カヤック日記


2021年1月の出来事

写真:海の上を歩くクモ













写真:海の上を歩くクモ

まず、お知らせがあります。
昨年2020年2月と2006年11月に富津市沖で確認したクモについての共著論文が日本蜘蛛学会学会誌 Acta Arachnologica Vol.70に掲載が決まりました。
タイトルは「 Lycosid spiders found in coastal waters of Japan.」で、英文です。
2月、Twitterにそのクモの事を投稿したところクモ研究者の馬場友希様からコメントを頂き、以降論文化について連絡を取り合ってきました。
私、藤田は現場での写真と位置情報などを預け、馬場様が執筆から投稿の手続きまで行って下さいました。
日本蜘蛛学会 は世界でも最初のクモに関する学会だそうで、そのような由緒ある学会誌で海の上のクモの事を発表できるのはとても幸運な事と思います。
海の上にクモがいるという事が広く知れ渡り、海面の生態系を知るためのひとつのヒントとなればと願っております。
そしてシーカヤックという乗り物の独特な能力を活かす方法のひとつとして、海に関わるものの研究に対する貢献の可能性を示すことができればと思っております。
出版は6月となっており、フリーで公開されますので英文ではありますが、是非お読み頂ければ幸いです。
詳細はお知らせのページをご確認ください。(最下にリンク)

写真:海のスケールの大きさを考えればクモでもカヤックに乗ったヒトでも大差はないのかも?















写真:海のスケールの大きさを考えればクモでもカヤックに乗ったヒトでも大差はないのかも?

カヤックは海であろうと湖、川、沼であろうと水面を往くものです。
その中で私が選んだ場所は海で、シーカヤッキングしかほとんど経験してきませんでした。
それはカヤックに乗りたい理由がイルカなど海の生き物を見るためだったからですが、見て楽しい嬉しいの次には写真に撮りたいという事が自然に出てきます。
写真に撮ったら、どんな生き物なのか調べたい、記録したい…という風になって来ました。
最初はイルカでした、館山に棲み着いたイルカがどこから来たんだろう?と思っていたところに御蔵島での調査の情報が入ってきました。
連絡を取り合ってみると、御蔵島からイルカが来たことが分かりました。
それまでに小笠原やカナダでウォッチングをしてきていましたので、クジラの尾びれやシャチの背びれで個体を見分けて移動を確認できるという事を知っていましたので個体識別を真似事で行っていたのですが、すぐに成果が出たのでした。
こんな面白いことはない!と思いました。
その後、南房総に居ついたイルカに関して「勇魚」という研究者や愛好家の集まりである勇魚会が発行する紙面に発表させて頂く機会を得ました。
好きで調べたことが人に伝わることで役に立つのかもという事を感じました。
「海棲哺乳類のページ」から「ハンドウイルカ」に報告のコピーを載せています。

写真:貝殻拾いは誰でもできる海の生き物調査













写真:貝殻拾いは誰でもできる海の生き物調査

そしてウミガメ、海鳥、海浜植生、海辺の虫というように海面で遭遇する生き物はどれも気になって広がってきました。
ただもしかすると、元々シーカヤックを始めたい動機となったイルカがいつまでも南房総にいたなら、その他の生き物に興味が広がる可能性は低かったかもしれません。
イルカが館山に居ついてからはイルカに夢中でしたので。
しかし何年も観察を続けてきた群れが去っていきました。
そんなタイミングでウミガメの産卵を発見し、故 秋山章男先生と出逢ったことも大きな影響となりました。
先生は「ウミガメやイルカだけを見ていてはだめで、その周辺の環境についても見ていかないと何も分からない」という事を教えてくださいました。
そういうこともあり、興味が広がってきた結果が今なのですが、イルカがまた南房総に居ついたらそっちに夢中になってしまうのかもしれないといつも思っていました。
しかし、よく考えてみるとこんなにいろいろなものが暮らしている海の表面で、イルカだけに興味を持っているのは勿体ないという事が今は分かっているようにも思います。
それでもイルカが来たら自分がどう変化するか分かりませんが…。

