カヤック日記


2019年9月の出来事



写真:嵐の前の静けさだった7日の海。















写真:嵐の前の静けさだった7日の海。

今月は台風15号という今までに千葉県が経験したことのないレベルの風が多くの被害を残していきました。
大きな台風といえば2017年の台風21号が最近では最も被害を残しましたが、その時は高潮と波による海岸線や港湾施設の破損や海辺の建物の損壊が主な被害でした。
今回は風と雨による被害が主体でしたので、海岸線の変化はそれほど見られず、しかし海岸から見渡す山の側面や、その下に広がる住居への被害が広く見られます。
風は南から吹いていたので北に面した地域と南に面した地域で大きく被害状況に差があるのが分かります。
特に海から見て北側に見える今まで木々で覆われていた山の斜面で、木が風に激しく揺さぶられて根が剥がれるのに伴って、岩盤の上の薄い赤土ごと斜面を滑り落ちたのだろうという場所が多くみられます。
斜面がそれほど急でない場合には倒木同士が絡み合うようにお互いが落ちるのをなんとか防いでいるかのように見える場所もいくつもあります。
それも全体に薙ぎ倒されるのではなく、周りの木々は今まで通りのように見えるのに、ある一部だけが何故かそうなっている事が多いのも今回の特徴でした。
台風通過の前後には竜巻警報も続いていましたので、竜巻が谷を抜け、海から山に登ったというシーンをイメージしてみると、その景色に納得がいきます。
家々の破損状況もそういう感じで、隣り合っていながら被害の大きさが随分と違うというケースが多くみられます。
建てられてから経過した時間が影響しているのも確かなようで、新しい建物は無事なケースが多いようにも見えます。
海岸線で毎年台風の影響による風を受け続けてきて50年や70年経っていれば、当然多少は弱っていたのでしょう。
家の耐用年数は「壊れるまで」というのが普通ですが、少なくともメンテナンスや部品交換という定期点検が本当は必要なのだと感じました。
家を持つというのは建ててから維持、補修、そして解体までを考えるととても負担の大きな存在だと感じます。

写真:台風15号が通過した9日を挟んで7日(下)と14日(上)の南房総市東京湾岸の風景の変化。木々が多数倒れた事で山並みが乱れ、岩肌が白く見えています。














写真:台風15号が通過した9日を挟んで7日(下)と14日(上)の南房総市東京湾岸の風景の変化。木々が多数倒れた事で山並みが乱れ、岩肌が白く見えています。

今回のような風を経験すると家の耐風力に疑問が湧いてきます。
台風が東京湾を北上した9日、館山で吹いた風は最大瞬間で48.8m/s(175.7km/h)だそうです。
この速度をほぼ真四角なバスが出せば、かなりの風の抵抗ですが、流線型のスポーツカーであれば全く問題ありません。
むしろ、速度が出せる設計の自動車や電車では積極的に風を利用し、車輪が浮き上がらないようにする為のダウンフォースを得るために風を利用するデザインを採用しているのが普通です。
一方、稀ではあっても100q/h以上の風を受け止めることのある家は普通は側面が直角に作られています。
建築物はほとんどが容積を重視するために、風を受けるのに適当とは言えない形ばかりを採用しているように見えます。
昔はそういう地域では防風林があり、それぞれの家にも家が隠れるくらいの生垣があり、風を弱めてくれていましたが、以前防風林があったところに道路ができて、生垣も無い背の高い建物が建っていくことで建物が海から真っすぐに突き進んできた暴風を直接受け止めることになっています。
もちろん住んで暮らすには壁が直角な方が何かと便利ですし、圧迫感も少ないというのは誰もが知っている事ではあります。
しかしせめて海辺や広い畑や平原の中にポツンと建てる家に関しては空気抵抗に配慮したデザインを採用しても損は無いと思います。
スポーツカーとまではいかなくてもステーションワゴン程度の形を目指すことはそんなに難しくないと思います。
しかし家の場合、自動車と違って風を受ける方向は一定ではありませんから四方に向かって同じように空気抵抗を考える必要がありそうですが、地形によっては、例えば海に面していて、背後は山というような立地であれば海に向かっての空気抵抗を主に考えれば良いですし、地形と立地の影響を十分考えればそれほど違和感のないデザインで今回のような風による被害を最小限にできるはずだと思ったりしました。

写真:砕ける波を目の前にして寛いでいるシギたち。シギを人のサイズに置き換えてみるとかなり巨大な波ですが、理解と準備があれば危なくないから怖くないということでしょう。













