カヤック日記


2020年3月の出来事



世の中が大きく変わろうとしておりますが、いかがお過ごしでしょうか?
世界の状況が刻々と変わり、人の生命が多数失われ、今までの生活が大きく変化しつつある中、南房総の海辺はまるで別の世界にいるかのように鳥たちが繁殖を前に忙しく働いていますし、浜辺の花は咲き、美しい夕焼けは変わらず沈んでいきます。
これほど人間界と自然界が隔たった様子を見せるのは私が生きてきた間では初めてですが、過去には戦時など多々あったはずです。
ウイルスも自然界の存在であるということを忘れがちですが、そもそもヒトも自然界に属していた存在です。

写真:コチドリやシロチドリが番で行動を始めています。













写真:コチドリやシロチドリが番で行動を始めています。

「自然界」とはつまり地球に属している世界という意味ですが、その中でヒトだけが人間界という別の世界を造り出していくようになり、今はもうすっかり地球から離れた存在になってしまっています。
自然界を見渡すと、今回のヒトの姿は正に仲間外れという感じで、多数派で地球を牛耳っていると自ら思い己惚れていたはずなのに、自然界からは無視されて寂しく人の世界に引き篭もるしかできなくなってしまいました。
今まではヒト自らが自然界から距離を置いてきたのに、今は自然の方がヒトから離れていこうとしているように見えます。
ヒトはいてもいなくても良いような存在だったと気づかされてしまいました。
ヒトの活動が縮小し、汚染が産業革命以降なかったレベルで減少しているそうです。
ヒトがいなくなり、汚染も薄まり、自然界は祝い賑わっているかのようです。

写真:飛行機が減り、車が減り、そして船も減って明らかに空気がきれいになった空を飛ぶミサゴ。













写真:飛行機が減り、車が減り、そして船も減って明らかに空気がきれいになった空を飛ぶミサゴ。

もし、今回のことを教訓にもう一度地球の一部としてヒトが自然界に属したいと願い行動を始めれば、ウイルスは弱毒化してヒトを救うのではないかと感じています。
今、ヒトがウイルスに対して感じている恐怖は地球がこの100年くらいの間にヒトに対して感じてきた恐怖なのではないかなと思っています。
ウイルスは宿主を殺しつくさないように適度に徐々に弱毒化するといいます。
ヒトは宿主である地球を殺す前に弱毒化を自ら課すことがうまく出来ませんでした。
結果として、間接的な宿主である地球を保存するためにウイルスはヒトに対して攻撃をするようになったのかもしれないと想像しています。

写真:満開のハマダイコン。















写真:満開のハマダイコン。

しかし、そもそもヒトは地球のパーツでしかないはずで、役割がなければ存在しなかったはずで、その役割が何なのか分からなくなってしまって、地球にとって不要になってしまうところまで来てしまったのかもしれません。
ヒトが「地球をまもろう」とかいう考え方自体が根本的な間違いだったのかもしれません。
「地球のため」に排出ガスを減らしたり、水質汚染を減らすという努力はとうとう出来なかったのに、自分たちが死にそうになったら数か月でリセットするくらい改善できたのです。
「地球をまもろう」の意味は「ヒトが暮らせる場所を保とう」ということで「地球のあらゆる生命と土地、水、空気を大切に未来に残すためにヒトが影響を残さないようにしよう」という意味ではありませんでした。
それはちょうど海岸のゴミ拾いイベントのようなもので、それはたいていはヒトが快適に過ごせるビーチを保ちたいという欲求による行動でした。

