写真:雨の日ばかりでしたし、海水浴場もやっていませんから6月がずっと続いているかのようだった根本海岸。
先月「7月からは学校の夏休み期間の短縮などもありますから、明らかに通常との人の量に差が生じてくるはずです。」と書きましたが、実際に人の出入りは例年とは比べ物にならない量でした。
特に海水浴場でありキャンプ場でもある根本海岸では車両の海岸への出入りもできませんし、路上駐車の違反取り締まりも重点を置かれている様子でクルマを停める場所が確保できない事で利用が非常に減りました。
根本キャンプ場が開設されなかった事で根本海岸のウミガメの産卵地としての状況はリセットされたというか、海岸として本来の状況に近くなったという感じです。
夜間でも砂浜に人がいて、そこにウミガメが産卵に来るという異常な状況ではなくなり、ウミガメが人の行動に影響されることなく夜の海岸へ自由に出入りしやすい状況となっています。
また日中の利用もほとんどなくなり、週末にいくらか泳いでいる人やサーファーがいたとしても例年と比べれば無いに等しい数です。
これならば産卵に来たウミガメは日中に水中で過ごしている間も負担なく過ごせているでしょうし、夜に上陸する場所としても人気がないというのは安心を感じられるだろうと思います。
しかし実際には上陸数が芳しくありません。
写真:漂着物はいろいろと多めで楽しめました。
根本海岸は20日に上陸した足跡がありましたが、産まずにそのまま海に戻ってしまっていました。
その過程は一直線ではなく幾度か陸と海とに交互に進路を変えていて、やはり光の影響を受けていたように考えられます。
根本海岸の中央部は300mほどの奥行きがあるため道路からも離れていて街灯の光も遠く、今回はキャンプ場で海岸内に設置されている街灯も無く、暗い本来的な状況の光の条件に保たれるチャンスなのですが、海岸の入口に大きな公衆トイレがあり、トイレの中に光を取り込みやすいように海(南)側に大きな窓があるために、夜になると逆にトイレの光は海岸に広がってしまいます。
今回、キャンプが行われていない状況では、むしろ例年はテントやクルマが置いてあることでウミガメの低い目線からはそのトイレの光が見えにくい状況があったのかもしれないと考えました。
海岸に設置してある小さな街灯よりも、海岸から見れば最も奥に当たるトイレの街灯の光の方が害が大きく、皮肉にも多数テントやクルマがあったことで、その光が遮られていたという可能性を考えています。
夜間にも出かけて光の影響の確認をする必要がありそうです。
結局7月の根本海岸はその産卵の無い上陸のみで終わってしまいました。
産まないで海に帰って行った母ウミガメはどうしているのだろうと気になっています。
写真:平砂浦海岸でのウミガメの上陸痕。まっすぐに上陸、産んで、まっすぐに海へという理想的な痕跡。
その他の海岸ではこれまでに館山市の平砂浦で2ヶ所、南房総市で2ヶ所の上陸を確認しました。
今年は8月に入った今日3日の時点でもまだ台風がないという異常な状況ですので、ウミガメの繁殖に関しては良い条件になっています。
大雨などと共に大時化になる日は多かったですが、台風のような高潮で巣が水没するようなことはありません。
ただ大雨によって砂浜に注ぐ川が海岸の形状を大きく変える事が起きていて、18日には和田浦の海岸に産卵してあったウミガメの巣が川幅が広がったことで削り取られるように巣から卵が川に流れ出てしまうという事例がありました。
和田浦在住のウミガメの産卵に興味を持って頂いている方から連絡を頂き、卵を移植する可能性を考えながら出かけましたが、その日の朝のうちに誰か他の人が対応したようで、既に卵はありませんでした。
もし場所を移すとなると役所の担当者が現場に来る必要があったのですが、当日は週末でその辺りの事を心配していましたが無用でした。
無駄足になった感もありましたが、川で巣が半分に断ち切られたような珍しい状況の断面を見る事ができたのは良かったです。
他に雨や曇りばかりでしたので気温の低さはとても気になります。
6月5日に産卵された南房総市の巣ではまだ子ガメの動きが見られません。
大雨でずいぶん冷たい雨もありましたし、ちょっと心配です。
8月1日に梅雨明けして実際に日照の量が大きく変化しましたので、この後はその点では心配なさそうですが、今度は今まで来なかった分の台風がどういう事になるのかが気になります。
