写真:高波が押し寄せたはずの岩場に今年も咲いた健気なミヤコグサ。
先月に繁殖活動を確認したハヤブサは、巣に出入りをしていますが、奥の方は見えませんのでヒナが無事に産まれたのか、いまひとつ分かりません。
そろそろヒナが孵っているはずの頃なので、ひなの鳴き声が聞こえるようになるまで、気長に待つしかないでしょう。
昨年の台風に晒されて群落の消滅や縮小を心配していたスナビキソウは、他の比較的海水に弱い海浜植生が減少したことで、むしろ以前よりも範囲を拡大し、密度も高めていることが改めて確認できました。
さらに、先月ここで書いていた「種子が波に洗われることによる短距離の分布拡大」と思われる事例もいくつか見つかりました。
種子が海に浮かぶようになっている種では海流に乗って下流に分布が広がるという事がありますが、そのような話の主体は広大な範囲での拡大についてで、しかしそれと同じくらい近辺での分布拡大は大きな意味を持つと思います。
環境が大きく違い、生育できるか分からない地域に広がる場合よりも種子の親株が実を結ぶことができた、生息に適した環境で密度を高め、範囲を広げることも種の生存にとても重要なことだと思います。
今回は他種との混群の中にあった砂の中に埋もれていた種子が高波で洗われて、数メートルから数十メートル程度の範囲に種子がばら撒かれて、そこで発芽したのではないかな?という感じで群落が新たに増えている場所があったのです。
写真:群落の中心部が少し高い位置に移ったスナビキソウ。以前は写真左奥の辺りが中心だったが、そちらはほぼ消滅。
また、今までの観察でずっと同じ場所にあった群落の中心が、今まで群落の辺縁部だった場所に群の中心が入れ替わっているケースがいくつも見られました。
群の中心だった場所は、群れの発生の元になった漂着した種子が流れ着きやすい、つまり波が寄せやすい場所だったのですが、そこから地下茎を長い時間をかけて広げ、その末端を高い位置に伸ばしておいた、その場所が今回の高い波を被らずに済んだり、被ってもわずかだった為にむしろ他の植生が排除されたその位置に広がっていったというものでした。
群れから延び広がった地下茎を岩のクラックの中をつたって岩の上部に株が見られたところでは特に岩の上の群落が大きく発達しているという様子でした。
岩上の群落については、不思議なことがあって、今まで過去にもずっとそこに小規模に広がっていた群落が、元となった砂地の群が弱ったのを見て、「その分こっちががんばらなくては!」と思ったかのように、急速に勢いを増していたことでした。
今まで静かに、しかし確実に位置を保ち続けていた岩の上の株が、役割を演じる時期が来たことを知っているかのようでとても不思議でした。
海水を直接かぶることで何か養分を得るか、刺激が起きるのかな?と思いましたが、とても興味深い姿でした。
このように今回の台風を経て、スナビキソウは南房総全体で安定した地位を得たように感じる変化を見せました。
写真:漁業者が通るための歩道が高波で完全に破壊されたために、小型の重機が入って道が作り直されたところにあったスナビキソウ群落。道路再生の際に完全に掘り起こされた様子でしたが、少しだけずれた場所に大きく広がりました。また道路脇に作成された花壇状の場所にも株が発生していて、驚きました。そこに盛られた砂に種子が含まれていたのだと思います。
そして今年もそのスナビキソウ群落にオスのアサギマダラはやって来ました。
ただ、気温が低かった事と台風での影響で芽吹きが遅かったことで、スナビキソウの状態とアサギマダラの飛来とのタイミングがあまり良くなかったように感じました。
アサギマダラはスナビキソウがやや葉が枯れたころを好みます。
アサギマダラはスナビキソウの花の蜜を吸うためにスナビキソウ群落にやって来るわけではなく、スナビキソウに含まれるピロリディディンアルカロイドという成分を吸いに来ているためで、その成分は葉の枯れた部分から最も摂取しやすいようで、アサギマダラはその枯れた茎や葉を探して大抵は株の付け根を目指して砂の上を歩いたり、スナビキソウの密生している中を大きな翅が邪魔だろうなと感じるような感じで歩き回ったりしながら、枯れた部位を探します。
そういう部分の中でも特に成分が吸い出しやすい状態の場所を見つけるとアサギマダラはいったん飛び立ってもまた同じ場所に戻ってくることがよくあります。