写真:岩井海岸から、南無谷、富浦、塩見、砂取、野島崎までの広範囲で確認した謎の黄色い漂着物。















写真:岩井海岸から、南無谷、富浦、塩見、砂取、野島崎までの広範囲で確認した謎の黄色い漂着物。

地球の住人として、他の生命に対して迷惑をかけていることを自認し、貴重な自然環境である海岸に現れたヒト活動の悪影響を取り除くための作業としての所謂ビーチクリーンは滅多に見たことがありません。
ただただマッサラにすることがクリーンというヒトにだけ有用なビーチでしかなくなっているために、ビーチクリーンが盛んな海岸ほど生物は少なくなっているという状況です。
海岸に打ちあがった海藻や魚の死骸、ウミガメの死骸、クジラの死骸はそこに棲む生き物の貴重な食糧です。
食物連鎖という言葉は教科書的にはかなり普及しましたが、ビーチクリーンをしている人に海岸の生態系は見えていません。
自然界にヒトが都合の良いように手を加えると自然界では困ったこと(困るのはヒトではなく生き物たち)がほぼ必ず起きるので、ヒトは本当は手を出さない方が良いのです。
拾うべきゴミは、ヒトが製造し、本来海辺に落ちているはずのない人工物だけを取り除けば良いのです。
しかし、それでは海水浴や観光にも海辺の居住者にも不評になります。

写真:アカウミガメの死骸漂着(3月5日館山見物)















写真:アカウミガメの死骸漂着(3月5日館山見物)

クジラもカメも腐れば臭くて苦情が出ます。
役所は大慌てです。
それでいて経済に必要な網干の臭いや投棄された見苦しい廃棄漁網に苦情はないようです。
結局、経済のためであれば良いということです。
ヒトの視点はヒトの暮らしの快適さと経済とのバランスだけに向いています。
磯や砂浜、砂丘で過ごす小さな浜の鳥たちや植物の棲む場所はたまたま残っているだけで、経済的に利用する価値をヒトが見出した瞬間にそれらは埋められてしまいます。
こういうことをある程度までは許容されてきたのが今までの時代だったと思います。
しかし、一瞬で全てひっくり返されてしまいました。
「最後に勝つのは自然」ということが、間もなく証明されてしまうように感じます。
今はウイルスから人の生命を守ることで精一杯な時ですが、この峠を越えることができて下り始めた時には出来るだけ枝を折らず、足跡を残さずに進む方法を考えないと、また危険な目に遭うと思います。
太古のまだ十分な武器を持たず弱かったヒトが山に入るときに恐れを抱きながら、魔物に襲われないように密かに静かに過ごした感覚を現代の生活に取り入れて、自然界の一部としての役割を再考して生き延びていくしか道は残されていないと感じます。

写真:長年放置された漁網















写真:長年放置された漁網

この状況に対応し、シックスドーサルズとしては4月1日からの営業の休止を決めました。
本来、自然の中、特に海の上などはウイルスの存在からかけ離れた場所であるはずで、むしろ閉ざされた屋内よりも安全なはずと思います。
しかし今回のケースでは私自身いつ感染しているか分からない状況であり、無症状でも陽性のケースがあることを考えると、私自身は非常に神経質に体調管理を普段からしている方ですが、それでもお客様と屋外で距離を置いて接するとしても不安が残ります。
もちろん、お客様から私の方に感染することもあり得ます、そうすると次のお客様には結局迷惑をかけてしまうことになります。
また南房総に来ていただくまでの交通にお客様のリスクがあります。
公共交通機関はもちろんですが、自動車で来ていただいた場合にも万が一の事故の場合、医療に大きく負担がかかっているところですし、病院に行くこと自体に普段の何倍ものリスクがあります。
日常では考えられない様々なリスクが存在しています。
そのうえで行動の自粛も要請されています。
千葉県での現状は、様々な状況は違いますが、ちょうど2011年の震災のあとの時期に近いリスク量を抱えていると感じます。

