カヤック日記


2021年9月の出来事

写真:30日、館山湾の塩見に寄せた台風16号の波。













写真:30日、館山湾の塩見に寄せた台風16号の波。

今月も台風が通過しました。
16号は最低気圧920hpaと勢力が強く、房総半島の太平洋岸を掠める時点でも960hpa弱と気圧が低かった為、そこそこの高潮となりました。
最接近したのは10月1日でしたが、それまでにかなり高い波が南西方向から供給され続けていて9月のうちはむしろ内房の方が波の影響が大きくなっていました。
今シーズンたった3か所だったウミガメの巣は既に孵化の時期を過ぎて子亀の脱出痕跡が確認できていませんでした。
そんな中、11日には白浜の海岸線にウミガメの卵が漂着していました。
6月23日に産卵された巣から流出したと考えられる位置で、丸のままのもの×25、割れ×4もありました。
9月に入ってから途端に気温が下がり雨の日が続き、ちょっと異常な続き方でしたが、そのために海岸に流れ込む川の水の量が安定的に増したために流れの幅が広がり、産卵時には水の流れのなかった巣の位置が水流により削られた結果、巣が掘り起こされて流出した後に波で漂着したようです。
6月23日の産卵ですから無事に孵化すれば8月半ばには子亀が海に帰っているはずですが、8月は毎日通っているにもかかわらず、その様子が見られませんでした。
近年は孵化率調査を行っていないため巣内の状態は確認していませんでした。
今回たまたまこういう形で卵の中身を確認しましたが、ほとんどは発生が起きていなかった様子でした。
ただし割れた殻もあり孵化して割れた可能性のあるものと砂の中にいる小さな生き物に食害された結果割れたものがあるようでした。
孵化していた殻は浮力が少ないので漂着が少なかったと考えられます。

写真:11日に打ちあがっていたウミガメの卵。この後割って中の状態を確認しました。













写真:11日に打ちあがっていたウミガメの卵。この後割って中の状態を確認しました。

今回のように毎日通っていて脱出が確認できなかった場合で、孵化で割れた卵があったとすると、巣内では子亀が孵化していながら何かしらの理由で砂の表面に出て来る事が出来なかったという可能性があります。
この巣は8月の2回の台風の際には大雨でしたし、波をいくらか被っていますので、それによって砂が固く締まっていたので関係あるかもしれません。
そういう場合に巣内で孵化しながら出られずにいた子亀が今回のような増水や高潮で巣が破壊されることでたまたま運良く海に帰ることができたという事例はあるのかもしれないと考えています。
また私が孵化率調査をやめた理由もこれに関連していて、孵化率調査は十分に時間を置いて産卵後3か月経ってから行っていましたが、それでも巣内から瀕死の子亀が見つかる事例が多々あったのです。
それを人為的に海に帰してもほとんどの個体は衰弱していて場合によってはヒレなどの形が長期間狭い砂の中にいたためでしょうか変形していてまっすぐに歩けないような個体も多く、それらを海に帰すことが正しい判断とは思えず、しかし生存している以上はどうにかしなければならないという大変難しい判断が繰り返された結果、孵化率調査を行わず、自然に任せるということにしたのでした。
巣内で死んでいく子亀がかわいそうと思われる場合もあると思いますが、それ以前に例えば波の被るような位置に産卵した問題である光害などについて考えることが大切だと思います。
また私のウミガメ調査の指導をして下さった故秋山章男先生の考えとして、うまく繁殖をできない遺伝を持った母亀の子が人の手によって自然に帰ることによりむしろ健全な個体に圧力をかける結果、種全体としては悪い方向へ向かう手助けを人がしてしまうことになりかねないという事がありました。

写真:7月14日産卵のウミガメ巣のある砂丘前面。













写真:7月14日産卵のウミガメ巣のある砂丘前面。

ところで今シーズンはウミガメの上陸痕跡が7月までに3か所しか見つからなかったというところまではお伝えしていたのですが、それ以降の状況をまとめて書いていませんでした。
なんと8月は一度も上陸が見つからず、最終的に3か所で終了してしまいました。
これはかなり異常な状況で、来年以降が心配です。
南房総で最後に確認されたウミガメの産卵を記録するという残念な日が近づいているのではないかという気がしています。
それで例年ですとウミガメ毎日調査が終了する8月のカヤック日記に総数などの報告を書いていましたが、来なかったということも書かずにいたので南房総のウミガメが気になっている方には心配頂いたかもしれません。
数少ない巣でしたが、さらにそれぞれが先に書いた流出も含め、大きく時期が過ぎていながら孵化脱出が確認できていません。
ただし館山市平砂浦の巣だけはアクセスが悪いため観察に通う頻度が低く、また砂が柔らかく風が吹くとすぐに痕跡が消えてしまうために確認ができなかっただけという可能性もあります。

最も期待していた7月14日に産卵された白浜の巣はかなり条件がよく、水捌けもよい斜面にあり、光も見えず、波は一度も届かなかったという巣ですが、これは高頻度で観察に出かけましたが脱出が確認できませんでした。
上陸時に母亀が随分と悩んだ末に産卵した様子でしたが、何か不具合があったのでしょうか。
条件が良く問題も観察されなかった状態で子亀が出てこなかった理由を知りたいと思っていて、もしかしたらここだけは久しぶりに孵化率を調べるかもしれません。
というわけで今シーズンは子亀が海に帰ったというお知らせはありませんでした。
今月末までに提出する日本ウミガメ協議会への報告も寂しいものとなります。