写真:眠っているかのようなアカウミガメの漂着死骸













写真:眠っているかのようなアカウミガメの漂着死骸

イルカが去った後に始めたウミガメの産卵に関する調査は毎年日本ウミガメ協議会へ報告してきましたが、何かひとつの形にして発表していなかったので15年目にしてちょうど千葉県でウミガメ会議が開かれたチャンスに発表を行いました。
20年間、毎回ウミガメが上陸する度に足跡を記録してウミガメが何に問題を感じて行動を変化させるのかを考えてきましたので、それについてでした。
詳細はホームページに載せていますので、是非ご覧ください。※「ウミガメのページ」
ウミガメの調査は「シーカヤックに縛られずに活動する」という点でも大きな影響となりました。
シーカヤッカーとして、シーカヤックガイドとして行う活動としてシーカヤックが必ずしも必要のないウミガメの調査を行う事についての拘りは今ではすっかり無くなりました。
それでもウミガメの産卵地の沖にどういう頻度でウミガメがいて、どういう海底地形と産卵する海岸が結びついているのかはシーカヤックに乗ることでよく把握できています。
シーカヤックがなければこの辺りの感覚は得られなかったかもしれません。
シーカヤックでウミガメが普段過ごしている場所を漕ぐということで、自然とウミガメの気持ちになって産卵地である海岸を見ることができるようになったと思います。
多くの場合、人は陸から海を見ますが、シーカヤックに乗ることでウミガメと同じ視点で、彼らが海面から海岸を見て何を感じているだろうか?ということは分かりやすくなっていると感じています。
同時にウミガメの産卵地である砂浜海岸を調べるために用いてきたマウンテンバイクを利用した海岸ツアーを思いついたのはウミガメ調査の副産物でした。
ウミガメの調査では海浜植生の調査も兼ねるようになって、どこにどういう植生があるかは少なくともウミガメの産卵地ではかなり把握できていますので、そういうものもマウンテンバイクツアーでは紹介しています。

写真:1月2日に南房総市で見つかり報告いただいたスジイルカを仮埋葬中















写真:1月2日に南房総市で見つかり報告いただいたスジイルカを仮埋葬中

ウミガメと前後して関わるようになったのはストランディングといわれる、海の生き物の漂着や座礁ですが、初めて見たのは布良の海岸に打ち上げられたマッコウクジラでした。
その海岸ではちょうど当時話題になっていたテレビドラマのロケをしているところで、多くの人が海岸にいましたが、クジラを見ているのは私と女房と、一家族くらいでした。
私は勝手に慌てていて、公衆電話がそばに無いこと(まだ携帯電話を持っていませんでした)、鴨川シーワールドに電話しても実際的な話にならず驚いたことが印象に残りました。
結局、家に帰ってからクジラの本に載っていた日本鯨類研究所へ、今となっては驚きですが手紙で報告をしたのでした。
鯨類研究所から丁寧なお返事が届き、マッコウクジラの漂着記録にも報告者のひとりとして名前を記載してくださったのが、とても嬉しかったのをよく覚えています。
マッコウクジラはその後どう処理されたのか分からなかったのですが、次に行った時には無く、恐らく役所などが海岸に埋めたのだと思います。
そんな事が始まりで、その後しばらく経ってから、坂田に打ち上げられた2頭のコマッコウという当時珍しいとされていた小型鯨類の漂着に遭遇した際には知合い伝に国立科学博物館へ連絡し、この時には次の日に研究者の方が館山に来られて早速解剖して調べるのを見学するという経験をし、それからできる範囲で調査のお手伝いをしてきました。
死んだクジラを解剖するのは力仕事も多く、大物ですから人手も必要なので、私でもできそうな事を手伝いながらいろいろ勉強させていただいてきました。
今振り返ると凄い経験を随分とさせてきて頂きました。

写真:館山湾で見つかった生きているタコブネの漂着。これもストランディング。と考えるとビーチコーミングはストランディング調査。















写真:館山湾で見つかった生きているタコブネの漂着。これもストランディング。と考えるとビーチコーミングはストランディング調査。

今でも同じように漂着があればお手伝いをさせていただきたいと思いますが、最近は南房総での漂着が少なくなった様子もあり、現地に科博の人たちが来て大々的に調査する機会も随分減っていて、なんだかみんなでクジラを調べていたのが懐かしいような、そんな気分になっています。
もちろんクジラが打ちあがらないのは良いことですから、科博の研究者が南房総に来ないのは良いことなのだと思うようにしていますが、複雑な気分です。
ウミガメの漂着はいまだにコンスタントで、こんなに頻繁に打ちあがっていたらウミガメなんてすぐにいなくなってしまうんではないかと心配になります。
先日も健康そうな死んで間もないアカウミガメが漂着しているのを発見し、ウミガメを調べているNPOに報告しました。
イルカ、クジラ、ウミガメといった目立つ動物が死んで人の目に触れると、誰でも原因を知りたいと思うようです。
それが自然界の中での自然な死であれば問題ないですが、人の活動が関わっている可能性があるのかについて研究者の人たちは真剣に調べています。
私自身、それについてとても興味を持っていますから、これからもできるだけお手伝いしていければと思っています。
「ストランディングのページ」