写真:布良の岩盤。地元のおばあさんに「娘の頃はこの上で泳いでたんだよ」と以前お聞きしました。関東大震災で隆起する前の海岸線で泳いでいたということです。















写真:布良の岩盤。地元のおばあさんに「娘の頃はこの上で泳いでたんだよ」と以前お聞きしました。関東大震災で隆起する前の海岸線で泳いでいたということです。

2011年3月以降も長い間営業の休止をしました。
あの時は主に高頻度の余震、それに伴う津波の可能性の高さから安全確保ができないという判断からのものでした。
放射能の影響もまだ計り知れず、お客様も私も不安がありました。
シーカヤックのガイドという立場では普段から空模様、海況について判断し、安全確保を行っていますが、2011年や今回のようにガイドの判断の限界を超えた要素がある場合には素直に休止するのが正しい判断と考えています。
ある意味では冷静に判断したつもりです。
2011年の時も休止をせずに継続していたカヤックツアー業者は多く、むしろ休止していたところはあったのかな?と分からないくらいなのですが、普段から用心深く安全確保している延長として今回も判断いたしました。
きっと、想像していたよりもあっけなくウイルスは去り、シックスドーサルズは相変わらず大げさ…という評判を得るのだろうということで済んでほしいと願っております。

写真:3月17日に伊豆諸島沖で観測された竜巻が野島崎から見えていました













写真:3月17日に伊豆諸島沖で観測された竜巻が野島崎から見えていました

シーカヤックでサーフゾーンを越えて沖に出るときには波が崩れるタイミングを見計らいながら、全力で漕いだり、崩れ波を被りそうだという時には一時後退をもしながら、一進一退を繰り返しながら突破します。(ちなみに上陸も同じです)
もうみんな沖に向かって漕ぎ出してしまっているのですから、今はまず目の前にそびえている大波を乗り越える事に集中すべき時と感じます。
岸に戻りたいと思ってもサーフゾーンに入ってしまった以上Uターンして岸に戻るのは、波に対して横を向くことになりますから転覆の可能性が高くなります。
沖まで漕ぎ抜けられるかの判断は岸で決定しなければなりません。
漕ぎ出さないという判断はとても重要でしたが、もうみんなずっと昔に漕ぎ出してしまっています。
サーフゾーンはガイドも手助けできない、自分の能力で乗り切らなければならない場所です。
パワーもいりますし、おっかない波を冷静に直視して判断する精神も必要です。
気持ちが負けると転覆します。
あとは今までにさんざん練習し蓄えたスキルも助けてくれるでしょう。
リカバリも練習した甲斐があるというものです。
うまい具合にサーフゾーンを越えて沖に出られれば、大抵は波はうねりとなって転覆の心配は少なくなります。
皆さんと私自身が生き延びれば沖でまた会えるはずです。
沖まで出られればきっと気持ち良いうねりの中を一緒に楽しく目的地目指して漕ぎ進んで行くことができると思います。

写真:また穏やかな海でお会いしましょう。















写真:また穏やかな海でお会いしましょう。

だいぶ長くなってしまいました…。
フィールド調査は外出に問題が生じない間は継続します。
南房総の海は人が少ないですし、その点で私自身へのウイルスの問題は無いと考えています。
ここカヤック日記やFacebook、Twitter、Instagramでは今まで通り、南房総の海辺の様子をできるだけお伝えできればと思っております。
私にとってフィールドに出るのは、遊びでなく仕事ですので、海辺で見た人の目に「相変わらず海で遊んでる人」という風に写るのは困ったなと感じますが、あくまで楽しみが基盤なのも確かです。
でなければ続きませんでした。
そういう風な生活になって随分経ちますが、今回のような気分は初めてです。
様々なことが凄まじい速度で変化していますから、今日書いたことが明日当てはまるのかは全く分かりませんが、現在のところをお伝えしました。
またきっとそれほど遠くない季節にまたみなさんと元気に南房総でお会いできるのを本当に楽しみにしております。
それまで、どうぞ健康に十分すぎるくらい注意してお過ごしください。

写真:昨年の台風では大変な被害を受けた布良の夕焼け













写真:昨年の台風では大変な被害を受けた布良の夕焼け







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