写真:台風10号の波が寄せた富浦で久しぶりのサーフトレーニングをしたり。
月の初めには台風9号、10号が沖縄方面を通り過ぎたことで南房総にも今年初めて台風のうねりが届きました。
しかしウミガメの巣はどれも波を被るなどの影響も無く過ぎてホッとしました。
8月は異常とも言えるような凪続きでしたが、9月に入って急に慌ただしくなってきたな…と昨年の台風の被害が思い出されました。
今回は運の良い事に月の後半に本州の南岸を通り過ぎたDolphin(12号)とKujira(13号)という風変わりな名の付いた台風含め、房総は台風の被害を受けることなく9月を終える事が出来ました。
昨年のようにツアー中止の連発から家屋の被害、長期停電などの場合に備えて備蓄を多めにしたりとかなり覚悟していましたので本当に運が良かっただけとしか思えませんでした。
それでもまだ台風シーズン真っ只中ですから全く油断できません。
写真:漂着の多かった不思議な生き物ギンカクラゲ。この面は太陽光パネルではないかと密かに思ったり…笑。彼らが打ちあがっていたらカツオノエボシにも注意です。(今月私自身が刺されました)
昨年の15号は房総半島にあまりにも大きな被害を残していき、その名称も「令和元年房総半島台風」となったほどでしたが、その台風がやって来る前日まで南房総の人々が十分な緊張感を持って準備をして過ごしていたかというと、ほとんどの人がそうではなかったと言えると思います。
房総は私が越して来てからの四半世紀の間にも幾度か大きな台風の影響を受けていますが、結果的には大きな被害はあまりなく運良く過ぎて行ったという感じがありました。
それで今回も大型らしいけれど、大丈夫だろうという空気があったように感じています。
沖縄地方の方々のように大きな台風の通過に慣れて、十分な準備と覚悟がある人々とは台風への備えや態度が全く違います。
これからは台風が来る度に令和元年房総半島台風の事を思い出して過ごせるようになれば、長い目で見た時には経験が活き、あのような苦い経験もプラスに考えられるようになるのだと思います。
それにしてもイルカ台風とクジラ台風がいずれも陸に上がらずに太平洋を泳いで行ったというのは面白かったなと思います。
名称がその性質を決めたりする「名は体をあらわす」ということもあるのかな?と思ったりしました。
今後は全て海の生き物の名称を付けてくれれば上陸を避けられるのだと良いのですが。(しかしクジラは巨大というイメージも…)
写真:14日、平砂浦で新たに見つかったウミガメの上陸痕。
8月末までに発見したウミガメの上陸痕で産卵していると考えられる平砂浦 3、根本 4、砂取 1、滝口 1の計9か所に加え、今月14日に平砂浦で新たに1か所上陸痕を発見しました。
足跡はかなり薄くなっていて、卵を産んだ痕跡の様子もはっきりしませんでしたが、全体の様子から産卵している可能性が高いと判断しました。
平砂浦は8月の不定期調査の最後が8月19日でしたので、それ以降に産卵していたということになります。
痕跡の不明瞭さからすれば8月中の上陸の可能性が高いと思います。
そしてその他の巣では未だに子ガメが孵化し地上へ脱出した様子が確認できていません。
いくつかの巣ではそろそろ絶望的かなと思っていたところ、9月20日に今シーズン最初に確認した6月5日産卵の巣で地中で子ガメが孵化し動いた結果に出来る窪みと思われる変化が確認できました。
産卵から3か月以上も経って出てくるというのは私は観察経験がないので、是非子ガメの状態を確認したいと思いできるだけ通いましたが、ちょうどその頃から急速に気温が下がり、子ガメの脱出が無いまま9月が過ぎました。
こういう場合に過去であれば、ある程度経った頃に掘り出して海に子ガメを放流するか悩みましたが、今回は最初から手を加えない考えでした。
通常の2か月という期間を大幅に過ぎた状態でも子ガメが地上に出られるのであれば、その子ガメは自然に選択され子孫を残す役割があるという事になりますが、地上に出ることさえ出来なかった子ガメはここで淘汰されるのが自然の摂理なのだと考えています。
写真:ツアー前のカツオノエボシチェックの際に登場したチビッ子ゴンズイ軍団は刺されたくないけど、見ていてほのぼのでした。
せっかく孵化していながら地中で埋もれたまま死んでいくのは、とてもかわいそうな事ですが、地中には様々な微生物もいてそれは全く無駄にはなりません。
