カヤック日記


2016年11月の出来事



館山湾に浮かぶ雀島が蜃気楼で実際に浮く季節。




















写真:館山湾に浮かぶ雀島が蜃気楼で実際に浮く季節。

今月はいろいろ作業などすることが多くて、フィールドに出る時間が減ってしまいました。
とは言っても南房総に住んでいる限りはいつもフィールドにいるようなもので、移動の時など海の様子、通り過ぎる鳥などいつも気になって、「ちょっと寄り道」というだけでも良い記録が取れたり、よい景色が普通に見れたりしますから贅沢なものです。
海の方は良い凪の日もありましたが、ツアーのある日に限って猛烈な風が吹いていたりして泣かされました。
曇りがちで日差しも少ない印象でしたが、雲で空が覆われて保温されていることで気温が下がりにくい状態で、そのまま次の日に晴れると暑いくらいになったり屋外での行動には良い感じでした。
しかし11月の雪には驚きました。その日はちょうど埼玉まで行く用事があり朝早くから高速バスに乗っていましたが、館山では雨だったものが北上して間もない鋸南あたりで既にかなりの吹雪になっていました。
雪景色の海岸線の写真を撮れるチャンスでしたが、館山は降らなかったようです。

最近のこういう事を異常気象と一言では簡単に片付け難い出来事でした。
またニュージーランドでの大きな地震の後に、日本でも東北地方が大きく揺れ、その後も揺れ続けるという異常もありました。
2011年以降、地震に関しては「異常」が「通常」になってきてしまっているようにも感じます。
ツアーにあたってもその辺りについて油断せず、十分注視しながら催行していきたいと考えています。
天候や海況を直視して対応するのがシーカヤッキングですから、地震に対しても同じ考えで対応しています。
サーフゾーンは出艇前に十分観察をすることで波の傾向を知ることができ、波を被らずに沖に出るタイミングを選ぶことができます。
もしかすると地震も同じなのでは?と最近感じ始めています。

カモメ類が多くなる季節にもなりました。美しいウミネコの後ろ姿。




















写真:カモメ類が多くなる季節にもなりました。美しいウミネコの後ろ姿。

冬の季節観察メニューにしているミサゴの観察をまた始めました。
べつに冬に限定する必要はないのですが、ウミガメを中心にしている温かい季節の調査範囲でのミサゴ遭遇率が低いため、ウミガメが終わって入れ替わりでミサゴを始めると涼しい季節に限定されてしまうというだけのことです。
ミサゴ→秋〜春
アサギマダラ→春
ハヤブサ→春から梅雨前
ウミガメ→梅雨〜秋
という感じです。
これらを中心に追っかけてエリアを季節ごとに変えて、その中で海浜植物やたまたま遭遇する生物もついでで記録していくには、ひとりではこのくらいがちょうど良いと最近感じています。
もう少し掘り下げたい対象や地域もあるのですが、調査そのもので収益が得られているのではないので、経済的、時間的コストとバランスが取れる限界という感じです。
活動にあたっては、ツアーに参加いただいた皆さんからの収益を調査に回すことで、調査で得られたエピソードをまたツアーで還元するという事で年間を通じた調査活動が続けられています。

これらの対象をどうして優先していったか?と言いますと単純に自分の興味の強い順番という事になります。
単に「好きなもの」と思って頂いても良いかもしれません。
わざわざ嫌いなものを選ぶというのは不自然ですし、好奇心が強く湧く相手でなければ、少なくとも私にはよい記録は取れないと考えていますし、何より続かないと感じます。
最初は興味がなかったとしても、必要に迫られて調べているうちに対象を好きになるという事はあるかもしれません。
海浜植物は私も最初から興味があったわけではないのですが、ウミガメの来る環境を記録する過程で徐々に興味が増し、今ではとても「好きな」対象となっています。
植物は動物と違い、動くことがないために行けばそこにいてくれるので他の動物のついでで記録できるというのも助かります。
植物とは逆に探しても発見の可能性が低すぎるけれど、私の中の興味の強さ順で言えば最上位になる鯨類(イルカ、クジラ)は偶然の遭遇や知り合いからの情報によってはじめて記録できる予測できない相手なので、できるだけフィールドに出るしかないということにもなります。
対象の動物の生息場所に従って季節ごとに動く中で、そういう不定期な遭遇も常に期待しています。
ミサゴにウミガメ産卵地で夏に出逢うこともあります。
それは主な調査季以外の私にとって貴重な記録として残せますから、「夏だからミサゴはパス」という事にはならないのはもちろんです。