そのくらい、そういう枯れた腐りかけたような状態のスナビキソウを好むので、健常に青々として広がり花が満開の、人が見て良く見える状態はあまり好みません。
むしろ株が十分に成長し花が咲いた後に大時化が来て群落が波を被り、全体に茶色く枯れ死しているような状態が大好きなのです。
しかし今月はいつもならアサギマダラが多く飛来する時期に葉が青く、風は強かったものの波を被るような時化もなく、枯れた葉を探すのに苦労している様子でした。
今回アサギマダラが見られた群落は館山岸の一か所だけで、その他の群では見られませんでした。
それは群落の状態が関係していると考えています。
写真:写真:潜り込むようにして成分を吸汁中のアサギマダラ♂。
その他の海浜植生もサイズや位置を変えたりしながら再生をしてきています。
特にセリ科の植物の潮に対応する能力の高さを改めて感じました。
海岸のセリ科は砂地にハマボウフウ、岩の上にはボタンボウフウ、ハマウドが主に見られますがこれらは今回の大波を十分すぎるくらい被った場所で以前と変わらず姿を見せていました。
特にハマボウフウはスナビキソウ同様に波を被ったことで強くなったのではないかという印象でした。
これらの花は海岸に多くの昆虫を引き寄せています。
多くは花に集まりますが、キアゲハの幼虫が棲んでいたり、カメムシの仲間、アリの仲間、甲虫の仲間などよく見るととても多様です。
海岸でこれほど昆虫の集まる場所はありません。
セリ科植物は海岸の生物の多様性に大きな役割を演じています。
それになにより存在感があります。
写真:ハマボウフウにいたキアゲハの幼虫。
内房某所のハマナタマメの群落が見られた場所にも再度確認に行きましたが、やはり全く姿が見られなくなってしまいました。
またここにはたしか10年くらい前からずっとあったワダンという海浜植物があったのですが、それも波を浴びて岩盤上の土壌ごと流されてしまったことが分かりました。
ワダンは南房総では意外と少なくて、ここにあった小さな群落は私が初めてワダンを見た場所でもありました。
他にもまだありますから南房総から消失したわけではないですが、東京湾岸のものとしては希少だったのではないかと思いますので、ちょっと残念です。
ここのハマナタマメ群落を確認に行った21日にはカツオノエボシが今年初めて漂着しているのを見ました。
その後太平洋岸などでも見られるようになり、暖かい海の季節の始まりを感じました。
写真:打ちあがったカツオノエボシと上陸したカヤック。海面を漂う者という点で仲間なのかも。
カツオノエボシは美しいですが、非常に強い刺激と毒性がありますから、打ちあがって干からびていても触らないように注意してください。
お子さんは特に好奇心から触りたくなる姿のものかもしれません。
危険な生き物ですが、とても興味深く美しいので、観察対象としてはとても好きな生き物です。
危険だから嫌いと言って観ることをしないと、ますます危険な存在になるわけで、漂着した姿をじっくり眺めることはとても良い経験になると思います。
カヤックはカツオノエボシが浮いていたとしても、安心してそばで観察することができるような海の遊びとしては珍しい類のものです、サーフィン、SUP、ウィンドサーフィン、シュノーケリング、どれも海に出ようとした時にカツオノエボシが漂着していたら海に出るか迷うかと思いますが、カヤッカーの場合であればサーフゾーンで波を被る場合には怖いですが、沖に出てしまえばほぼ問題ないので、「今日は浅瀬にもいるんだな」と情報把握して迷わず海に出るでしょう。
海上でカツオノエボシを見かける場合がありますし、一度はカヤックのデッキにカツオノエボシが波とともに乗船してきたことがあるので、油断はできないですが。
夏でも長袖が良いですね。
写真:カヤックは浅瀬の探索にも最適です。黒いのはパドル、青いのが船体。
このカツオノエボシが漂着した場所は、少し前にアカウミガメが漂着した場所とピッタリ同じ場所でした。
アカウミガメとカツオノエボシと夏間近と感じさせる生物がやって来ましたので、もう海は暖かです。
実感しに是非、お越しください。
梅雨もやって来ますが、梅雨入りと宣言されると晴れが続くのもいつものことですので。
梅雨の晴れ間は最高のカヤック日和ですよ。
写真:黄色いスナビキソウ!今年も見つかりました。
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