今回は人為的な影響が全く無かった訳ではないと思われます、恐らく海岸道路の街灯の影響を受けて産卵位置が決められた可能性があり、また海岸に出入りする人々の踏み締めによる地表が固くなるという事もあったかもしれません。(ここの沖をカヤックで漕いでいる時に大学生の部活動?らしき20人ほどの集団がここを通り過ぎるのを、たまたま見ています)
人の影響による問題が大きかった場合には、それを相殺する形で手助けを行うという考えも持っていますが、今回は大変微妙ですのでそのままにしておきます。
以前3か月経った巣を掘り返して孵化率調査を行った時に生きて埋もれていた子ガメが数匹出て来た事が幾度かありました。
しばらく太陽に当てると動き出し自ら海を目指す個体もいましたが、ヒレなどの形状に問題があったりしてまともに歩けないような姿で、しかしまだ生きているという個体もありました。
その子たちをどうするのかは本当に難しい選択でした。
海に浮かべても泳ぐこともできず、しかし地中に埋め戻すわけにもいきません。
そういう経験もあり、今回掘り出してあげたから必ず良い結果を生むわけではないと考えています。
写真:ミユビシギの群れに加わって採餌していたトウネン1羽(右端)。よく見てみるといろいろ面白い海辺の小鳥たちです。
4日にはウミガメの脱出確認に出かけた根本海岸でグンバイヒルガオの株を見つけました。
長さが52pで青々しています。
しかし、その生えている場所が堂々としていて海岸入り口正面の海水浴シーズンの例年の状況であったなら踏み締めでとっくに消滅しているであろう位置でした。
今シーズンは出入りが制限されていた事で埋もれていた種子が安心して目覚めたのだと思われます。
さらにこの場所は水辺から最短で80mも離れていて、海流に乗って種子が流れ着いた先で分布を広げるというこの種の可能性の大きさを感じさせました。
恐らくは一昨年の台風21号か、昨年の15号、19号のいずれかの巨大台風による異常な高潮の際に流れ着いたものだと考えられます。
ただ海水浴場ですので、定期的に重機による整備が入りますので、その際に動かされた砂の中に種子が含まれていたという可能性もあります。
いずれにしても自然の事だけで考えると好条件(高潮の影響を滅多に受けない)という位置でありながら、ヒト活動の影響は受けやすいという場所ですので、気になって観察を続けていましたが、8日に大規模なロケが当地で行われたのをきっかけに南房総市役所に保護について対応を打診してみました。
写真:館山市太平洋岸のグンバイヒルガオ群落。毎年夏に鮮やかな花が咲きます。
グンバイヒルガオは南西諸島などでは、こちらでいうところのハマヒルガオのように普通に見られる植物ということですが、温暖な地域に適応した種のため関東では滅多に群落が形成されません。
館山市の太平洋岸には恐らく千葉県で唯一ではないかと思われる群落が私が確認した2002年以降越冬をしていますが、かなり稀なことです。
一方で今回のような種子が南方からの流れである黒潮に乗り、高潮で千葉県の海岸に打ちあげられる事により発芽する例は私も毎年のように確認しています。
そう考えると「希少種」ということの意味がなかなか難しいですが、打ち上げられた種子が大きく育たなければ群落にはならないのですから、打ち上げられて発芽した株は少なくとも千葉県においてはそれぞれとても貴重だと言えます。
特に今回のような高潮の影響を受けにくい条件で発芽した場合にはヒト活動で消滅してしまわないように十分に注意しておく必要を感じます。
グンバイヒルガオは九州や四国の一部では絶滅危惧種扱いになっていながらそれよりもずっと東の黒潮の最下流でもある千葉県ではカテゴリ分けさえされていません。
つまり少な過ぎて無い事になってしまっているわけです。
かなり矛盾した状況ですが、きっと多くの種でこういう事が起きているはずです。
日本のレッドデータ検索システム「グンバイヒルガオ」
写真:シーカヤックを漕ぐには最適な季節となりました!(自転車も)
もしも館山市の群落が千葉県で唯一だとしたら、県単位でいえば最も絶滅が危惧された種と指定されていて良いでしょう。
南西諸島の島々にあるグンバイヒルガオと、この千葉県のグンバイヒルガオにとっては凍えるような寒さの中で暮らし続けてきた同種の間に遺伝的な変化があっても不思議はないと思います。