ミサゴ個体識別番号「1」の比較写真。



































写真:ミサゴ個体識別番号「1」の比較写真。

ミサゴは去年の初めころから個体識別を意識して撮影記録を始めていますが、記録してきた中で少なくとも1羽は翼下面の模様から個体識別可能と判断しました。
翼全体の模様を全て照合するのではなく、写真のように赤丸の場所を見て最終的に判断することにしました。
いくつもある写真の中から似ていそうな個体を選ぶときには全体の大雑把な模様を見て、次に赤丸の場所で確認するという感じです。
もちろん赤丸内以外の模様であまりに合致しない場合は最初に省かれるという事になります。
翼全体のすべての模様を完全に照合しようとすれば、捕獲して羽根のひとつひとつを比べるという事になってしまいます。
自然状態の彼らの行動を妨げてまで記録を残しても意味がありませんし、そもそも捕獲するには手続きから実作業など無駄が多く実際的でもありません。
そんな調査ならしない方が良いですが、しかし確かな記録を残したいですから、まずはこの個体を識別番号「1」として識別の安定感を高める方法を探りつつ、さらに識別個体数を増やしていきたいと思います。

イルカの個体識別による調査では目に見えるサイズの群れの中での個体の関係や、その後の行動を知るための個体識別でしたが、ミサゴの場合は別々に動くそれぞれが、どれくらいの範囲で動き、行動範囲が絡む個体ごとの関係などが分かって来れば面白いと期待しています。
南房総に何羽がいるのかも知りたいですし、南房総のミサゴの繁殖場所もまだ確認していませんので、個体を見分けたうえで繁殖期に魚を捕まえた後に飛び去る方向を記録していけば、親鳥の組み合わせもわかってくるでしょうし、いくつのツガイが南房総で繁殖しているのかも確認できるかもしれません。
そのためにはハヤブサの調査を中断することになってしまいそうですが。
個体識別ができれば観察している地域に新たに加入した個体がいれば分かるようになりますし、見られなくなった個体も分かり、寿命も想像できるようになるかもしれません。
私が生きている間、細々でもずっと続けていれば南房総のミサゴの事を少しは知ることができるようになるかなと想像しています。
今まで通り取れる記録はしっかり取って、気長に慌てず蓄えて、多少は勘も頼りにして、楽しみながら続けていけたらと思います。
また、それらの記録で得られたミサゴのお話しはツアーでお伝えできたらと願っています。

ハゼ類を捕まえたチュウサギに早速纏わりついて横取りを狙うユリカモメ。水辺の鳥が楽しい季節です。































写真:ハゼ類を捕まえたチュウサギに早速纏わりついて横取りを狙うユリカモメ。水辺の鳥が楽しい季節です。

ミサゴは日本の沿岸で暮らす鳥としては最も大きな魚を食べる種ですから、ミサゴを見るということは南房総の海の健全さを見るという事に繋がると考えられます。
考えてみると私の「好き」な生物はどれも環境指標生物と言っても良いもので、ミサゴが表層に活動する魚類の状態を表すように、ウミガメは産卵地である砂浜環境の状況を表し、ハヤブサは餌生物から沿岸陸地に生息する小動物の量を表しています。
アサギマダラというチョウはオスが求めて飛来するスナビキソウという海浜植物の状態を表しています。
スナビキソウの生息環境は強い波の当たらない限られた自然海岸なため、海の状態が穏やかな入江などヒトが好んで港や道路に加工利用してしまう場所と重なっています。
そういうことからアサギマダラはスナビキソウを挟んで、間接的に海浜のヒトの利用状況の度合いを表しているという事になっています。

ヒトから見て目立つ生き物がヒトへのメッセージを持っているという事は偶然ではないように思います。
そういう生きものは、ヒトの暮らしだけでなくて「僕らの暮らしも時々は気にしてみてね」とその興味深い姿で問いかけているのかもしれないと考えたりします。

カヤックツアーで訪れた勝山の浮島の洞窟。ここにもミサゴが現れます。
























写真:カヤックツアーで訪れた勝山の浮島の洞窟。ここにもミサゴが現れます。




 



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