南房総は昨年の台風で過去に無いレベルの被害を受けましたので、人の生活の点でもとても大きな心配事となっています。
写真:クロカナブンの漂着に遭遇。甲虫の漂着は結構ありますが、これは初めて。私自身は初めて知った種でした。
それにしても例年の根本海岸の人出の異常さが今年は冷静に強く実感できました。
素晴らしい海岸ですから遠くから人が来て、その場所を共有することの素晴らしさも感じますが、やはりキャンプ場にするという事の影響の大きさは計り知れないなと思いました。
ウミガメにとってはやはり繁殖の場である海岸に特に重要な産卵期に人がそこで24時間過ごしているという状況は良いとは言えません。
また今回いろいろな変化が起きている中で、根本海岸は海水浴場閉鎖の流れからキャンプ場も開設されなかったわけですが、周辺のキャンプ場が通常営業をしている状況からすると、今後根本海岸のキャンプ場の運営がどうなっていくのかも気になります。
それに実際の問題として海辺のキャンプ場で過ごす過酷さからかクーラーをかけたクルマの中で寝る人がいたり、ゴミを放置したまま帰る人がいたり、特に台風の前などで急速に状況が厳しくなった場合などに多いのですがテントやバーベキューセットをそのまま置き去りで帰ってしまっていたりという、とてもキャンパーとは言えないような人が多い状況も垣間見えていて(もちろん素晴らしい人も多いのですが)、やはり国定公園内の自然海岸をキャンプ場として利用することの限界を感じます。
台風の前後などにはキャンプを行うこと自体の安全確保ができていない状況もあります。
特に一昨年から異常に強力になった台風のことなども考えると、広大な砂浜はそのまま砂浜として日中の利用とし、キャンプ場は海岸道路の山側の土地を借りるなどして、そっちで継続するのが妥当ではないかと感じています。
人にもカメにも、海岸のその他の生物(海浜植生、浜千鳥、海岸土壌生物)にとっても、美しい海辺の景観を求めて来る人にも良い選択ではないかと思います。
写真:ギッシリとエボシガイが付着した流木で何かを吸汁していた複数のアオスジアゲハ。
もうひとつ今回キャンプ場不開設であらためて確認できたことは、夏の空のもとの根本海岸は関東では滅多にない素晴らしい自然景観を誇る場所だということです。
ここにテントの群れがあることでその景観は失われていて例えば写真に撮って人に伝えたくなるような場所では無くなってしまっています。
やはり夏の光の強さは根本海岸の砂の白さを強調してくれますし、他の季節とは全く違う場所に見えます。
そういう場所があるということを多くの人に知って欲しい反面、「どんどん来てください!」と言いにくい状況にはなかなか複雑な心境ですが、SNSの時代でもありますし根本海岸の素晴らしい景色を知ってもらうことで南房総全体の自然環境の素晴らしさにも興味を持ってもらえる機会は変わらずに大切なのではないかと感じています。
そういう点でも景観を重視し、そのうえでインターネット等を通して南房総の自然を発信していくことは大切と考えています。
このページもツアーを紹介するページというよりは南房総の海辺の自然を知ってもらうためのページと考えて毎月更新してきました。
また私自身が初めて出逢った生物なども紹介しながら私自身が新たに知った事を記録する、本来のウェブログとしての機能もあります。
実際に私自身はこのカヤック日記のページを辿って過去の記録と照らすことが良くあります。
見つけたもの、起きたこと、見たものをどんどん溜め込む場所としています。
そんな中で今月も新たに書き残したいことがありました。
写真:今シーズンはコチドリ、シロチドリの親子に付き纏って観察させてもらっていましたが、このコチドリの子の家族が最後のようです。
ウミガメの産卵調査で6-8月の毎朝歩いている海岸線で潮の退いた時間帯に歩くといつもお会いするタコ捕りの方がいるのですが、この方と駐車場で会った時に最近タコが少ないという事と、ヒョウモンダコが結構いるという話になりました。
私はヒョウモンダコはまだ見たことがなく、危険な生き物だからこそ見ておきたいという気持ちが沸いて、見てみたいですね!と話していたのですが、その後海岸でまた会った時にちょうどヒョウモンダコがいるから見てみな!という事で見に行きました。
