写真:一昨年の猛烈な台風21号で破損して補修された海岸線の小道が再度大きく損傷していました。19号は15号よりも海岸線の構造物への影響が大きかった。
先月は台風15号、今月は台風19号が日本を通過しました。
どちらも巨大で強力な台風でしたが、南房総への影響大きさは15号の方が桁違いに大きく、19号の被害は15号で受けた傷が癒えぬ間に再度上塗りした為ということが多かったようです。
台風自体のサイズは19号の方が断然大きかったのですが、15号ではちょうど南房総が影響を受けやすい位置でした。
館山の記録では15号は最接近時9日2時の気圧978.2hpa、3時風速24.9m/s、その日の最大瞬間風速48.8m/s、19号最接近日12日20時974.9hpa、21時風速19.3m/s、その日の最大瞬間風速33.9m/sでした。
気圧では19号の方が低く、当初の予想では館山でも15号と同等の風が予想されていましたが、実際は15号の方が最大瞬間風速が凄まじく、突風や竜巻のような風が一発で破壊していったのでしょう。
また樹々の倒れ方からすると局地的に突風が吹いたのも分かります。
海でカヤックを漕いでいる時、全体では問題ないような風の日でも地形によって生じた強い風は力強く、航行に影響が出やすいので同じようなものだと思いました。
地形などの局地的な影響を考えると予報で表される数字以上の力が働く事も考える必要がありますが、空気は目にも見えず分かりにくいので難しいです。
自分が風になって流れていくイメージのようなものを持つのが良いのかもしれませんが、鳥はそれをしているのではないかと思ったりします。
鳥は明らかに風を「見る」ことができていると思います。
写真:15号で倒された木々。根が失われた斜面が多く19号に加え大雨もあり、崖崩れが心配です。
空気に比べると水は我々人間でもその姿が見えますし、水を体感しやすいカヤックでは数字と実際の「強さ」は別の問題だということを感じ取りやすいです。
例えばサーフゾーンを岸から沖に向かってカヤックで出て行く時に頭から波を被りながら、波をくぐるようにしながら沖に出る時があります。
そういう時にカヤック自体は鋭く水を割く流線形ですから抵抗をほとんど生じないのですが、そこから生えているように突き出している乗船している人の上半身が水の抵抗を受けます。
その時の衝撃で同じ高さの波でも海底の形や波が育った状況によって差が出ますが、それを身体で感じられます。
「2m」という波がどれも同じ「強さ」を意味していないということを理解するのは、頭では難しいですが、身体でそれを受け止めればそれは一目瞭然というか一撃瞭然という感じで忘れられない体験になると思います。
わざわざ必要を自ら作り出して、屋外で、移動して、宿泊して過ごすというアウトドアでの体感的な経験の延長に、情報から災害の度合いを予めイメージする力を養うことや、怖さを知るということ、状況に対応した行動力とか判断力、必要に応じて待つことに慣れるとか、直観の養成に成り得るという事は多くの「アウトドア」をする人が感じていることだと思います。
もちろん、アウトドアをしたから台風が避けて行くわけではないのですから、被災しないというわけではなくて、ちゃんと自然に向き合って対応考えて、できる限り対応して無難にしていこうとする癖を持つことが大切だと思います。
写真:15号で倒されてしまった木の根の裏側(元々下だった側)から、その木の葉が芽吹いていました。木の持つ凄まじい生命力。
カヤックを漕ぎに海に行くとき、その波を受けて沖に出るのか、出ないのか、出るなら、その波を越えていけるだけの練習をした事があるのか、そこで転覆した場合の様々な場面に対応する方法は知っているのか、その波の中を沖に出たからにはその波の中で岸に帰ってこれるだけの経験を積んでいるのか…。
毎回、考えたらきりがないくらい考えて海に出てみていると、だんだんそれらの判断が適切なものになってくると思いますが、ズレはいつもあります。
だから「ズレ」の分も余裕をもっておくのが大切です。それのおかげで私も今のところ死ぬことなく海から帰ってきています。
もちろん「今日は海に行くべきでない」という判断もあります。
とにかくアウトドアでの「遊び」には命がかかわるものが普通です。球技ではなかなか死にませんが、「アウトドア」ではそういう事故が起こります。
命をかけて遊んでいるというわけでなく、人が生きている以上、そこにはいつも当然命が関わっているのです。
結局はクルマの事故で死ぬ場合も同じだと思います。
クルマの事故で毎日亡くなっている人がいるのに自分は事故はしないと考えられる思考でアウトドアをすれば同じようになるでしょう。
アウトドアでは初心者もベテランも関係なく死ぬ可能性があります。それぞれ、それなりのフィールドを選ぶとそういうことになるでしょう。
