写真:春は潮がよく退いて砂浜が走りやすいです!海岸MTBツアーは特におすすめの季節です!
今月は良い事がありました。
昨年10月の台風21号での高波によって南房総の全群落で消滅を心配していたスナビキソウの少なくとも2ヶ所で発芽を確認できたのです。
いずれも南房総市の太平洋岸で、特に高い波を被り他種の植生も含めて植生群が一夜にして砂浜になってしまったような場所です。
復活した群れのうちのひとつは岩の上にあった地下茎から再出発していました。
広く高く群落を広げておく事がやはり何十年に一度とか、そういう長いスパンで見た時に自らの遺伝子を維持するのにとても大切だということが感じられました。
人の生活についても同じように考えられます。
写真:発芽が確認できたスナビキソウ。もう見れないかもしれないと思っていましたので、いつもの春に再会する時とは違う感覚がしました。
もうひとつの群はスナビキソウの好む「海側最前線の、時々軽い波を被り、潮風を最も受け、柔らかい砂地」という地形が変化しやすい場所を占有して広がっている群落でしたが、山側後背位置に他の植生群に交じって、やや肩身を狭そうにしていた群落の一部が生き残り再起していました。
海に近いところは地下茎からきれいに浚われてしまっていますが、ほんの少し山寄り側でハマゴウの強靭な地下茎を持つ植生の中に埋もれるようにしていたスナビキソウの地下茎はいつもは競争相手だった他の植生に守られ、もしくはお互いに肩を寄せ合いながら危機を脱したという感じでした。
冬の間に発芽の時期を迎え、先行して復活をアピールしていたクコもその中のメンバーと言えます。
普段は競争相手でありながら、外からの危機には腕を組むという感じも人と共通のものを感じられます。
もちろん植物は意識してそうしているわけではなくて、今までそうしてきた種が今も残っていて、今回のような場面でもそれが発揮されたということになると思います。
海でも山でも植生は競争しあいながら共生しているのですね。
写真:クコだけが青葉を示す、南房総で最大規模だったスナビキソウ群落のあった場所。手前のクコの芽の辺りではスナビキソウが大きく広がり、奥の自転車のある辺りまでに様々な海浜植生が密度の高い混群を形成していました。ここは砂の下に岩盤があるためハマゴウが定着していなかったことで他種の消失が大きくなったように見えます。
スナビキソウが顔を出す頃には鳥たちの様子も忙しくなります。
ハヤブサはいつもの崖で繁殖活動に入ったようで、警戒を怠りません。
その近所で繁殖しているトビはハヤブサの動きでソワソワして落ち着かず、浅瀬ではカモメの仲間が暑くて仕方がないといった風に水を浴びています。
ミツユビカモメは沿岸ではあまり見かけない鳥ですが、この時期に時々見られます。
翼の先端の黒が目立ち、一見似ているユリカモメよりも優雅な感じで羽搏くのが素敵です。
夏のような暑さの日もあったり、フリースを着る日もあったりとせわしなく気温が上下しましたので、鳥たちも落ち着かなかったことと思います。
もう少し暖かくなると、まだのんびりしているシロチドリも繁殖活動を始めますから砂浜に何気なく産んである卵にはご注意ください。
親鳥がソワソワしていたら近くに卵があるサインです。
ちなみに卵は年中親鳥が温めているわけではありません、適度な温かさの時には太陽が抱卵をしてくれていて、親鳥は近くで2羽とも食べ物を探している場合があります。
写真:ボラを捕まえたミサゴ。まっすぐに山へ向かいました。
ミサゴの個体識別も続けています。
昨年と同じ個体が同じ場所で同じ時期に1羽記録できました。
こういう個体が繁殖のためにそこに戻って来ているのか、年中そこにいるのかも、そのうち分かってくるかと思います。
ミサゴの巣を見つけるのは困難ですが、おおよその動きをまず掴みたいです。
南房総南端の海岸線は地震で隆起した海岸段丘の奥に急に100から200mほどまで高まっている山が続いています。
魚を捕獲したミサゴは岸から500mほどのそういう山に消えていく個体が多く、その行く先にはきっと巣があるのではないかと思います。
房総の海辺の山々は案外森が深く、植林されたこともなく人に手を付けられずに今まで来たような場所が多い上に、現在ではほぼ全く人けの無い山々がほとんどですので、そういう点では繁殖には安心なことでしょう。
自分が入っていくだけでも困難な場所で巣を見つけて、しかも彼らを脅かすのでは意味がないですし、巣を見つける事よりも海岸で見られる個体の変化とおおよその繁殖エリアを知ることができれば十分かなと最近では思うようになりました。
ウミガメの調査と同じく、どこまでも追求していこうと夢中になると生き物である対象物にとっては迷惑となってしまうという事をよく考えないといけません。
写真:潮だまりにいた外套膜を半分被ったタカラガイ。
この季節は潮がよく退くので、潮溜まりも楽しいです。
浅瀬でも写真のようにタカラガイが這っているのが見られました。
貝殻は沢山見られてもなかなかその生きた姿を見る機会が無いと思いますが、こういう時はいつも死骸にしか出逢えない生き物に逢えるチャンスです。
しかし、生きているものを見ていると、どうしても飼いたくなったり、その殻を欲しくなるという事があります。
私も20代のはじめに小笠原に滞在した際にそういう経験をしています。
その時の貝殻を得た時には、食べるためでなく殻を得るために殺したという罪悪感が残って、後味が悪く、その標本を見る度にその殻のすばらしさを感じるよりも、その時の罪悪感の方がいつも戻ってきてしまい、結局、その標本はほとんど飾らずにしまい込んでいました。
最近その箱を開ける機会があり、以前よりも見やすい場所に保管するようになりましたが、同時にその事を思い出していたところでした。
その生き物が産まれ育った環境で暮らしている姿が最も貴重で、最も多くの情報を与えてくれるのだという事をその小笠原の貝によって教えてもらったのだなと思います。
それがウミガメの卵を触らずに母ガメが産んだ場所で観察し記録するという考えにも影響を与えたようにも感じます。
写真:東京湾の真ん中である富津で見つかったウミガメの甲骨。迷い込んだのでしょうか?
その点で「触るなら、持って帰るなら既に死んでいるもの」というやり方はとても安心です。
漂着する貝殻やイルカなどの骨、死んで打ちあがるクジラ、ウミガメ。
どれも持って帰れるわけではありませんが、物を持ち帰れなかったとしても、その生物に含まれる様々な情報はちゃんと見れば持ち帰ることができます。
持ち帰ることができた物、持ち帰った情報は適切な機関や形で保管、公開されれば、いつか誰かがその情報が必要となった時に引き出せて、結果としてその生物を知るのに役立つはずです。
今月は私も漂着したフルマカモメの死骸を山階鳥類研究所に送りました。
それを求めていそうな機関がどこなのか?この動物は必要とされているのか?という不明点がいつもあると思いますが、インターネットの時代ですので、現場でスマートフォンでとりあえず調べてみる、必要かもしれないという機関が見つかったら、とりあえず連絡してみるというのがスタートだと思います。
研究している人たちも毎日海辺を歩いているわけではなく、日本の海岸線だけでも研究者だけで探索しきれるものではありません。
生物の好きな人、興味はないけれど「必要としている人がいるなら伝えたい」と思う人、好奇心が旺盛な人、そういう人たちはそういう研究を加速させる手助けができると思います。
結果として、その新しい面白い知識が巡って世の中に、自分に戻って来るのを見るのは楽しいと思います。
写真:海岸に時々現れるイタチ。春は彼らも忙しそうです。
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