写真:シロチドリの巣の記録撮影。GPSの位置情報と共に記録します。(役所などへ保護を依頼する場合に必要な記録として)
4月に入って今年も鳥たちの繁殖活動が始まっています。
21日にはウミガメの産卵地でもある南房総市の太平洋岸の砂浜でシロチドリの卵が見つかり(写真)、23日には館山湾内の海岸でコチドリの卵が見つかりました。
今回発見した2か所の巣の卵はそれぞれ、しばらくして卵がなくなっていました。
捕食されたのか、孵化してヒナが巣立ったのかは今のところ確認できていません。
ちなみにヒナは孵ったあと、半日ほどで自分で歩き出し餌を探して歩き出します。
そういう運動能力はヒトが産まれてから立ち上がるまでの期間の長さを考えると驚きです。
親鳥はその複数の小さくて素早く、自由に動き回るヒナたちを連れて海岸を巡回するように想像以上に広い範囲で動きながら暮らしています。
ヒナの方は南房総ではまだ確認していませんが、24日に富津市の海岸で2組のシロチドリの親子が確認できました。
むしろ北の、少しではありますが気温の低い地域で先にヒナが生まれていたのは意外でした。
富津市の海岸はいくつもの海岸で海浜植生が市により保護されていて、砂丘面も広く、チドリの繁殖にとても恵まれた環境が残されています。
一方、南房総の海岸線は本来自然度が非常に高いのですが、人の手が入る頻度が高く荒れています。
富津市に倣って、館山市、南房総市にも自然を残すことをもう少し念頭に置いて海岸に触れてほしいのですが、豊かなところほどなかなか気づけないのかもしれません。
写真:富津市で確認したシロチドリの親子。左手前にヒナの後ろ姿。
チドリの巣は高潮でも普通は波が来ない海岸で写真のように卵が置いてあるだけというようなものですので、海岸に出入りする際には親鳥の行動に注意してあげてください。
卵がある砂浜では親鳥が警戒し、高い声で鳴きながら警戒対象のカラスやトビの周りを飛び回ります。
同じように人に警戒する場合も周辺で甲高い声が聞こえてきます。
そういう場合によく見ると上空を何度も小さな鳥が素早く飛んでいくのを繰り返し見ると思います。
また他のアプローチとしては、わざと警戒対象の生物の近くを歩き回って気を引くという方法もあります。
やけに近い場所に小鳥がウロウロしていたら実は卵やヒナから人(あなた)を遠ざけるために気を引いて誘導しているのかもしれません。
これはよく行われる方法なので、もしそういう場面に出会った場合は素直に親鳥についていけば自然と卵やヒナから遠ざかることになります。
卵やヒナは環境に似た色柄になっていてサイズもとても小さいので気づかずに踏み殺してしまう可能性が高いですから、できるだけ遠巻きにして、これから夏にかけての繁殖期に海岸を歩くときにはできるだけ波打ち際を歩くようにすると被害を防げます。
特に大人数での海岸清掃はヒナが避難する場所を失わせ、ちょうど追い込み漁のような状態になる場合がありますので、清掃前、清掃中の親鳥の様子に十分注意してあげてください。
写真:南房総で唯一だった根本海岸の群落が台風などの影響で何年も前に消失して以来、久しぶりに見つかった白い花びらのハマヒルガオ。
ヒナの避難場所としてよく使われるのは海岸植生の影、小石の転がる場所でのうずくまり、漂着物の影など状況により様々ですが、歩くことしかできないヒナが逃げきれないと判断した場合には本能的に動かなくなるため見つけることが困難で、結果的に踏み殺してしまうことになっている可能性が高くなります。
南房総の砂浜海岸で繁殖している鳥はコチドリかシロチドリで、コチドリは小石の転がる広い海岸を好み、シロチドリはそれほど広くなくてもヒナが隠れるのに適当な植生の残されている海岸で繁殖しています。
人により海岸環境の改変が行われて植生が失われ、赤土や礫が持ち込まれるとコチドリが増えるという流れが見られます。
そういう点で特にシロチドリが繁殖している場所は貴重です。
2種ともに千葉県では絶滅危惧T類に指定されていますが、環境省カテゴリでシロチドリが絶滅危惧U類(VU)に指定されていますが、コチドリの指定はありません。
コチドリの方が柔軟に環境変化に対応していきやすい生態といえるようです。
それほど遠くない将来にシロチドリの千葉県での絶滅はあり得ると考えています。
