カヤック日記


2017年7月の出来事



ハマナタマメの見つかった崖。カヤックがあればこそ。





















写真:ハマナタマメの見つかった崖。カヤックがあればこそ。

先月、内房某所で見つけたハマナタマメの群落に再訪し、周辺の状況を再確認したところ、最初に見つけた群のような幅数メートルという群落が周辺に点在し海岸線に沿って150mほどの範囲に見られました。
また、崖の上部にもよく見るとハマナタマメの葉が広い範囲で広がっており、むしろ水面から10mほど上の高所の崖の頂きに最も群が広がっているようでした。
崖は非常に脆く、登れるルートもなく、しかも私は高所が苦手なので実際の状況を確認できませんでしたが、崖が崩れる度にハマナタマメの種子や株が崖下に供給されては定着したり消滅したりを繰り返しているようです。
ハマナタマメの種子が浮力を利用して海上を漂流して分布を広げる種であることを考えると、10mの高さのところで安定して現在見えている、あの群の最初の種子は海岸の近くで運良く広がりじょじょに崖にツルを這わせて、より安定した場所に広がっていったのだと考えると、ずいぶん長い時間が経って今の状況ができているのだろうなと想像できます。
この場所で十分に広がったこのハマナタマメの種子は今度は更に分布を広げるために波打ち際に戻らなければならないので、崖が適度に脆いという事がこういう植物にとって有用な事なのだと気付きました。
人にとっては脆い崖は危険で利用価値がないものですが、やはり自然界では何かの役に立っていて、そういう場所が種の存続に大きく役立っているという事になります。

今年は特に勢力を拡大しているオカヒジキ。この植物も種子が漂流します。













写真:今年は特に勢力を拡大しているオカヒジキ。この植物も種子が漂流します。

ところで、このハマナタマメですが、その後またもカヤックツアー中にもっと身近な観光客、海水浴客で賑わう海岸で見つかりました。
夏の花の時期に私の行動範囲が偏ることが出逢いを遠ざけていたようで、カヤックツアーでは夏にもできるだけ静かでのんびりできる場所を選んで上陸するのですが、この時はいろいろな条件から混雑していて、まあ良く言えば賑やかな海岸に上陸することになったのでした。
昼食でたまたま座ったベンチの目の前にハマナタマメの葉が見えて、よく見ると花も咲いていました。
他の植生に埋もれるような姿で、先日の群落のように見栄えする感じはしませんでしたが、たしかにハマナタマメでした。
場所は館山湾の沖ノ島で、検索してみるとインターネット上では既に紹介されていましたので、場所も明かしてしまいます。
地域によって数が少ない種の生息位置の明示は、特にインターネットでは問題もあると思います。
それにより何が起きるかが予想できません。
自然物の位置公開の配慮は本当に難しいです。

台風5号の波が美しく砕ける海岸。













写真:台風5号の波が美しく砕ける海岸。

流動的な自然物である波の情報も最近ではインターネットで流れていて、それに応じるようにサーファーが動くのがよく分かります。
同じ駐車場が混んでいて、停める場所が見つからないとマナーが乱れてくるというケースが多くなります。
昔は自分で波を探すのが普通で、天気図と地図を見ながら波の来る場所を想定して海岸を目指したもので、それ自体が大きな楽しみでした。
その頃には素晴らしいきれいな波をカヤックで独り占めする楽しみがあったり、同じ予想をして同じ浜に来た少数のサーファーとは乗るものが違っても仲良くなれたものです。

この海岸ではとても久しぶりの産卵上陸。海岸道路に妨げられて奥に行けず。















写真:この海岸ではとても久しぶりの産卵上陸。海岸道路に妨げられて奥に行けず。

それでも、期間限定で、不規則な、波のような自然物なら搾取できるものは少なく、波という自然そのものに対しての害はほとんどありません。
(その他の周辺の自然、海浜植生の踏みしめ頻度や海岸で繁殖する鳥への撹乱の度合いは高まりますが)
しかし動くことができない植物の場所を波と同じようにインターネットで見つけるとなると、「見たい」から、「種子や株や花が欲しい」となった時にそこはすぐに根絶やしになるでしょう。
もちろん単に需要の問題で、例えばハマナタマメならそんな心配はとりあえず無いと思いますが、何が何故、急に需要を増すか計り知れません。
動くことができる動物や昆虫でも、繁殖や採餌に重要な場所などで待ちかまえられては、その場所での存続は望めないでしょう。
御蔵島から来たミナミハンドウイルカが狭く浅い海域で館山沿岸に暮らしていた時に、その情報が少しずつ広がっていって訪れる人の数が増えていった時の事を思い出します。
1999年といった頃でしたからインターネットの情報量も今ほどではなかったので、あれで済みましたが、今の時代であればどうなるか分かりません。
そういったわけで、このホームページでは南房総にそれが存在するという事には触れても位置情報はほとんど公開していません。

写真:今月白浜に2個も打ちあがった満タンのオイルの入ったドラム缶。いずれも漏れ出しがあり、南房総市消防防災課にて対応。













写真:今月、白浜に2個も打ちあがった満タンのオイルの入ったドラム缶。いずれも漏れ出しがあり、南房総市消防防災課にて対応。

逆に言えば位置まで載っていてはそれを探す楽しみを奪ってしまうとも言えるでしょう。
「ネタバレはやめてくれ」と言うような人の方が自然を楽しんでいるのじゃないかなと思います。
ツアーではその時その時に遭遇した海の生き物などを紹介させていただいていますが、それはある程度は参加された人の運が運んできた出逢いですから、それを増幅して好奇心を増やしてもらえたらというヒント程度のものでしかありません。
そこから興味が広がって出かけた先の海辺での生き物との出会いに気付いてもらえるようになれば「ネタバレは勘弁」な自然観察者のひとりになってくれると期待しています。
最初から、そこにあると分かっていて見に行く、波に乗りに行くのでは飽きるのも早くなってしまいそうですよね。

幻日。位置情報のネタバレが不可能な自然現象。













写真:幻日。位置情報のネタバレが不可能な自然現象。



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