カヤック日記


2016年9月の出来事



エサを探しながら歩くミユビシギ。




















写真:エサを探しながら歩くミユビシギ。

今月も次々と台風が発生しツアーの都合やウミガメの巣の様子などの心配などが多々ありましたが、子ガメが巣から出た痕跡も多く見つかるなど嬉しいこともありました。
ウミガメ巣の子ガメが孵化脱出した後の掘り出し調査、いわゆる孵化率調査は基本的に行わない方針に随分前から切り替えていますが、明瞭な脱出穴が確認できた場合に限り、それが脱出穴であることを確かめる必要から巣内の全てを掘り出して孵化の状態を記録するようにしています。
産卵調査期間中の8月に孵化脱出があった場合には毎日出かけている白浜の海岸に関しては脱出穴を確認できる可能性が高くなりますが、9月に入ってからはそれほど高い頻度で調査を行えませんので、脱出した後に大風が吹けば穴は埋もれてしまい、ほとんど脱出穴を確認できることはないのが実状です。
しかし、今年は9月に入ってからも運良くいくつかの穴を確認できました。
上陸記録を取る際に残す位置記録として、母ガメが巣穴を掘った痕跡であるボディーピットの最も砂が盛られている部分を中心としてGPSで座標と、ヤマタテ用の写真を残します。
しかし、上陸を確認した時点では卵そのものを確認しないようにしているために卵が産んである場所の正確な位置は記録できていません。

9/21に見つかった8/1産卵の滝口巣の脱出穴。50日間ほどで孵化し脱出まで済ませた事になります。GPSの長さは10p。




















写真:9/21に見つかった8/1産卵の滝口巣の脱出穴。50日間ほどで孵化し脱出まで済ませた事になります。GPSの長さは10p。

しかも後にその場所を確認しようとする時には民生用GPSの数メートルの誤差にヤマタテで誤差を修正したとして、それにしても卵の位置が確認できるわけではないので、母ガメの上陸から2ヶ月ほど経った後に卵を確認することはかなりの労力を必要とします。
それに、そこに卵があるのかも確認していないのですから、掘ってみたところで見つかるかどうか…。
孵化率を記録するために確実に卵を再確認する必要があるのであれば産卵時に卵の位置を確認する必要があります。
それが出来れば普通GPSとヤマタテ写真だけで卵の再確認はできます。

しかし母ガメの上陸の数を確認することに重点を置いている現在の調査では、産卵された卵の追跡記録を省く方向で進めてきました。
調査の全行程で一度も卵を確認しない場合が多くなる調査方法を取っている人は少ないと思います。
卵を見る事もしないようになったのは、「完全に母ガメが自然に行った行為に人の手を加えることなく、それでも残せる記録だけを残す」という方針に近づける為でした。
更には1人でやっている調査の仕事量を減らして、その代り広い範囲での調査にもう少し余裕を持って時間と体力を振り向けたいという必要からでした。
卵を確認するための穴掘りは体力と時間を大変消費する作業だったのです。
「生きている卵に触らない」という事がウミガメにも私にも最も都合よく長くウミガメと付き合って行けるやり方だと今では確信しています。