だからアウトドアで遊んでいる人はいつも死を視界に入れて、向こう側に死を見ながら適度な距離を保って「遊んで」いるので、台風の時でも死の危険があるかないかは何となく分かると思います。
その自然との距離感を習得するのが「アウトドア」と呼ばれるようになった行為なのだと思います。
それにしても「次の瞬間に死ぬ可能性」は実は日常の方が断然多いとは思うのですが…。
写真:こちらを見下ろすハヤブサ。しかしあの風雨の中を彼らはどうやって凌ぐのでしょう。
「シーカヤックや登山のようなアウトドアは危ないね」と言って、そういうものから距離を保つことも人によっては適切な判断だと思います。
様々な個人差があるのですから、そういう点で「しない」というのは最も大切な判断だと思います。
しかし、少しそういうものに触れてみることで、自然の世界とただただ距離を保って暮らしている事も危険だという事に気づくかもしれません。
台風や地震のように突然、向こうから接してくる自然を、今まで人工的な世界だけで暮らしながら全く隔てていたことで「対応が分からない」とその時になって気づくより、普段からアウトドアで少し接しておいて感じておく事や見ておく事が免疫力を付けるのに役立つと思います。
テレビや行政の情報だけを収集して分かった気持ちになったり、対応を自分で判断せずに行政の支持を待つというのは、自分の身体のことなのに病院に任せっきりにして、普段は健康に気遣うこともなく過ごし、予防接種や薬に頼って病気に対応していくような感じではないでしょうか。
時間をかけて少し熱を出したり、下痢をしたりしながら、栄養をつけて病気にならないように免疫力のある身体を作っていくという気持ちで「アウトドア」をしてみる事で今回のような異常な台風の本当の恐ろしさと、それにどう対応したらよいかの指標が得られるのだと思います。
結局は自分のことなのですから。
写真:秋の空は雲が面白いのでお勧めです。雲は自然からのメッセージでもありますね。
台風15号と19号の合間の穏やかな日に「南房総ウミガメ報告会2019」という小さな会を催しました。
場所はウミガメ産卵地で私が初めてウミガメの足跡を南房総で見た根本海岸としました。
最寄りの宿でウミガメに関する報告と出来事をスライドショーでご覧いただき、その後海岸を散策しながら今シーズン根本海岸で唯一となった巣の場所まで歩きながら過去の出来事などをお話しさせていただきました。
今回は実は当初チドリの繁殖について知っていただく機会を設けたいというのが思い付きの最初でした。
あまりに知られていないにも関わらず、人が知らずに危害を与えてしまう可能性が高いからでした。
特に夏以外にも海に訪れるような海好きの人ほど。
それで考えていくうちにウミガメの産卵地としての南房総がチドリたちの産卵地でもあるということに絡めて紹介してみたらどうだろう?という風になり、それは結局南房総の海辺のこと全般を知ってもらわないと、それらの産卵はあくまでその中だからこそ行われている営みだということを知っていただかないと…。
という風に変わっていき、結局その代表であるウミガメを主題として南房総の海岸自然について知ってもらえる機会としたいということになりました。
それでウミガメの巣をご案内した後には今年コチドリが繁殖した場所で出来事をお話しし、その後部屋に戻ってチドリの繁殖から、その他南房総の海の出来事についても見ていただきました。
写真:南房総ウミガメ報告会2019、根本海岸でのワンシーン。お散歩のように…。
なかなか長い時間でしたし、こちらの準備も十分でなく、参加された方にはご迷惑もおかけしましたが、なんとか無事終了しました。
参加していただいた方々、ご予約希望いただきながら定員で参加できなかった方々にお礼申し上げます。
初めての試みでなかなか難しい事もありましたが、こうやって記録してきたことを知っていただく機会を持たないと溜め込んでも仕方がないなということを再確認しました。
このホームページでも毎月ある意味の報告を行っていますが、やはり直にお会いして相互にご意見や質問をいただくことで私には気付かなかった事に気づかしていただけるという事もあり、またぜひこういう機会を設けたいと思いますので、今回参加された方も今回参加されなかった方も、またの機会には是非ご参加いただければ幸いです。
またスライドショーは南房総だけでなく、出張が可能ですのでご要望ください。
今年はウミガメにとっても人にとっても受難の秋となりましたが、これからまだまだ状況は厳しくなるのかもしれません。
自然の中で遊びながら自然を理解し、その中で暮らしていく方法を探るためには、今まで以上に自然と接する機会を増やす時だと思います。
特に成長過程の子供たち、若者がこれから先の自然を先読みする手段としてアウトドアでの活動は大切になっていくと思います。
写真:ミサゴが夕焼けを見て観天望気するための灯台。
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