カヤック日記


2021年6月の出来事

写真:様々な海浜植生に満たされた平砂浦海岸の砂丘。













写真:様々な海浜植生に満たされた平砂浦海岸の砂丘。

ウミガメの調査は予定通り続いています。
この6月はまだ涼しくて、雨も合間を見て出動すればあまり浴びずに済んでいて比較的楽に調査ができました。(ただ7月に入ってからは大雨が続きましたが)
ただウミガメの産卵は今年もなかなか始まらず、6月は無しかな…?と思っていたところ23日に南房総市の太平洋岸(白浜町)で上陸痕が見つかりました。
状態から判断して産卵してあるものと考えられます。
ただ台風の高潮で影響を受けやすい場所に産んだため台風の度に心配な巣となりそうです。
ウミガメの調査の範囲でスナハマハエトリの記録も続けています。
夏にどのような行動をしているのか、暑いですから春の時期のように長時間の観察はしていませんが、その代わり毎日のように少しずつ記録する感じです。
特に個体識別用の写真はできるだけ撮っておいて秋になったら、それを元にじっくり考察したいと思っています。
スナハマハエトリを観察するようになって初めての年ですから通年の状況の概観ができれば良いなと思っています。

写真:キクメイシモドキと思われるサンゴ。南房総市太平洋岸で数年前にたまたま発見したもの。













写真:キクメイシモドキと思われるサンゴ。南房総市太平洋岸で数年前にたまたま発見したもの。

種子が漂着して分布を広げるハマナタマメやグンバイヒルガオなど温暖な地域の植物の発芽が見つかる季節でもあります。
この6月は特にハマナタマメがいくつか見つかりました。
28日に南房総市東岸で見つけた2株は2.5〜3mほどもあって、ひとつは花も咲いており、ここまで育った株はしばらく見ていないので個人的には大発見でした。
その2つは、すぐ見えるところにあったのも驚きでしたが、南房総市の南岸で見つけた小さな株も5mほどしか離れていないところに、もう1株が見つかりました。
考えてみると豆は鞘で育ちますから、種子単体ではなく鞘のまま漂流し、そして打ちあがり、海岸で鞘が崩れて豆が砂の上に散らばったという場合の状況を想像すると、ある程度まとまった場所でいくつか発芽するパターンは多いのかもしれません。
2017年に初めて見つけたのはかなり大きな群落となったハマナタマメでした。※
発見は同じく6月で花も沢山咲いていて、こんな大きな群落に今までなぜ気づかなかったんだろうと驚きつつ、身近なところにハマナタマメという自分にとって新しい植物の観察対象が増えたことに喜んでいました。
ところが、発見した年の9月にもまた別の株が見つかり、一度ハマナタマメを十分観察したことでハマナタマメを見つけられる目が出来上がったようでした。
継続的な観察が楽しみになっていたそんな矢先、10月に南房総に大きな高潮被害をもたらした台風21号によりそれらのハマナタマメは全て一掃されてしまいました。

写真:美しいハマナタマメの花。その他のマメ科とは上下が逆に開くのが特徴だそうです。













写真:美しいハマナタマメの花。その他のマメ科とは上下が逆に開くのが特徴だそうです。

やっと身近になったのに…と大変残念でしたが、これらの株のおかげでハマナタマメを見つけられる目を得ることができました。
それ以降、海岸に漂着し発芽した株を見つけることができるようになりました。
しかし、十分な大きさまで育ち花を咲かせている株は見つかりませんでした。
そして今回、4年振りにハマナタマメの花を見ることができたのでした。
まるで幻のように消えてしまった2017年の群落のように、このハマナタマメも十分に大きく広がって沢山の実を付けてほしいと思いますが、今回は2017年の群落と比べるとその生育環境が大きく違います。
2017年はカヤックでしかアクセスできない磯の後ろにある脆い崖の斜面に広がっていたのですが、今回はなんと海岸と、海岸に沿った海岸道路の間にある狭い空間で堤防の窪みの中から生えていたのでした。
写真は省いてしまいましたが、なかなか悲しい環境に育っています。
その窪みにおそらく台風の高潮が襲った時に種子が取り残されていたのでしょう。
このような場所ではあまり目立つようになると雑草として刈られてしまう心配もありますし、そもそもコンクリートの上では広がっていったとしても安定しないでしょう。
花だけを見ればご覧の通り美しいですが、やはり自然環境の中でそれが咲いている、その事自体が素晴らしいのだと思います。

写真:たまにオカヒジキが齧られたような痕を見たことがあったのですが、ついにハトが食べている現場に遭遇し理由が判明。意外でした。













写真:たまにオカヒジキが齧られたような痕を見たことがあったのですが、ついにハトが食べている現場に遭遇し理由が判明。意外でした。

6日にはカツオノカンムリという一般にはクラゲの仲間とされる生き物が多数打ちあがりました。
電気クラゲと言われるあの浮袋クラゲ、カツオノエボシにも近い生き物ですがこのカツオノカンムリは写真のように帆を持っています。
これが打ちあがるのは南房総ではそれほど珍しいことではないのですが、今回のように数えきれないくらいの数でしかも新鮮な状態で打ちあがっている場面に遭遇することは稀です。
乾きやすいので、陽が高くなるとすぐに干からびてしまうのです。
それで思い立って個体毎の差異を記録するには良い機会だと思い、真上に向いて、きれいな状態で、新鮮なものだけを選んで片っ端から撮影していきました。
コマ動画にしてYouTubeにアップしてありますので、暇な時にでも見てみてください。
立体的には写真のようですが、真上から見ると、その船体にあたる部分が楕円なこと、帆が船体に対して斜めに設定されていること、更に帆が微妙に捩れているものもあるのが分かります。
この形態で帆走するにはヨットのように適切な向きで船体下部に板状の部位が必要になると思いますが、カツオノカンムリにはありません。
これではクルクルと旋回してしまうだろうと思っていましたが、そんなある日、潮だまりに迷い込んでいた小型個体を観察する機会に恵まれました。

