写真:多少風の強い日もベテランには良い練習日に。
昨夜の台風24号(TRAMI)は館山でも最大瞬間風速36m/sという数字を記録したりして、全国で風速の観測史上記録を塗り替えていったようです。
この台風前までに行ったウミガメ巣の観察では白浜でたった3か所しかなかった全ての巣で時期を十分過ぎていながら孵化脱出が確認できませんでした。
最近では巣を掘り返しての孵化率調査を行っていないのですし、9月に入ってからは毎日調査ではありませんから脱出の見逃しがあり得ますが、いくつかの台風での地形の変化などの影響を考えると無事に孵化するのは難しい状況でした。
他の不定期調査の海岸線では孵化脱出までの確認はできていませんが似たような状況だったと思います。
このまま年々、台風の強さと頻度が増せば日本でのウミガメの繁殖に大きく影響が出ると思います。
写真:6月から見続けているケガをしていた居残りセグロカモメは北から戻って来たウミネコたちと一緒に過ごすことが多くなりました。(全身が白い個体)
今年は猛烈なだけでなく、間髪入れずどんどんやって来ては海が時化るために漁師さんの船の陸揚げなどの対応の忙しさが目立ちました。
進路が異常な台風もありましたし、予想していたタイミングや波の寄せる向きがずれて、想像以上の被害が出たりもしていたようです。
このような状況ですから異常気象の時代にあって天気予報の存在の意味が薄れてきているのを感じました。
いっそのこと気象庁、天気予報業者には実況や直前数時間前の予想を確実に詳細にする方に力を入れてもらって、前日から一週間前という早期の予想はむしろあっさり諦めてやめてもらっても良いと思います。
特に自然相手の活動を行う場合には予報のズレは命に関わる危険な情報にもなりますが、いっそ予報がなければ緊張感を持って現場の天候の変化に注意するはずです。
もちろん自然相手の活動をする場合に活動をする本人が実況天気図などから実状を把握して自身で独自に予想し、それに加えてあくまで参考として天気予報を見るというのが当然とも言えます。
しかし、実際のところ最近では漁師さんでさえ予想値を信じ、天気図を見ることは減っているのではないのでしょうか。
写真:沖ノ島から、うっすら虹が昇る。
今回のような台風では陸にいても生活の基盤となるものが破損して大変ですが、海辺や海の上に出て初めて生活が成り立つ漁業者の方々の苦労には及ばないと改めて感じました。
また海を楽しむ人々もなかなか海に近づく機会を得られない海の状況が厳しい日が多く、それを提供する側としてもなかなか心苦しい気持ちになるシーズンでした。
しかし、まだ「でした」とは言えない、むしろシーカヤッキングには最適なこの10月こそは是非とも海に来て、海に向かい合ってみてほしいと願っています。
海の怖さと楽しさと美しさと、全てひっくるめて海を好きになってしまうと、むしろカヤックに乗れない時化の日にも「どデカい波を見に行ってみよう!」とか、「潮風に当たってボーっとしてみるのもよいかも!」という風になってきて、その休日にカヤックに乗れたかどうかは二の次という風になっても良いと思ったりしています。
シーカヤッカーの海の楽しみ方が「カヤックを漕ぐこと」だけではあまりに楽しみ方が浅く狭く、それは「シーカヤッキング」とは言い難いものなのです。
「シーカヤッキング」に含まれる行為にはボーっと海を眺めることも含まれていると考えています。
写真:カヤックツアーの昼食時に上陸した海岸。東京湾にもこんな海岸が残っています。人が小さく見えます。こういう場所ではボーっとしてみましょう。
そのボーは本当にリラックスして海岸で寝そべって眠くなるようなボーの時も必要ですし、ある場合のボーは客観的には「あの人海見てボーっとしているな〜」と見えても、その人にはいろいろなものが見えている、見えてくるというボーの場合もあります。
2種類のボーのどちらも楽しめれば「シーカヤッキング」は時化ていても楽しめますし、シーカヤッカーとして楽しみの幅が広くなると思います。
というわけで、シーカヤッキングを楽しむならビーチコーミングも良いですが、ビーチボーイングをもっと楽しみましょう。
もしボーがあまりにもレベルが高く、難しいようでしたら写真を撮るのもおすすめです。
海を撮ったり、海辺を撮ったりしているうちに「海」を見慣れてきて、きっとそれはカヤックを漕ぐ時に役立ちます。
それに慣れてくればカメラなしでもボーイングが可能になると思います。
シーカヤッキングは「パドリング」と「ビーチボーイング」と「計画、準備」と「用具の世話」というようないくつもの楽しみがひとつになっているという事になります。
だから「カヤックを買ったからシーカヤッカーになりました!」というのではなくて、むしろボーを極めたビーチボーアーであるなら、たとえパドルを握った事がなかったとしても、ある面ではかなりのシーカヤッカーの素養を持っていると言えるのではないかと思うのです。
ただしカヤックに乗ってからは、眠くなる方のボーイングはやめておきましょう…。
カヤックに乗ったらボーに見えるけどボーではない方のまじめなボーの方でお願いいたします。(わかりにくい?)
