は鱗のような表皮で、触れるまでは種子だとは思えませんでした。
友人が種を教えてくれたことで、それがインドネシアやマレーシアで自生している種だと分かり、感激しました。
もしそこからであれば直線でも3000qほども海を流れて来たことになります!
他にゴバンノアシは大小多数見られ、あまりに多いのでそのうち拾わなくなりました…。
更にビン玉(昔使われていたガラスの漁業用浮き)は比較的珍しい小型のものを3つも拾うことが出来ました。
ウミガメ調査でこの季節は毎年海岸散策頻度が高いとはいえ、非常に運が良かったと思います。
写真:漂着ゴミと呼ぶには美しすぎるビン玉。
月末には素晴らしい話が飛び込んできました!
2010年から2012年にかけて断続的に南房総沿岸で観察していたミナミハンドウイルカの群れの中の1頭が御蔵島に帰って来たという驚く情報でした。※2
このイルカはその後伊豆半島などでも確認されていて関東、東海、伊豆諸島という広大な海域を自由に意図的に利用しているという事が分かった訳です。
1999年に館山に現れたミナミハンドウイルカが御蔵島から館山に泳いできたと判った時には「たまたま適当に北上したら千葉県に突き当たったんだろうな?」と思ったりしていましたが、今回のように戻れるという事が分かって来ているので、単なる漂流生活ではなく、しっかりとナビゲーションしたうえでの旅だったという事になるでしょう。
彼らの航海能力はまだまだ未知ですから、これから更に多くの移動記録が残されて、行動が記録されることで何かその能力の一部は分かるかもしれないと思うととてもワクワクします。
カヤッカーよりもずっと古い時代から海を旅していたウミガメやイルカ、そして海鳥の能力を少しでも吸収していきたいものです。
写真:久しぶりにセイタカシギに逢いました。
※1
ウミガメの巣を孵化脱出確認後に掘り出して行う孵化率調査を行った際に脱出できずに残留していた子ガメを海に帰しました。
その際に海に出た子ガメが水面で呼吸する場面を撮影できましたので公開しました、是非ご覧ください。
0:01、0:06、0:15の画面中央から左寄りに小さな子ガメの頭部が現れます。
6dorsals kayak servicesチャンネル(Youtube)「160827子ガメの呼吸」
※2
「2010-2012年に館山で確認したミナミハンドウイルカが御蔵島へ戻った事について」Mido(御蔵島イルカチーム)Facebookページより。
「2012年7月のカヤック日記」
2012年までに観察していたミナミハンドウイルカの背ビレ識別表、その他が書いてあります。
今回御蔵島で再確認された個体は識別表上の「I-6」です。
それよりも過去のカヤック日記にも時々このイルカたちの事が写真と共に載せてありますので、是非ご覧ください。
メモ
8/14 白子で新たにヤマトマダラバッタの生息地確認。
8/19 平砂浦海岸のグンバイヒルガオ群落(西群)にて結実確認。
8/24 白浜滝口にて環天頂アーク確認。
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