カヤック日記


2017年12月の出来事



伊豆大島に落ちる夕日。















写真:伊豆大島に落ちる夕日。

あけましておめでとうございます。
シックスドーサルズは1998年にツアーを始め、おかげさまで今年20周年となりました。
ツアーに参加していただいた皆様に支えられ、ここまでやってくることができました。
本当にありがとうございました。

こういう機会ですので、シックスドーサルズとしての私の活動を少し振り返ってみたいと思います。
ツアーを始めたのは館山市洲崎沿岸にミナミハンドウイルカの小さな群れが定着し始めた時でした。
私はイルカやクジラを見に行く乗り物としてシーカヤックが最適だと考えてカヤックを始めた人間ですので、「自らが移り住んだ南房総にイルカが来ているのだから、それをサービスとして提供にしないという考えはないだろう」という、自然な流れとしてツアーを始めました。
私がそれ以前に小笠原やカナダ西岸を訪れてザトウクジラやシャチ、コククジラにすぐに逢えたのは、それぞれの場所にそういうサービスがあったからでした。
ですから、その地域に暮らしながら、その対象生物を日常的に観察しつつ、そういう機会を提供するのは大切だと思いました。
もちろん、自身ができるだけイルカを観察していたいという望みを適える仕事として選んだのが、それだったというのが単純な理由です。

写真:イソヒヨドリといえば鮮やかなオスが好まれるけれど、メスの鱗模様も素敵です。













写真:イソヒヨドリといえば鮮やかなオスが好まれるけれど、メスの鱗模様も素敵です。

ツアーでは実際に観察したこのイルカの生態を紹介しながら、彼らに逢うためにカヤックを漕いでいただくことで、カヤックの素晴らしい能力や役割を体感していただき、イルカに興味がある人にカヤックの良さを知ってもらう機会となりました。
また「千葉県の海」といえば九十九里の大波か東京湾湾奥の汚れた海しかイメージを持たない人に千葉県南端の水質の良さと、想像を超える多様な海岸線と、その自然度を体感していただく機会としてもシーカヤックは他の何よりも最適な方法でした。

そうやって、ミナミハンドウイルカのおかげで実際の経験をツアーでフィードバックすると同時に対象物の観察、記録を継続するスタイルが始まりましたので、最初に館山に現れた6頭のイルカに敬意を表して、カヤックから見る水面に並ぶ彼らの背ビレをイメージして屋号としました。
ですからイルカの観察ができない現在でもシックスドーサルズという屋号は変わりません。
それぞれの個体を見分けられるように身体の傷などを記録することで、少なくとも4頭が御蔵島から来た個体であるということが判りました。
そういう結果を導くことができたことで、現場にいられる時間が多いものの役目として、その生態を記録していかなくてはという事も考えるようになっていきました。

ちょっと遅めスタートですが、今シーズンもミサゴ記録取り始めました。













写真:ちょっと遅めスタートですが、今シーズンもミサゴ記録取り始めました。

偶然の産卵上陸痕の遭遇から始まったウミガメの産卵調査へ対象が及ぶと同時に、イルカのおかげで知り合った 秋山章男先生 から強い影響を受けたこともあり、彼らの棲息環境である海そのものや海岸、海岸に見られる植生、昆虫などへと対象が広がりました。
カヤッカーとして関わる場所にあえて限定して線引きしながらも可能な限り広く「南房総の海」という対象を観るという意識を持ち始めました。
対象が広がるにつれて、ぼやけてくる面もありましたが、しかしイルカの群れが南房総を去って行った時にも観察対象がたくさんありましたから、「イルカがいなくなった」ということに固執することもなく、「南房総の海」の中のひとつとしての一時定着したミナミハンドウイルカとして見ることができました。
その後も時々、その他の群れが訪れたり、他のイルカの仲間が見られたりすることもありましたから、その時にはミナミハンドウイルカで得た経験が随分と活かせました。
また館山にコマッコウの死骸が漂着した際に報告した国立科学博物館のストランディング調査には、その後に千葉県での漂着の際には参加させて頂くようになり、それもまた「南房総の海」という題材の中でとても大きなものとなっていきました。

漂着していた鯨類と思われる脊椎。













写真:漂着していた鯨類と思われる脊椎。

こうして、ツアー以外の活動が広がって行く事で、そのフィードバックの場としてのツアーは当初想像していたよりも「南房総を紹介する」というためのものになっていきました。
その後には海岸を散策しながらご案内する「自然観察ツアー」の派生版としてMTBを用いた海岸探索ツアーも始めました。
まだまだ海岸を自転車で探索するということの定着は進んでいませんので、今年の20周年という機会にそちらを強化していきたいと考えて、今年いっぱい20%の割引とさせて頂きました。
一般に自転車で砂浜や岩場を走るということはなかなか難しいと思われると思いますが、私が10年以上砂浜をマウンテンバイクで走りながらウミガメの産卵記録をとって来た経験から、走りやすい条件を選んでツアーを行いますので、無理なく気楽にご参加ください。
お好みによってビーチコーミングをしながら、写真を撮りながら、海浜植物を観察しながら、マウンテンバイクのスキルアップを目指しながら、と1日1組でのツアーですからご要望に合ったツアーを楽しんでいただけますし、ペースものんびりで大丈夫です。
はじめてのスポーツサイクルという方にはまず自転車に慣れるために、サイクリングロードなど安心な舗装路を走りながら十分に慣れてもらえるようにしていますのでご安心ください。