写真:セイリングするクラゲという変わり者。その帆走のための構造は簡単なようで、よくよく見てみるとなかなか不思議です。















写真:セイリングするクラゲという変わり者。その帆走のための構造は簡単なようで、よくよく見てみるとなかなか不思議です。

観察してみるとやはり微風を受けてクルクルと回っていて、移動する能力はほとんど得られていないようなのです。
そしてその数個体は風を受けて離れ離れになることなく、むしろ表面張力の影響も受けながら一塊になっていることが多いのです。
これもYouTubeにアップしてありますので、是非動画を見てみてください。
カツオノカンムリが多数の仲間と群れを作るようにして暮らしていることが今回のような多数同時漂着を見れば分かります。
そう考えると、それぞれがぐんぐん移動するよりも、むしろ黒潮のような強い海流に影響されて群れが散り散りにならないように風の力を使ってできるだけ移動しないようにするために、その姿が役立っているように感じました。
こういう生き物の存在意義は我々人間からしたら理解しにくいですが、これだけの数がそのような複雑なデザインを得て生き延びてきたことを考えれば、海にあってかなり重要な位置を占めているのでしょう。

写真:ハヤブサの雛たちは親鳥が持ち帰った食べ物に大騒ぎ!













写真:ハヤブサの雛たちは親鳥が持ち帰った食べ物に大騒ぎ!

先月確認した内房某所のハヤブサのヒナ2羽は12日のツアーの際に無事に巣立った姿が確認できました!
ツアー中でしたが、私の方が興奮してしまっていて気持ちを抑えるのに困りました。
その後あらためて観察に行き、写真を記録をしました。
ここまでくればもう心配もないので、むしろ邪魔者である観察者は現場に行っていません。
元気に育ってほしいものです。
それにしても海岸に響き渡るヒナの親鳥に餌を求める大きな鳴き声はなんとも心が揺さぶられる感じがします。
あのような大きな声で鳴いていても、巣立つ頃には十分に大きくなって天敵もいないのですから親鳥も心配はないのでしょう。
それよりも十分な食べ物を確保して与えることに精一杯のようでした。
砂浜海岸ではコチドリ、シロチドリの繁殖活動が変わらず続いていますが今年は海水浴場が開設されると決まり、海岸の整備も始まっています。
海水浴場や目立つ海岸での海岸清掃や重機による海岸を均す作業は過去にはかなりの数でチドリの卵、ヒナたちが死んだ原因になっていると考えられます。
チドリのヒナはハヤブサのヒナたちと比べると非常にか弱く見えて、実際に海岸に行ってみると「先日まで走り回っていたヒナが1羽減って…」ということは多々あり、捕食者に対しても人の活動の影響にも非常に弱いものです。

写真:キャタピラーの跡とシロチドリの雛たち。













写真:キャタピラーの跡とシロチドリの雛たち。

また海岸の植物もこの時に大きく手を加えられ、一部の貴重な植物も普通種と一緒くたにされて除去されてしまう場合があります。
そもそも海浜植物というのは海岸線という線上の狭く限られた環境にしか生息できない特性を持っているため、生息環境は分断されやすく、また本来野生の生き物に踏み締められる可能性も低い環境の生息者ですから、人による繰り返しの踏みしめだけでも弱る可能性がありますが、重機による踏みしめは尚更です。
海岸清掃を館山市も南房総市も重機で行うことが多いですが、時代に合った方法と言えなくなってきていると思います。
海岸環境を人工環境と同じ方法で手入れをしていては、一見大した変化を感じないと思いますが海岸特有の種が排除され、それ以外の場所でも生き延びられる種に置き換わってしまうなどの心配があります。
繊細でありながら、一方では海岸の砂丘維持など大きな役割を地味に果たしている海浜植生に対して市はもっと慎重に対応する必要があると思います。
観光資源としても市税を使って植えた草花以上に自然に咲く野生の植物が有用だと知れば役所も多少気を遣うのかもしれませんが、それではあまりに貧しい感覚といえます。
海岸に様々な自然の花々が咲いていることを自慢できる世代がこれからの南房総に育ってくれることを期待しています。

写真:ハマオモト(ハマユウ)の季節です。













写真:ハマオモト(ハマユウ)の季節です。

メモ:6月28日東京湾シャチ目視情報(Twitter)



お知らせ

海上のクモを調べるきっかけとなった2006年と2020年に富津市沖で遭遇したクモについての報告がインターネットでも公開になりました!
Lycosid spiders found in coastal waters of Japan. Baba YG , Fujita K, Acta Arachnologica Vol.70.日本蜘蛛学会.2021
無料でご覧いただけますので是非!
英文ですが翻訳ソフトでぜひ読んでみてください。
ただしソフトでは「ballooning(風を受けて飛行する習性)」が「気球を使って」や、種の名称「Wolf spiders(コモリグモ)」が違ってしまうなど、少しクモについての用語では間違えもありますが、だいたいの事は理解していただけると思います。
この報告がカヤッカーに海の上のクモや虫に興味を持って頂けるきっかけになれば嬉しいです。
更には様々な海上の生き物の研究をしている人たちがカヤックに興味を持つきっかけにもなったら嬉しいです!
J-STAGE(科学技術振興機構、電子ジャーナル無料公開システム)ページ内



南房総で初めてハマナタマメ群落を確認した時のカヤック日記 2017年6月

カツオノカンムリ 2020年7月11日

南房総太平洋岸に大量漂着したカツオノカンムリの真上からの個体差比較 2021年6月6日



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