少なくとも南房総市、館山市での繁殖は十分注意が必要と思われます。
写真:南房総市東京湾岸の小川のすぐ下の浜で打ちあがっていたシジミガイの殻。マシジミのようですが、上流から大雨で流され海水で死んで漂着でしょうか?まだシジミがいる川が残っているのですね。※3
シロチドリの巣を発見した時には近くの海浜植生群内でスナハマハエトリグモの観察中でした。
この4月は風が強い日がとても多かったこともあり、海上でのクモやムシの調査に行く頻度が下がってしまい、その分を海岸で観察できるスナハマハエトリについて調べるのに費やしました。
まず生息地の確認として機会を見ていろいろな海岸を見て、近場の海岸では以前より詳細な分布を確認することができました。
現段階で富津市の富津岬以南某所、南房総市の東京湾岸と太平洋岸某所、館山市の東京湾岸と太平洋岸某所、鴨川市某所でスナハマハエトリの生息を確認しました。
砂浜ならどこにでもいるというわけではなく、海浜植生の分布状況と海岸地形など、ある程度傾向が偏っていることも分かってきました。
採餌についての観察も繰り返し行うことができて、何を食べているか、何を食べるためにどう動いているかが分かってきました。
そのために予想よりも大きな移動を行っている事も確認できました。
また体の模様が個体毎に差があることを利用して個体識別を始めているので、個体数やこれから先の自然状態での寿命と行動範囲まで分かれば面白いと考えています。
写真:6日には南房総市白浜町でスジイルカが打ちあがり(写真)、29日には館山市の平砂浦で状態悪く種不明のイルカも打ちあがりました。
砂浜海岸の生物の全体像を考える時に小さいとはいえ数の多い捕食者であるスナハマハエトリを考えに入れていなかったことが今とても気になっています。
それはこの種が2018年に新種として記載されたばかりで生態情報がほとんど無いということから、つまり自分が見てきた海岸だけでなくて日本中でスナハマハエトリの存在が含まれないまま海岸生態系が見積もられていたという事を表しているので、それはかなり大きな差になるのじゃないかと思っています。
私がスナハマハエトリに気づいたのは今年の冬でしばらくは数も少なく、稀にしかいない種なのかもしれないと思っていたものが、暖かくなってきて生息適地が分かってくると、実はかなりの数がいて、しかも東京湾外湾(富津岬以南〜洲崎以北)、館山市から鴨川市までの太平洋岸までの海岸と広く生息しているとなると日本中の海岸ではかなりの数になるはずです。
彼らは少なくとも海岸に特有のハエの数の調整にかなり大きな影響を与えていると思います。
その他の生物の数にもかなり影響があるはずで、その生息地の脆弱さと人の活動の影響の大きさを考えると、生息地が失われてからではそれは確認できませんから今のうちにスナハマハエトリの生息地や大まかな数を把握しておかないと、と焦ってしまいます。
そもそも生息数の推定や生息地の記録がなければ将来的に絶滅危惧種として指定しようもなく、ただ「情報不足」と記載されるだけになってしまうでしょう。
海岸は内陸と違って水際に沿った細い線状の環境です。その線は磯で分断されていて、前は海、後ろは環境の異なる空間で囲まれていて、その山側の環境と道路で切り離されればそれでもう生息適地ではなくなっている可能性も見えてきました。
写真:水滴を纏いながらハマヒルガオの下で雨宿りをするスナハマハエトリ。
これは実はチドリの繁殖やウミガメの繁殖についても同じことが言えて、後背地の環境は緩衝区域として、台風の時などに一時的にチドリの親子が避難する場所、砂丘を維持する海岸性低木の生える場所となっていて、スナハマハエトリもそういう場合に砂丘から更に遡り高潮を避けて生き残ったと考えられそうな状況が見えてきました。
これらはもう少し整理して確認して記録として残したいと思います。
4月だけで17回の捕食を確認して、そのうち10回については捕食された生物のサンプルも得られましたので、海岸の生き物の中でのスナハマハエトリの役割も見えてきそうです。
個体識別に使える写真はかなりの数になりましたが、記録が多すぎて整理が追いついていません。
南房総での状況を記録して、ひとつの例としたいと思います。