7/13滝口巣の中の様子。ハマゴウなどの海浜植物の密度が高い砂丘上に産んであったため、巣内は地下茎だらけ。




















写真:7/13滝口巣の中の様子。ハマゴウなどの海浜植物の密度が高い砂丘上に産んであったため、巣内は地下茎だらけ。

そんな中で子ガメが巣のありかを脱出穴という形で明瞭に示してくれた場合にのみ、用済みの卵の殻を見る事で得られる記録を残すようにしています。
しかし先月の事例のようにこのような巣を掘ると弱っていたり死んでいたりする子ガメが出てくることがあります。
弱っている場合は非常に困りますが、置いておくと少しずつ歩き始めるので子ガメの様子を見ながらできれば海まで歩かせ、衰弱が進んでいる場合には海に少し近い場所で放します。
少なくとも直接水に浮かべるという事はしません。
しかしこれらの子ガメたちは巣内で何らかの問題があって脱出ができずに巣内に留まっていた、本来淘汰された個体とも言えますから、保護することに意味があるのかは分かりません。
ただその状況で海に帰すことも出来ず、衰弱した状態で巣内へ卵の殻と一緒に戻して埋め戻すという訳にはいかず、海の中では上手に泳げずに捕食され早い段階で淘汰されるのかもしれないと思いながらも砂の中でゆっくりと死んでいくよりは…という考えで海に帰しています。
これについての考え方はいろいろあると思いますが、母ガメが行った行為の延長として考えた場合にはこれでも手を出し過ぎていると言えると考えています。

波に転がされても、すぐに起き上がろうとする子ガメ。




















写真:波に転がされても、すぐに起き上がろうとする子ガメ。

実際には巣内から出てくる脱出し損ねていた子ガメたちは、ミイラが目覚めるようにムクムクと動き出し、ほんの5分程度で驚くほど活発に動き出します。巣穴から出して見ると周囲を見渡すようなしぐさを幾度か繰り返したり、円を書くように歩きながら海の方角を探っているような様子を見せて、定めたと見ると障害物をものともせずに真っ直ぐに海に向かっていきます。
これは海が見えるわけでもないですし、日中ですから海面に光る月の明かりを目指すわけでもなく、地面の海への傾斜もない様な砂浜の奥で何を探っているのか、何度見ても不思議です。
しかし今年はこのような子ガメの観察の機会に多く恵まれたことでヒントが得られ、もしかすると波の崩れる音を聞いているのではないかと感じました。
そういう音で海への向きを確認しているという説があるのかをまだ確認していないのですが、少しそこを突き詰めていけたら良いなと感じましたので、来年以降は出来るだけ子ガメの行動を記録できる方向で調査していけたらと考えています。

また子ガメは一旦方向を見定めると、どれだけ波で転がされようと起き上がると目を回すこともなく海の側に歩き始めます。
川などのような流れを横切っても流れに飲まれながらも、それに逆らって最初に定めた向きに歩いて行くところも観察できました。
この様子だと、その定めた方角を維持する推進は海に浮いてからも持続して、沖合まで子ガメを運んでくれるのだろうなと自然に思えました。
最初に定める時の判断の基準になっている事象を確かめないでいると、子ガメを強力に誘引してしまう人工光の他にも知らず知らずのうちに迷い歩きの要因を我々が作り出してしまっているかもしれません。
先月の根本海岸では光に惑わされて山の方に向かって数百メートルも歩いた子ガメが、海から数メートルのところに放してもまた山に向かって海岸の傾斜を登って行くという事を観察しています。
最初の見定めの重要さがこれらの観察で改めて実感として理解できました。

延々と続く漂着ゴミ。館山市平砂浦海岸。




















写真:延々と続く漂着ゴミ。館山市平砂浦海岸。

15日には6/22に平砂浦海岸で産卵された巣で脱出穴らしき窪みを確認し、卵の殻が確認できました。
それと同時に生存した子ガメが出てきました。
結果的に死亡個体が2、生存し海へ行った個体が22でした。
順次、活動の様子を確認しながら海へ歩かせて放流しました。
その際にそれぞれの個体が歩き始めた方角を可能な範囲で記録してみました。
223°、222°、220°、218°、223°、227°、225°と1/3ほどの記録しか取れませんでしたが、誤差は10°程に留まっています。
実際には不思議なくらい前に歩いた個体と同じような経路を辿り、記録していない個体もほとんど同じ経路を辿っていて、間違いなく何かに導かれているという事を感じました。