写真:7月30日に発見し観察を続けていたハマナタマメに鞘発見。













写真:7月30日に発見し観察を続けていたハマナタマメに鞘発見。

25日には館山湾に面する自宅近くの海岸でスタッフのなおこが生きたルリガイを発見し海水を入れた容器に入れて持ち帰ってきました。
ルリガイは南房総に住んで年中海辺を見ていれば意外と高い頻度で漂着しますので珍しいとは言えませんが、大抵は乾燥していたり、貝の本体である軟体部は死んでいます。
今回それが漂着間もなく生きていたという点ではとても珍しいと言えます。
同時に多数打ちあがっていたギンカクラゲ、いくつかのカツオノエボシが見られましたが、それらがルリガイの食べ物です。
ギンカクラゲもいくつか生きていましたので、同じ容器に入れて貴重な採餌場面を観察しました。
最初は弱っていたためかギンカクラゲをルリガイに寄せても反応を示しませんでしたが、しばらくその様子を見ていると急に反応し始め、間もなく口吻を伸ばしギンカクラゲの触手状の部位を食べ始めました。
ルリガイには僅かな遊泳能力があるんじゃないか?という期待のような予想は裏切られ、ほんの数ミリも移動できず目の前のギンカクラゲに口が届かないという様子がまず観察できました。
実際の海の上ではかなりの密度で餌生物が浮いていないとまず捕獲できないのだと分かりました。

写真:泡状の浮力体で海面に浮遊しながら暮らすルリガイ(左)と同じく海面を漂って暮らすギンカクラゲ。ルリガイがギンカクラゲを捕まえているのが分かります。













写真:泡状の浮力体で海面に浮遊しながら暮らすルリガイ(左)と同じく海面を漂って暮らすギンカクラゲ。ルリガイがギンカクラゲを捕まえているのが分かります。

ただし口吻と書いたように、細長いその口は伸縮が可能でした。
その形状から吸い込みが可能なのかな?と一瞬思いましたが、そうではなく口を開けた状態で吻を伸ばし噛り付くという感じでした。
また一本ずつ口に入れるだけでなく器用に続けていくつも頬張るように食べていたのも印象的でした。
また口でまず餌を捕まえた後、引き寄せながら足を使って餌が離れないように捕まえることも分かりました。
一旦その足で捕まえたエサはなかなか離れることがなく、大時化の海面でも対応できそうな保持能力でした。
滅多に餌にはありつけないけれど捕まえた場合には絶対に離さないという感じでした。
ただそれほど沢山食べるわけではないようで数時間後に見てみると、餌から離れて浮いていました。
この日は気温が夕方に急に下がったために容器の水温は海の水温よりもかなり低かったので急速に弱ったという可能性もあります。
そしてその次の日の朝にはあれほど活発な採餌を行っていた個体が死んでしまっていました。
当日のうちに海に帰してあげるべきでした。

写真:ルリガイが排出する紫の液体。













写真:ルリガイが排出する紫の液体。

捕食されていたギンカクラゲを見ると触手だけでなく上部の円盤状の部位の縁も欠損していて、よく漂着したギンカクラゲで見かけていたこの欠損がルリガイによる捕食の痕跡だということが確認できました。
また打ちあがったルリガイでも見られる刺激を受けた場合に排出する紫色の液体が水中でどのような状態になるのかも確認できました。
流れのある実際の海であればこれが広がって煙幕のような効果を上げるのかもしれないと考えました。
このような紫色の液体を出す貝というとアメフラシの仲間が思い出されますが、ルリガイは意外と近い仲間なのでしょうか?
今回の観察はできるだけ動画で記録しましたのでYouTubeでいくつかアップしてあります。
最後に貼っておきますので是非ご覧ください。
ルリガイの殻の美しさはもちろん素晴らしいですが、その生きている姿も大変興味深いものでした。
これからは海岸でルリガイの殻を拾う時には彼らの海の上での生活を想像できそうです。

写真:4年7か月後に直線12q離れた位置で確認のミサゴ。












写真:4年7か月後に直線12q離れた位置で確認のミサゴ。

今月の出来事

5日
八幡海岸にてウミガメ漂着の情報頂き現地確認。アオウミガメ甲長93p、甲羅が左右に割れており胃内容と思われる海藻が散乱。(写真)

11日
前記した南房総市白浜のウミガメ巣からの流出卵漂着。
当日のTwitter投稿

16日
南房総市東京湾岸でグンバイヒルガオ株(1.6×0.7m)、ハマナタマメ小群落(3.2×3.4m)発見。
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17日
台風10号、9号により被波した南房総市南岸のグンバイヒルガオ(6/14発見)がほぼ復活を確認。
南房総市南岸でグンバイヒルガオの発芽発見。

21日
南房総市東岸でグンバイヒルガオ発芽発見。
南房総市東岸のハマナタマメその1(7/30発見)に鞘×1確認。
南房総市東岸でグンバイヒルガオ群落(14.2×9m)発見。
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22日
南房総市南岸で撮影したミサゴを個体識別により2017年の2月に山越えで12qの位置で記録した個体と同一と判断。ミサゴシーズン入り。
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25日 自宅近くの海岸でスタッフなおこが生存ルリガイを発見し、同時に漂着していたギンカクラゲの捕食〜摂餌場面を容器内で観察に成功。
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