写真:砕ける波を目の前にして寛いでいるシギたち。シギを人のサイズに置き換えてみるとかなり巨大な波ですが、理解と準備があれば危なくないから怖くないということでしょう。

カヤック日記で家の事を延々と書くのは珍しいことですが、今回の出来事は海辺で暮らすということに関してまたも考えさせられる出来事でしたので、カヤッカーとして海の傍で暮らす上で何が大切かについて考えるという点では、それほどおかしな感じでもないかなと思います。
カヤッカーでいつかは海辺に暮らしたい!と思っている人は多いと思います。
その時までに様々な海辺暮らしの実際を少しでも知り、更に想像をめぐらして、どこを住処にするか、どんな家に住むか、どんな準備をすべきかという事を考えるのはとても大切なことだと思います。
それでまず究極の選択を挙げてしまうと、強風が当たり前に吹くアリューシャン列島でもカヤッカーがいたという事に行きつきます。
そしてその強風の海辺でどう暮らしていたのか?という疑問にも辿り着きます。

アリューシャンでカヤックを漕ぐにはどうしていたのか?
そんな風の中を漕げるのだろうか???と思うと思いますが、カヤックは風が止んだ時に漕げばよいのです。
「風が強い」と言っても年がら年中吹いているわけでは無いので、止んだ隙を狙って漕ぐのが普通でしょう。
アリュートには「風は川ではない」という言葉があるそうです。
川は流れが永久に続きますが、風はいつか止まります。
しかし住むにはどうしたら良いのでしょう?
空気抵抗を減らせばよいのです。
どうしたら究極に空気抵抗が少ないでしょう?
地下に住めばよいのです!
実際にアリューシャンに住んでいたアリュートの住居は半分地下なのでした。
地上に見えるのはこんもりとした丘のような正に流線型のスポーツカーです。
これは海っぺりに住みたいカヤッカーの家として究極の夢の家でしょう。
もちろん近代的な材料とアイデアは盛り込めますし、かっこ良い新たな住居として定着するかもしれません???

写真:私の部屋に飾ってある「ウナラスカの人々とその住居」の版画。左の人が立っている場所が住居の屋根にある出口。カヤックも描かれています。キャプテン・クックの航海に同行した画家ジョン・ウェバーによるもの。















写真:私の部屋に飾ってある「ウナラスカの人々とその住居」の版画。左の人が立っている場所が住居の屋根にある出口。カヤックも描かれています。キャプテン・クックの航海に同行した画家ジョン・ウェバーによるもの。

カヤックを発明し発達させた人々は風や水という自然に対して、とても素直だったのだと思います。
風が止むのを待つ気長さは生き延びるために重要だったはずですし、カヤックのように水に挑まないで済む形状の発想、風を受けようもない半地下の家という考え自体が現代人には欠けてしまった感覚だと思います。
自然の動きを無視して人間の予定通りにすべてを進める効率重視の感覚、それを叶えるために必要な乗り物は水や風の抵抗をパワーで強引に押し進めるような大きな船やバス、トラックのような容量重視の形をしていますし、住居は真っ向から風を受け止めても勝てるように頑丈にしたうえに、どんどん上に伸びてきたマンションなど、発想が面白いくらい逆です。
現代人は今までの強引な生活様式と技術を変化させて、その技術を自然に逆らわない方向に向ければもっと楽に楽しく生きられるのじゃないかな?と思うのでした。
とりあえず、家を風の中でも全く心配のないものに変えてみたいものです。
一つ付け加えるならば津波に対する配慮も必要です。
津波が家の上を通過するだけで済めば押し潰される心配もありません。
これも側面の抵抗という事が大きな問題という点では風に対するのと同じですので、気密できるドアと窓を装備して、室内の空気で浮力が発生しても浮き上がらないようにする設計と津波が退いて安全になるまでの酸素も必要ですね。いや、むしろ浮き上がって船となるとか?
こんなにしたら、もう家そのものがシェルターといった凄いものになってしまいますが…。