ここは少々難しめの岩場ですが、超穴場。













写真:ここは少々難しめの岩場ですが、超穴場。

こうやって「南房総の海」を記録するという事で、やや意図的に省いてきたことがあります。
それは人間活動の記録で、それは人がそれぞれ活動している人自身が記録していけることなので、それよりも自ら記録を持たない生き物の行いや、自然環境の変化を記録していくことに集中したいと考えて意図的にできるだけ省いてきました。
しかし実際には海岸環境の改変には人の活動が直接関わりますし、クジラやウミガメが死ぬときにも人の活動が関わっているケースもあり、記録として排除できません。
人が自然に働きかけて影響が出た場合には、人の活動を記録するということになり、生き物を記録したいのに人活動を記録しているという状況になる場合も増えてきました。

それは本当はあまり面白くなかったのですが、先日の台風21号で自然の方が人に働きかけるケースでは「自然の行いを記録する」の一環という感じがして、自然と人の関係の面白さを感じました。
もちろん被災した方々もいますから、面白いという言葉は適当ではないのですが、興味深いという意味での面白さがありました。
人が一方的に自然を破壊する様子を見続けていたところ、台風21号の時には自然が一方的に容赦なく、人が長い時間をかけて築いてきたものを一晩で破壊する姿に、自然の凄まじい力とそれに対応しきれないヒトの弱さを感じました。
それで結局、ヒトは弱いから自然を改変したがるのだということが実感を持って感じられました。

今月も風が強い日が多く参りましたが、アオイガイが複数打ちあがりプラマイゼロ?













写真:今月も風が強い日が多く参りましたが、アオイガイが複数打ちあがりプラマイゼロ? 大切にクコの葉でクッションをして持ち帰り。

もちろん今回に限らず過去には大きな災害がいくつも人の活動を破壊してきているのですが、身近な生活の場で、場合によっては私自身も被災していた可能性のある状況での実感として感じられた事は大きかったようです。
今回のケースでは先月の日記で書いたように人が自然を改変したことで、むしろ人への害が大きくなった場所が多々あったことを書きました。
イルカやウミガメのように自然の中にどっぷりと正に浸かって生きているものと比べると、私自身を含めてヒトの生き方の不思議に興味が湧き始めました。
そういったことを考える中で、高潮によって多くの土手が破壊されて現れた古いゴミや、長い間海の中にあったゴミが海岸に姿を見せている姿に単に見苦しいゴミという以上のものを感じるようになってきたようです。

人が海辺や海にゴミを捨てるという行為から生じた結果として、それら人活動の形跡の保存を意図せずに自然が行っていて、しかも不定期にそれらが人々の目に触れるように仕組まれているかのような不思議な感じを受けました。
人に対して自然が何かメッセージを伝えているのかもしれないな〜というような気分にもなりました。
「波の力によって現存している人のモノをゴミと化して、波の力によって人の過去のモノを再現させる」という事が起きたわけで、多分、他の津波被災地や関東大震災の時などの南房総での津波の際にも同じことが起きたでしょう。

美しいガラス製の目薬瓶。




















写真:美しいガラス製の目薬瓶。

そんなこともあって、この12月は暇さえあればビーチコーミングを行っていたのですが、今までにはちょっと興味が湧いても、できるだけ拾わないようにしていた人工物も拾うものの仲間入りをし始めています。
1970年生まれの私が子供のころに親しんだものや、それよりも前のもの、その表記から戦前のものではなかろうか?というようなものまでがありました。
戦時遺跡があちこちでまた見やすくなったことに加え、こういうものでも戦争はついこないだの出来事だと感じられるようになりました。

今までも好きで拾っていた生物起源のものに加え、台風21号によって、海岸拾得人工物という記録対象が増えてしまったような気がします。
いずれにしても海岸を歩いたり、上陸したりしているのですから、一緒に記録するものとしてはとても面白いものだと思います。
どこまで掘り下げられるのか分かりませんが、今年は少し興味をもって見て行きたいと思います。
今年もどうぞよろしくお願い致します。

オレンジ色に染まった海。夕焼けのきれいな季節です。













写真:オレンジ色に染まった海。夕焼けのきれいな季節です。






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