海岸環境の指標としてもスナハマハエトリはとても大きな役目を果たすはずです。
スナハマハエトリがいる海岸は即保護区に指定したいくらい環境が良いのです。
それは人が「きれいな砂浜」と言うのとはかなり差のある内容なのですが、何が「良い環境」なのかが地球や生き物にとってなのかヒトの気分にとってなのかを区別する必要を感じます。
本来はそれは一致していて、ヒトが本能的に快適と感じる環境のはずなのですが、都市環境に依存して長く過ごしてきた現代人が感じるものが大きく自然から離れてしまっているために起きている誤差と感じられます。
写真:4日、今年初のアサガオガイ。カツオノエボシも確認しました。
私はクモの素人ですので、少し勉強しないとと思いクモの調査でいろいろお世話になっている馬場友希さんが書かれた「クモの奇妙な世界」(※1)を買って読みましたが、そこにも田んぼでのクモの生息状況による環境指標について書いてありました。
この本には他にも海に関わるクモのことも書いてありますし、基礎的な知識を知るのに大変役立ちましたので、お勧めします。
あとはクモの図鑑も欲しいですが大変高価なので、やはり馬場さんの書かれた「クモハンドブック」(※2)もおすすめです。
海の上のクモについてできるだけ継続的に記録しつつ、砂浜海岸のクモの様子についての記録として南房総の海岸での観察をこれも気長に継続していきたいと思います。
ウミガメ、チドリ、クモと昆虫という生態とサイズが大きく違う3つを主体にして、その周辺に関わる生き物や植物、海岸改変の影響を記録するという形になってきました。
対象が増えて、なかなか大変ですが、意義のある記録にしていきたいと思います。
写真:スナハマハエトリを探していると今まで気にならなかったものが目に入ってくるようで、白いアブがたまにいることにも気づきました。白は捕食圧が高そうだけど?実際同じくアブに捕食されている白いアブもみました。
このような実際の調査を基にしてガイディングを行っていますので、興味をお持ちの方は是非ツアーにご参加お願いいたします。
NPOのように活動資金を寄付や企業などから得たりするのではなく、ツアーを有償で行いながら調査してきたことをツアーでフィードバックすることで活動を継続しています。
つまりツアー参加で楽しんでいただきながら活動資金を頂いているということになります。
これが最も人々に近く、それぞれが環境について考える機会を得られる最もシンプルな形と考えています。
また多人数でフィールドに入ることはそもそも環境破壊の一端でもあるということを忘れがちです。
ツアーでは通常参加人数は最大4名参加としています。
私を含めたった5人ですが、例えばチドリの生息地に入った時に起きることを知っていただけると分かると思います。
普段どうしても気づきにくい、そういうことを知っていただくには良い機会と思います。
そして少人数で仲間内だけで参加していただける1日1組のツアーにすることで、安全面含め、自然物の紹介などそれぞれの参加者へ十分に伝達ができる点も大切と思っています。
敢えて小規模で継続している点を理解し、むしろそういうスタイルを好んでいただける自然好きな方のご参加をお待ちしております。
写真:ハマダイコンの大群落のある某海岸へマウンテンバイクツアーでご案内。自動車ではアクセスできない場所に素晴らしい海岸が残されています。
記事関係リンク
※1 クモの奇妙な世界 その姿・行動・能力のすべて 馬場友希 著 家の光協会
※2 クモハンドブック 馬場友希 著 文一総合出版
※3 マシジミ レッドデータ
お知らせ
YouTubeに3件の動画をアップしました。是非ご覧ください。
「スナハマハエトリのジャンプ 2021年4月4日 南房総市」
「イソハエトリ闘争場面 2021年3月30日 南房総市千倉町」
「漂着スジイルカの国立科学博物館による収容の様子 2021年4月7日 南房総市白浜」
「kayak〜海を旅する本」Vol.71
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藤田連載の「カヤック乗りの海浜生物記」は54「ちょっと貝殻を観てから漕ごうよ」編です。
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