カヤック日記


2017年9月の出来事



ハマカンゾウの季節になりました。













写真:ハマカンゾウの季節になりました。

ウミガメ産卵調査シーズンは終わりましたが、上陸産卵形跡のあったウミガメの巣では順次孵化の時期を迎えていますので産卵地には不定期に出かけています。
いつ上陸してくるかわからない母ウミガメの記録を取るよりは時期もある程度絞れますし、全て把握しようと決めているわけではないので子ガメの脱出確認は気が楽です。
しかし、子ガメが巣から、つまり砂の中から出て海岸表面に出た時の様子を考えると「あの巣は漂着物が多いからどうやって海に帰るのだろう?」とか「街灯が見える位置だから、きっと子ガメは街灯の明かりに引き寄せられて、海にたどり着かずに死んでいるかもしれない…」と気になり、時間を割くことになります。
そして現地に行ってみると大抵は無事に海に向かった跡があったり、なにも変化していなくて、ホッとするのですが、とにかく夏に産卵されたすべての巣で孵化時期を終えるまでには、こういう日々が続きます。

産卵上陸を3か月追って、さらに11月くらいまでの孵化の時期をきっちりと調査に充てるまでの努力量を投じる事ができていません。
すべての巣を追跡することはせず、「できる範囲で」という形をとり、大きな問題のある巣に注目し、光害や改変された地形など子ガメが海に向かうにあたっての問題が人工的なものを選んで追跡しています。
影響が自然なものに限られている巣に関しては普通は自然の成り行きに任せます。

写真:放流した子ガメが海に辿り着いた瞬間。













写真:放流した子ガメが海に辿り着いた瞬間。

26日に白浜のウミガメ巣を確認に行った際、7月21日に産卵されていた巣で窪みが見つかりました。
ここは河口に接したところに産卵されていて、母ガメは人工的に加工された複雑な河口地形に惑わされたのか、川を横断したりして随分と迷った挙句の産卵でした。
またこの巣は河口に大量に堆積した竹をどのように対処して子ガメが海に向かうのか、少し気になる場所にありました。
まあ子ガメは川にさえ出られれば流れに乗って自然に海に出られそうなものなのですが、この河口がまたおかしな加工をされていて自然に海に帰れそうもないように思っていました。
さらに台風の影響によって漂着物は産卵された時よりも多くなっていました。
ここで漂着物を排除して子ガメの歩行を楽にしてあげるのが「保護」なのですが、私は保護ではなく観察し記録することがまず第一と考えているため、それら漂着物に手は加えていませんでした。

26日に窪みが見つかった時には、その窪みの中にも周りにある漂着物が落ち込むような状態だったため子ガメの足跡は確認できませんでした。
しかし、その状態をよく見ると巣内で動きがあっただけで子ガメはまだ出ていないと考えられました。
次の日、27日に行ってみると、やはり窪みは大きくなり、明らかに脱出が昨夜にあったと感じられる状態でした。
そして不思議なことに、その子ガメたちが巣立っていった窪みの上で子ガメが1体死んでいました。
外傷もなく、巣の上で死んでいる子ガメというのは初めて見ましたので、これは何かおかしいと感じ、巣を掘り返してみることにしました。

巣の窪みから海の方を子ガメの低い目線で見るとこんな感じでした。













写真:巣の窪みから海の方を子ガメの低い目線で見るとこんな感じでした。

窪みに落ち込んだ漂着物を除けて、砂を少し掘ると数センチほどのゴロゴロした感じの石が出てきて、その下はしっかりした固い砂でした。
そしてまた少し掘ると2体の生存子ガメが出てきてかすかに動きました。
子ガメを掘り出して置いておくと少しずつ目覚めたような感じで活発になってきました。
自分で歩いて行こうとしだしたので、高潮帯辺りまで運んで、そこから歩かせて放流しました。
十分に元気に歩き、泳ぎだしてからは数回呼吸しながら沖に向かって泳ぎ去りました。

石が多く、砂が固く、ここからよく子ガメは出てきたな…と感じましたが、もう少し広く掘ってみると一部柔らかいところがあり、それが下の方に続いていました。
この細いルートを辿ってほとんどの子ガメは砂の中から無事脱出したようです。
石があった下の方にまだ子ガメがつかえているだろうと考え、更に掘ってみると次々子ガメが出てきて最終的に13個体を放流しました。
石が邪魔になった位置に上がってきた子ガメだけが脱出できずにいたようです。