同じ種でも生息する地域でそれぞれ違う存在として扱うべきなのは、特に移動性が高くない植物には言えると思います。
南房総市環境保全課、千葉県環境保全課との話ではグンバイヒルガオが普通種扱いとされているので(ここが問題なのです)、保全を大きく行うことはできないとのことで最終的に私が個人的な保護柵を設ける事は承認し、県と市側は海岸整備の際にも配慮するという事で決まりました。
今回のことで県や市としての同種の保護は出来ないということが分かり、海岸改変が進む館山市の群落の保全も考えていたところでしたので、今後そちらの方をどう対応していくか考えています。
柵は国定公園には設置物の許可が本来必要という県の方の話もありましたので(すでに海水浴場としてシャワー、事務所、電柱など常時設置してある海岸ですが…)、極力自然物で簡素にと考え、打ちあがっていた竹と麻紐で製作しました。
個人で行うのですから金銭的なコストは省きたいですし、自然物で作ることで台風などの際にそれらがゴミとなった場合にも自然分解で問題が残りません。
写真:根本海岸に設置したグンバイヒルガオの柵。是非見学に行ってみてください。
4日の発見当初長さが52pだったグンバイヒルガオは月末までに120pほどまでに成長しました。
面白かったのは、暖かいところが好きなはずのグンバイヒルガオがツルを太陽に向かう南ではなく北に延ばしていることでした。
南には仲間が十分沢山いるから、もっと北を目指すのだ!という分布拡大への強い意思を感じたりしましたが、実際のところはどうしてそちら向きだったのでしょう?
大きな方の群落を観察してきた印象では群が小さい初期には海と逆の方向、つまり傾斜を上る方向に発達し、群が十分なサイズになると海の方へ広がろうと斜面を下るという印象があります。
群が安定するまでは波を被りにくいところに基盤を築けるように退避し、十分に育って種子を海に流し分布を拡大する時期に入るとツル状の茎を海に伸ばしていくのではないかと感じています。
これはハマナタマメの大きな群落を見た時にも同じように感じましたが自然な成り行きだと思います。
今回のことがあって、南房総のグンバイヒルガオの事についてあらためてインターネット上で検索してみたりして調べていましたが、やはり情報はほとんど増えていませんでした。
そんな中で、以前館山市のグンバイヒルガオ群落を案内した方の論文が出てきました。
私信として館山市の群落についても触れられていますので、是非ご覧ください。
「グンバイヒルガオの海流散布の現状とその分布拡大」中西弘樹 (PDFリンク)
写真:館山市塩見に打ちあがったアカウミガメ。南房総でのウミガメの死骸漂着は珍しいとは言えないほど頻度が高くなっています。
9日にはシギ、チドリの観察に出かけた和田方面でいかにも漂着したクジラを埋めたとみられる重機の作業痕を見つけました。
過去にもほとんど同じ場所でツチクジラだったかが打ちあがり、埋められた場所で、海流の影響を受けた所謂クジラ場のひとつだなと感じました。
通行人の方々に訊いたところ、やはりそこに埋められたのはクジラでした。
種類は次の日の房日新聞でザトウクジラと確認できました。
私がここに来たほんの少し前に作業が終わったところだったようで、途中で鳥を見ていないで真っすぐに来ていれば写真くらいは撮れたかもしれず、本当に残念なことをしました。
こういう入れ違いは結構多いのですが、それでもその近くにたまたま来ているというのは何かそういうものを嗅ぎ付ける能力が少しはついてきたのかな?と思ったりもしていますが、単に動く頻度が高いだけで確率は上がるものです。
この頃は天候が不安定な日が多く、雨が降ったりやんだりを繰り返していて虹が毎日のように見られました。
このクジラの日も虹がずっと見られて、同時に幻日も出たりしていました。
今年のこのいつまでも寒かったり、急に暑かったりというちょっと異常な気候の中で多くの生き物が密かに弱り死んでいっていると思いますが、今回のクジラのようなそういう野生の生き物も虹の橋を渡って行くのしょうか。
写真:館山湾沖ノ島後方に鮮やかな虹。
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