それはインターネットなどで見た印象よりも赤く、大きいのでこんな色合いの個体もいるのか!?と驚きつつ、しかし小さな斑紋が点々とあって、いかにも毒持ちという感じです。
その方は過去にこのタコを刺した銛を家で洗っていたら手が痺れたこともあるそうです。
私はアレルギーが多い方でもあり、毒には神経質に避けているので恐る恐る撮影だけしてタコもそのままで帰りました。
良い経験をしたな〜と思い、良い経験はシェアしなければという質なので、早速SNSで投稿しておきました。
Twitterは特に反応が大きく、危険生物はみんな心配だからなんだろうな〜と呑気にしていましたが、コメント欄を見たら違う種だという事を書いてくださっている方がいて、そうだったんだ!と…自分でも調べてから投稿しなかった事を反省しました。
何人かの方がコメントしてくださいましたが、いずれもサメハダテナガダコとのことで、調べてみると確かにそのようでした。
コメント頂いた方々には本当に感謝致します。
写真:とても鮮やかなサメハダテナガダコ。噛まれると強い毒があるとのことですので見つけても触れないでください。
Twitterに投稿したサメハダテナガダコ。ただTwitterは記載訂正ができないので、当初のままヒョウモンダコと書いてあります。コメント欄も是非ご覧ください。
以前にも様々な生き物についてTwitter上で様々な方々からいろいろと教えて頂いて、当初予想していなかったような素晴らしい出来事が起きている感じです。
南房総の海辺の自然を紹介したいということが、こういう形で広がっていくのも良いかもしれないと感じています。
それで、サメハダテナガダコですが、この種もやはり毒があり危険な生き物だということも分かりました。
ヒョウモンダコは随分有名になりましたが、隠れた危険生物として実際に南房総にも生息している種を紹介できたのは良かったと思います。
よく調べずに間違えた投稿をしてしまったのは猛省しなければなりませんが、間違えたことで拡散が強まったのかも?と考えると、それはそれで良かったかなと思ったりもしています。
お子さんがこの真っ赤な怪しくも美しいタコに楽しく触れてしまう危険を考えるとひとりでも知って頂く事が出来て良かったです。
カヤックツアーでも危険な生き物はひとつでも多く把握しておかなければなりませんから、何より自身の勉強になりました。
やっぱり知らない生き物には触れないことですね。
写真:以前から気になっていながら拾った事がなかった漂着物のひとつ「モダマ」を初めて拾いました!
南方で育つ巨大な莢をもつ植物の種子です。サヤエンドウの豆の一つがこのサイズと考えていただくと、その巨大さが分かると思います!その巨大な莢もいつか見てみたいものです。是非ネット検索してみてください!
私はアレルギーが多い方なので普段からそうしていて、あまり接触には果敢ではありません。
もちろん、生き物と接するのは怖いもの見たさという場合も多いですし、一見かわいい生き物でも野生のものだということを忘れて接すれば危険が伴うのですから、毒だけが危険なわけではないので常に身の安全を確保するのが大前提なのは屋外活動全般に言えることです。
南房総にこういう危険な生き物がいるという事がマイナスではなくて、そういう豊かな生態系が残されている場所だという事が表現されている一例だと感じて頂けたらと思います。
一方で危険な生き物の外観の美しさには魅了されます。
カツオノエボシは代表的ですが、今回のようなタコ、サメなど人にとって危険な生き物に独特の共通の美しさがあるような気がしています。
「危険な生き物=醜い」というわけでないのは人の側の方にある仕組みがそうなっているのかもしれないと思うと面白いです。
「美しい=危険」という本能的な反応が本来はあったのかもしれないという気がしてきています。
本当に今回は良い勉強ができました!
写真:漂着している姿は珍しくないカツオのカンムリですが潮だまりに迷い込んだ複数の生態を観察する機会に恵まれました。
動画もYouTubeにアップしてありますので是非ご覧ください。↓風を受けてくるくると回転しながら移動する様子が興味深いです。
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