7/21巣の周辺の様子。右は川。巣を掘り出した穴の脇には記録のために並べたウミガメ卵殻。













写真:7/21巣の周辺の様子。右は川。巣を掘り出した穴の脇には記録のために並べたウミガメ卵殻。

当初はこの漂着物の多い場所から子ガメがどのように海に帰るのだろうと疑問があったのですから、巣の場所から歩かせてみれば良かったのですが、周辺にはカラスなどもいましたから、無意識に保護を考えていたようです。 この時、良く考えずに海岸まで子ガメを運んだのは正しかったのか?と後で考えてしまいました。
しかし何個体も歩かせてしまうとほとんどは見失ってしまっただろうというような状況でしたから、それで良かったようにも思いますが。
子ガメを全て海に帰した後に巣内の卵の殻を掘り出して孵化率を調べたところ、ほぼ1個分の脱出卵×103個、脱出卵の欠片×5-7個分、殻が割れていながら卵の中で死んでいるものが1個、卵が発達せずに液状のままで割れていないものが6個ありました。
全体数は少なくとも115個、そのうち自力で脱出した子ガメが少なくとも95、私が放流した巣内に残留していた子ガメが13、それに死んでいた子ガメが1でした。
主に川の上流から流れて来たと思われる竹などの漂着物が厚く積もった河原には子ガメは見当たらず、街灯の影響もないと考えられる場所でしたので、これだけの障壁があっても子ガメは無事に海に帰ることができると分かりました。
しかし巣の上で死んでいた子ガメだけがとても不思議な例でした。

今月はウミガメの調査に縛られなくなったので、他の海岸にもやっと足を向ける余裕が生まれました。
自転車で散策した館山市の太平洋岸では先日やっと見つけたと思っていたハマナタマメの株をまたふたつも見つけました。
一度眼にした事で見つけやすくなっただけなのかもしれません。
だとするとまだまだあちらこちらに見つかる可能性がありそうです。
それでも先日カヤックで崖に見つけた群落の規模のものは南房総ではなかなか見つからないのではないかという気がします。

新たに見つかったハマナタマメの株。手前の丸く青い葉。思ったよりもいろいろな場所にありそうです。















写真:新たに見つかったハマナタマメの株。手前の丸く青い葉。思ったよりもいろいろな場所にありそうです。

また、グンバイヒルガオの株も先月25日に館山市東京湾岸で見つけたのに加え、今月は9日に館山市太平洋岸で、26日に南房総市太平洋岸でと、この夏は3ヵ所も見つかりました。
そのうちの25日に見つけた株は我が家からすぐ歩いて行ける場所で見つかったため、頻繁に様子が確認できます。
これまでにもグンバイヒルガオの発芽は夏になるといくつか確認しているのですが、ウミガメで忙しい季節な為にあまり観察することができず、次に行った時にはすっかり姿を消しているというパターンでしたので、今回の株は越冬できないとしても細かな経緯が見られるチャンスだと思っています。
この株は台風15号の波に幾度も晒されて、いったんはすっかり枯れ果ててしまったような姿になっていたのですが、この月末までにすっかり回復し、独特の形の葉は小ぶりながらいくつも生え揃っています。
ただし気温が下がったためか、その葉の色はやや枯れが出て青々した感じが弱くなってきました。
それでも、この後は台風が高波を運んでこなければ、もしかすると越冬できるのではないかと期待してしまいます。
気温という点では館山市東京湾岸よりも若干温暖な南房総市白浜でも越冬できずにいましたので、実際にはかなり難しいことは分かっているのですが、台風の強い波を受けにくい東京湾岸の利点は大きいように思います。
一方で館山市の太平洋岸には大きな越冬群落があり、先月21日にも更にひとつ越冬したと考えられる7×4.5mサイズの群落が見つかりました。
近所のグンバイヒルガオ観察により、小さな株が波を被っても根ごと波にさらわれなければ枯れたとしても復元することが分かりました。
あとは気温が何度くらいから枯れてしまうのかを確認したいと思います。

台風18号の波が寄せていますが、あまり影響を受けなかったため元気に育っている若いグンバイヒルガオ。













写真:台風18号の波が寄せていますが、あまり影響を受けなかったため元気に育っている若いグンバイヒルガオ。

館山市太平洋岸のグンバイヒルガオ越冬群落のひとつは台風18号で高波や強い風で運ばれた砂を受けて海に近い先端部がほとんど埋もれてしまいました。
群落の中心部も黄色く枯れていて、弱った印象が一見あったのですが、砂に埋もれた先端部では砂の中からまるで春にフキノトウが雪を割って出てくるかのような姿で花を咲かせていました。
花が砂を割って開花するなんて、すごい生命力!とひとりで驚いてしばらく眺めていました。
か弱そうに見えても、やはり彼らはこの厳しい砂浜で生き延びてきた植物なんですね。

砂の中から咲いているグンバイヒルガオ。













写真:砂の中から咲いているグンバイヒルガオ。




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