写真:写真:カヤックの利点のひとつ。カヤックが上陸できるのは砂浜だけではないという事実はあまり知られていないかも。
そんなボーイングをしていると昔の航海者はどれくらい高度なボーをしていたのだろうという興味も沸きます。
海辺でボーとしているだけで明日の天気、海の様子まで判断し、その先の水平線の向こうの海の様子まで分かってしまったりする高度なボーです。
究極の憧れのボーですね。
そんな人たちが乗っていた舟の中に、太い木を繰り抜いて作った丸木舟、もしくは刳り船というものがありました。
館山市の海岸線の遺跡の中からもそれは出土していて、その昔館山湾は丸木舟の世界でした。
そんな丸木舟ですが随分と長い間、館山湾からその姿を消してしまっていました。
唯一は我々シーカヤッカーが乗る近代的な工法と材料で作られた遠目にはかなり似ているシーカヤックか釣りの人が最近よく使うシットオンカヤックがその代わりを務め始めていたところでした。
しかし、やはりそれはシーカヤックで、大木を繰り抜いて作られた丸木舟ではないので、似て非なるものでした。
先日、幸運なことに実際に大木を繰り抜いて作られた丸木舟の進水式が館山であり、その見学をさせて頂くことができたのですが、その時の衝撃は大きなものでした。
やはり本物の丸木舟が浮き、進み、進路を変え、波を越えるという姿を見た時に、似たようで違うものだったということを体感してしまいました。
乗ったわけではないですが、身体で理解したような感じがしました。
しかし、とにかく丸木舟の海だった館山湾に長い年月を経て、また丸木舟が浮いた素晴らしい瞬間に居合わせることができた幸運に感謝しています。
写真:丸木舟とそれを操船するカヤッカーたちの雄姿!
今回のこの丸木舟は国立科学博物館が行っている「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」の一環で作られたものでした。
石斧から手作りされ、石斧で切り出された丸太を用いて、石斧で成形された徹底的に古代の手法を貫いた製作法で作られた貴重なものでした。
私もお世話になっている、館山の海に面した東京海洋大学の施設で、今回その丸木舟の進水式が行われたのでした。
完成後のこれが本当の初めての水の上へ出る場所が実際の海で、しかも当日はすでに到達し始めていた台風24号のうねりも多少加わる海面でのことでした。
トラックから降ろされた船体を見てみると普段乗っているカヤックとは違い、底は丸く、前後の反りも少なく、艇の長さに対して幅は狭く、そして繰り抜きは深く、なにより非常に重く、重心や形状からくる安定性が十分なのか?進路を変えるのにどれくらいの半径が必要なのか?もしも転覆した場合に再び乗り込めるのか?といろいろな疑問と心配が勝手に浮かんできましたが、見学者として客観的に見ていられたのは助かりました。
もしも自分の艇だったとしたら、余計な心配ばかりして結局進水できないくらいだったと思います。
写真:館山湾を背景にした丸木舟。
そんな心配をしながらもその艇の美しさとか、新鮮さとか、今となっては斬新さに感じられるような姿と、手で彫られた船体の木の手触りと、それに関わる方々との出逢いにワクワクして、やけにお喋りになっていたりもしました。
そして日が落ちるころその舟はやっと水に浮かんだのですが、その浮いてからの姿と出来事はあまり言葉でうまく表現できないのですが、頭で考えていたことが全てひっくり返されたような気分で、「凄い凄い!」をボソボソと連発しているしかできないような感じでした。
その姿はそのうちテレビや国立科学博物館のサイトでも見られるようになるはずですから、お楽しみに残しておいた方がよいかなとも思いましたが、掲載許可を頂きましたので少し写真を貼っておきます。
この艇は実際に浮かべて漕ぐことを繰り返してまだ変化していく過程だそうです。
今後どんな艇になっていくのか見守っていきたいと思います。
太古の人々の究極のボーが生み出した、究極の姿でもある丸木舟を皆さんも是非興味を持って見ていただけたらと思います!
写真:夏の思い出?海岸でかわいいスイカが結実しました。
「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」
「南の島へ行こうよ」門田 修 著
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