写真:灯台は高波と強風について特に配慮した建築物だと思いますが、今回の台風でこの野島崎灯台含め多数の灯台が被害を受けました。撮影9/3













写真:灯台は高波と強風について特に配慮した建築物だと思いますが、今回の台風でこの野島崎灯台含め多数の灯台が被害を受けました。撮影9/3

そういえばウミガメにとって最初の家となる巣穴は、文字通り地下にあります。
海辺で最も安全なのは地下だと知っている生き物は多いと思います。
様々な小生物も砂浜に穴を掘って住んでいます。
カニが砂浜に開いた穴から出てきて走っているのを見たことがある人も多いと思います。
海岸で漂着物の清掃をしている小さな生き物は大抵砂の中の住人です。
そしてそれを食べに来るのかは不明ですが、地底の住人の代表であるモグラも海岸にやって来ます。

9月6日には南房総市の東岸で6月25日に産卵を確認したウミガメの巣で子亀の脱出痕を確認することができました。
先月のカヤック日記で、巣内で動きがあったためにできたと思われる窪みの写真を載せましたが、その巣の、まさにその位置でした。
やはり子亀が地中で動き出していたのでした。
不定期での観察ですので、脱出した日は分かりませんが、明瞭な足跡が少なくとも4個体分確認できました。
うち2個体はほぼ迷うことなく真っすぐに海に向かい、1個体は最初少し向きを間違えてから海に真っすぐ向かい、もう1個体はずっと向きを間違えていました。
ちょうど海とは90度の方向に向かって、やや迷いながらも川に出るまで、その向きで歩いていました。
川は観察時には乾いていましたが、足跡がちょうど川辺で消えていたので、子亀が歩いていた時には雨で流れていたのかもしれないですが、もしかするとまだまだ迷って歩いていた足跡が続いていたものが、その後の雨で消えたのかもしれません。
子亀が向きを間違えたのはここをいつも読んでいただいている方は良くお分かりと思いますが、今回も光の害でした。
この子亀が向かった正面には海岸林の向こうにマンションがあり、高層部が見えている状態でした。
真っ暗なこの海岸で、そのマンションの灯りはかなりに光として子亀の目に映ったでしょう。

写真:真っすぐに海に向かう子ウミガメの足跡。















写真:真っすぐに海に向かう子ウミガメの足跡。

6月29日に根本海岸で唯一産卵があった(と考えられる)巣では未だに脱出した様子を確認していません。
問題がなければ8月の末が子亀の脱出が確認できるはずの時期でした。
また8月3日に南房総市の南岸で確認した巣では今日10/1で60日経過し脱出時期に来ていますが、今日の確認では脱出痕なく、週末毎に続いた台風で巣のある位置は大量の漂着物で埋もれるような状態でした。
その漂着物のほとんどが川から流れてきた後に海岸に漂着したと考えられる竹や樹木でしたので、自然の状態と考えて手を加えていません。
何がウミガメにとっての親切なのかは難しいところです。

この10月6日には「南房総ウミガメ報告会2019」と銘打って小さな会を催します。
台風15号で悲惨な被害を受けた南房総で、こんなのんきなイベントをしている場合ではないのでは?という気持ちもありましたが、8月から決めていて会場も日程を確保して頂いている状況で、この観光に陰りが出かねない被災状況で私たちまでも会場キャンセルをしては申し訳ないという気持ちもあり、予定通り催行することとしました。
会場の根本は比較的被災の度合いが弱く、会場となる海岸の宿もほぼ被災無しで済み、宿のオーナーさん自身が「根本は不思議なところだよ!」と驚いていました。
根本海岸も大きな変化はなく、根本海岸の中央に位置する中州と磯の名称である御神根が根本を守ったんだな〜という感じがしました。
オガミネはもしかすると御亀根「亀様のいる根(隠れ岩)」という事かなと思っていて、その磯の沖側をカヤックで漕いでみると実際沢山のウミガメがいるのです。
神と亀は似た音で、根本はやっぱりカメに守られているんだと思ったのでした。

写真:9/6の子亀脱出口から見た風景。















写真:9/6の子亀脱出口から見た風景。

そんなわけでイベントを行いますが、ありがたいことに今日10/1時点であと定員20名まで3名となりました。
南房総の海辺を代表する根本海岸でウミガメの産卵地としての海辺の実際を改めて見て頂く機会にしたいと思っております。
初めての試みで何かと上手くできないかもしれませんが、もしよろしければ是非ご参加ください。
詳細はお知らせのページに載せてあります。
どうぞよろしくお願いいたします。

お知らせのページ
http://6dorsals.com/news.htm

Wikipedia「Barabara」(アリュートの住居について)
https://en.wikipedia.org/wiki/Barabara

参考図書
アリュート・ヘブン 新谷暁生 著 須田製版







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