写真:南房総の海辺では珍しくはないけれど、いつまでもいてくれるのかは心配な、色も鳴き声もとても綺麗なイソヒヨドリ。













写真:南房総の海辺では珍しくはないけれど、いつまでもいてくれるのかは心配な、色も鳴き声もとても綺麗なイソヒヨドリ。

海辺の鳥についてはシーカヤックに乗っていれば気にならないはずがない?というくらい身近なもので、普段見かけない種類を見かければ尚更ですが、決まった場所で毎回観察できるようなものではないですから偶然遭遇したものを記録してきました。
特に海の上で主に暮らすウミスズメの類は一時期は特に注目して観察していました。
最近は遭遇頻度が下がっているようにも思いますが、努力量が足りていないだけかもしれません。
特に希少種のカンムリウミスズメに関しては、シーカヤッカーである利点が活かせていて、非常に運の良いことに館山市沿岸で2回も雛を連れた家族群に遭遇しています。
そのうち初回については報告を行いましたので、是非読んでみてください。
「千葉県館山市沿岸で観察されたカンムリウミスズメの雛」藤田健一郎.山階鳥学誌,53-55,2008.(J-STAGE)
雛の貴重で可愛い写真も載せてあります。
内容は山階鳥類研究所の方に丁寧なご指導を頂きながら書き上げることができました。
論文形式のものは初めてでしたので大変苦労したのですが、論文に引用もされていて報告した甲斐がありました。
繁殖地以外での情報がとても数少ない種ですのでシーカヤッカーの皆さんがカンムリウミスズメの家族と遭遇した際には是非とも報告をお願いします。
彼らが巣立った後にどこにいるのかが分かっていない状況のままでは保護ができず、生息地を知らず知らず荒らしてしまっているかもしれません。
その他では某所ハヤブサの営巣は継続的に最低限ではありますが、記録してきました。
これも営巣がカヤックで漕いで行かなければ観察できない様な海食崖だったりしますので、シーカヤッカーであることが活かせています。
あとはこの5年くらい続けているミサゴの個体識別が今最も力を入れているものですが、これも海域によっては海上での撮影が有利なので海岸での観察とと同時にシーカヤックを利用しています。

写真:季節はずれなヒメルリガイ漂着。















写真:季節はずれなヒメルリガイ漂着。

海浜植生の観察でも、歩いてアクセスしにくい場所などではシーカヤックを使っていますし、効率よく海岸線を記録する場合にはマウンテンバイクも非常に有効です。
その中でスナビキソウについては、希少植物となってきているにもかかわらず保護が進んでいない現状と、関東としては群落の多い地域であるということを認識してから特に注目してきました。
その過程でスナビキソウにアサギマダラという蝶が集まることに気づき、アサギマダラの研究をされている方をインターネットで探し連絡を取りましたところ、ちょうどスナビキソウの成分にアサギマダラのオスが集まることが分かって調べ始めているところだとのことで、こちらにも興味が沸き、イルカでも行った個体識別調査であるマーキングを行ったりもしました。
その過程でスナビキソウにツマムラサキマダラという蝶もやって来るのを確認し昆虫雑誌に短文を寄稿したりもしました。
その延長で砂浜に見られる、その他の昆虫も観察した時期がありました。
海辺は虫の棲む場所という印象が無かったので、海浜植生や漂着有機物を頼りにしている昆虫がこんなにいるということに驚きました。
そして今回の発表となった海の上のクモ、そして同時に観察している海面上の昆虫に関しては虫を見ていた時期があったから良かったのだと感じました。
そして今回のケースはイルカ以来というくらい完全にシーカヤックなしでは記録できない対象と考えています。
なかなかいろいろと観察、記録が難しいのですが、大きな船ではもっと難しいですし、例えばエンジン付きのゴムボートなどでもなかなか難しいはずですから、是非ともシーカヤックで成果を残したいと思っています。
気長な性格ですので、何年もかけて何か少し海の上の小さな生き物について知ることができればと思っています。
自分がシーカヤックに乗った理由を突き詰めていった結果として、「シーカヤックに乗って何を見るのか」に焦点を当ててツアーをし、ホームページを作ってきましたが、これからも今まで以上にそれを強めていきたいと思っています。

写真:関東大震災で棲んでいる岩が隆起した時に死んでしまったそのままに今でも残っているカモメガイと海辺の住人イソハエトリグモ。




















写真:関東大震災で棲んでいる岩が隆起した時に死んでしまったそのままに今でも残っているカモメガイと海辺の住人イソハエトリグモ。

「お知らせのページ」 Lycosid spiders found in coastal waters of Japan.Baba YG , Fujita K, Acta Arachnologica Vol.70.詳細

馬場友希様WEBサイト

お知らせ



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発売中
店頭希望小売価格=840円(税込み)
藤田連載の「カヤック乗りの海浜生物記」は53「ミサゴ」編です。
どうぞ宜しくお願い致します。

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