この巣の中にはペットボトルの蓋のようなものの中に頭を突っ込んだ形で動けなくなっていた個体がいて、更にはその下で蓋を被った個体に邪魔されて出られなかったと見える子ガメもいました。
平砂浦海岸は人の出入りも少なく、光害もほとんどなく、特にこの巣のあった海岸の西側辺りはとても良い環境なのですが、漂着ゴミが多いという事がやはり問題を引き起こしているという事が確かめられました。
海水浴などの観光の為の人の出入りが少ない海岸は市や県は清掃に対しての意欲は無いと言って良い状態ですので、少なくとも南房総のウミガメの産卵地の多くはゴミ漂着の特にひどい海岸です。
逆に海水浴場になっていればゴミは掃除されていますが、人の出入りや環境に手が加えられていて産卵地としては優れているとも言えないものです。
残念ながら少なくとも千葉県ではウミガメはゴミか人との遭遇に悩まされつつ産卵するしかないのが実情です。

漂着ゴミの中で発芽したグンバイヒルガオ。




















写真:漂着ゴミの中で発芽したグンバイヒルガオ。

しかしウミガメ産卵地は漂着ゴミが多いために面白い事もあります。
先月にも珍しい種子の漂着の事を書きましたが、平砂浦海岸のように関東では珍しいグンバイヒルガオの種子の漂着や群落の定着が見られ、珍しいガラス玉が打ち揚がったりするのですから漂着ゴミに対する気持ちは複雑です。
グンバイヒルガオの発芽が見られるのは必ず漂着ゴミのある場所で、ストランディングでクジラが打ち揚がるのもそういう場所が多いわけです。
本来の自然物だけの漂着物で満たされた砂浜は砂の中の微生物にとっても食べ物の宝庫で、それらの小生物を食べる海鳥にも豊かな海岸なわけです。
砂浜の植物にとっては根付くための場所でもあり、漂着した有機物から栄養を得ることもできる貴重な場所です。
その植物群は様々な昆虫たちの棲家や餌場にもなっています。

初めて見つけた2連ビン玉。ガラスの色も今までに拾ったものの緑とは微妙に違い、ラムネのビンのような懐かしい色合い。




















写真:初めて見つけた2連ビン玉。ガラスの色も今までに拾ったものの緑とは微妙に違い、ラムネのビンのような懐かしい色合い。

9月に入り、カメの毎日調査も終え、時間が出来たので久しぶりに館山を出て千葉県立中央博物館に行きました。
目的は7月のカヤック日記でも紹介したアワイルカの骨格を見に行くことでした。
写真のようにぽつんと置かれた頭骨はかわいそうなことにほとんど人の興味を得られずに、同時に開催されていた深海生物の特別展に人気を取られてしまっていました。
事務所の方でサイトへの写真掲載の了解をもらえましたので、写真を載せてみました。
このイルカが館山湾にも泳いでいたかもしれないと想像すると楽しくなって、空いているのを良い事にしばらく眺めていました。
生き残りが密かにまだ房総の海か東京湾内湾で暮らしていて、そのうちカヤックで出逢えるかもしれないな…とか妄想も膨らみました。
絶対あり得ない出来事とは言えないのですからね、夢を持って漕いでいたいものです。
南房総でのオサガメ、ザトウクジラ、コククジラ、セミクジラ、シャチ、イルカ類の大群との遭遇を今まで期待しながらカヤックを漕いできましたが、これからは化石でしか見つかっていないアワイルカとの遭遇まで期待して漕いで行きたいと思います!

「新属新種アワイルカ 千葉県鋸南町で化石発見!」

アワイルカの頭骨。























写真:アワイルカの頭骨。

メモ

9/15 6/22平砂浦巣で脱出穴確認〜孵化率調査。
9/15 平砂浦グンバイヒルガオ西群落で結実複数確認。
9/15 平砂浦でグンバイヒルガオ発芽確認。
9/21 7/13滝口巣で脱出穴確認〜孵化率調査。
9/21 8/1滝口巣で脱出穴確認。
9/26 8/1滝口巣の孵化率調査。



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