カヤック日記


2019年5月の出来事



写真:5/1に見つかったヒゲクジラの死骸が埋設される前の姿。カヤックツアー中に沖から撮影。















写真:5/1に見つかったヒゲクジラの死骸が埋設される前の姿。カヤックツアー中に沖から撮影。

先月の日記でも少し触れましたが、令和の始まりたる5月1日に館山市の海岸にクジラの死骸が流れ着きました。
ただ「着きました」というのは正確ではなくて、香(こうやつ)という海岸の岸から100mほどのところに漂っていたところで役所からの手配で港の岸壁にそのクジラは繋がれました。
ヒゲクジラでかなり腐敗していましたが外観の形は留めていました。
しかし皮膚が剥げていて体色や模様が確認できず、外観的に種を確認できませんでした。
千葉県立中央博物館の方が到着して、調べミンククジラと思われましたが、次の日に海岸に埋めるために引き上げた時に確認したところ、ミンククジラではなく今のところ不明のままのようです。
一般に思われているよりもクジラの種類を同定(判断決定)することはなかなか難しいことなのですね。
しかし、博物館が持ち帰った様々なサンプルの中には遺伝子を調べるためのものもありますから、DNAで種がそのうち確認できるでしょう。

写真:今月は大きな群れでいる姿を頻繁に見ることができたオオミズナギドリ。













写真:今月は大きな群れでいる姿を頻繁に見ることができたオオミズナギドリ。

今回のクジラで気になったのは口の中から伸びていた漁網と思われるロープの集まりでした。
海面に浮かんでいる状態だった初日にカヤックを漕いで行き確認したところ、そのロープは普通クジラの体表についているようなエボシガイの仲間が多数付着した状態で口の中から伸びていました。
それが死因かは分かりませんでしたし、次の日の埋設時の調査では人手も足らなかったようなので、そのロープが例えば胃の中まで伸びていたのか、それとも口の中でクジラヒゲに絡んでいただけなのかは確認されていないと思います。
私は2日はカヤックツアーで海に出ていたため、ツアーの終了前にお客さんと一緒に現場に短時間立ち寄るしかできませんでした。
その際も、そのロープが気になりましたが、ヒゲの隙間からさらに奥に伸びているようだという事しか分かりませんでした。
そういうことで確認できていないことではありますが、その姿を見た印象では投棄された漁網(ゴーストネットと言ったりします)を採餌中に誤って飲み込んでしまったのではないかと感じました。
そして吐き出すこともできずに暮らしていたのではないかと。
そういう状態で彼女(♀でした)が暮らした期間はロープについていたエボシガイの状態からするとそれなりに長い月日だったのではないかと思うのです。
果たしてあの状態で餌を食べることができていたのか不思議です。
写真を載せようかと思いましたが、少しグロテスクな印象もありましたので控えました。

写真:写真では分かりづらいですが先月に続き今月も環水平アークが出ました。ちょっと頻度が高すぎるような…。




















写真:写真では分かりづらいですが先月に続き今月も環水平アークが出ました。ちょっと頻度が高すぎるような…。

ストランディングのようなものを記録する際に、私は数の少ない珍しい種である場合以上に珍しい状況の死であるという事に興味があって、それはつまり彼らが置かれた様々な苦しい状況を表現するために我々の前にやって来たという意味があるのではないかと思うのです。
それが明らかに人の活動の影響を受けて生きてきた姿であれば、ヒトが責任をもって調べるべき相手なのではないかと感じるのです。
今回はそこまでできず、もどかしい気持ちでしたが、少なくともそういう姿を記録することができただけでも運が良かったと思います。
もし今回、個人的な連絡が入らなければ、役所だけで対応し、大雑把な記録と限られた写真だけが残されるだけでゴミとして埋まってしまうはずでした。
千葉中央博の人も来る間が無かったかもしれません。
発見して連絡を下さった方に感謝しています。 ここを読んでくださった皆様もこのような場面に遭遇された際には是非ご一報頂ければ幸いです。
すぐに国立科学博物館に連絡し、私もできるだけの対応をしていきたいと思います。

詳しくはストランディング(イルカ、クジラの漂着)に関してのページをご参照ください。

写真:一昨年の台風による被害を乗り越えたスナビキソウ群落には今年もアサギマダラがやって来ています。















写真:一昨年の台風による被害を乗り越えたスナビキソウ群落には今年もアサギマダラがやって来ています。

そういうゴーストネットという大きな網の塊は実際には「頻繁に」と言って良いくらい流れ着きます。
流れ着くだけでこの数なら、海で漂っている量はどれだけなのでしょう?
海岸に流れ着くゴミはほんの一部です。
しかし不思議なことにカヤックで海を漕いでいるとそれほどゴミがあるようには見えなかったりします。
この大量に打ちあがるゴミはどこにあったんだろう?と思うこともありました。
しかし考えてみれば海面に完全に浮いているものは、まだ空気の含まれているものがほとんどで、例えばペットボトルでも風化が進んで傷がつけば水が浸入し、空気の大きな浮力は失われボトル本体やキャップの浮力だけで海底にやや浮いた状態で、プラスティックの厚い製品では中層でふわふわと漂い続けているのだと分かりました。
だからカヤックで海面を見渡しても、それほどゴミは浮いていなかったのです。
ですから漁網のようなものも水面からはほとんど見えずに漂っているわけで、それが特に大きな時化の時にだけ岸にまで打ち上げられるわけなのです。

写真:快適な日が多かった今年の5月は自転車日和でもありました。















写真:快適な日が多かった今年の5月は自転車日和でもありました。

海岸に打ちあがった後のゴミを拾うというのは、ヒトが自然界に撒いた害を回収できる貴重な機会です。
せめてもの償いという作業だと思います。
もちろん自然界のためだけでなく、ヒトが気持ちよく過ごせるようにという意味もあるでしょう。
日本でも海岸や海がゴミ捨て場だった頃から考えると時代は随分と進んだように思います。
やっとここまで来たので、更にもう一段回上を目指したいと思います。
海岸のゴミ掃除は大抵は集団で、ある程度の規模で行われます。
自治体が行う場合には重機が用いられる場合もありますし、地区の人々が行う掃除では手作業で人海戦術的に行われます。
そういう清掃の行われる時期は様々ですが、以前は海水浴場が開く前が多かったように思いますが、最近は5月の30日を「ゴミゼロ」と読んで、その前後の期間を掃除の日としている場合も多くなっているようです。

写真:ハマボウフウとハマヒルガオに昔と変わらない覆われた素朴な海岸。













写真:写真:ハマボウフウとハマヒルガオに覆われた昔と変わらない素朴な海岸。

それで、もう一段回上へ向けた提案というのは「海鳥の繁殖にも気持ちを向けてみませんか?」ということなのです。
ちょうどこの時期の砂浜海岸は様々な海辺の鳥たちの繁殖地となっています。
この季節は幸い海岸への人出が少なく、むしろ海岸がゴミ捨て場だったような時代には繁殖活動の脅威は少なく、快適な営巣が行われていたと思われます。
しかし、この時期に少なくとも一度は海岸を真っ新に掃除するようになってからの彼らの繁殖状況はどうなっているのでしょう?
例えば現在我が家の近くの海岸でも繁殖しているコチドリの生態は、草も生えていない砂浜の中ほどの僅かな窪みに4つの卵を産み落とし、それをツガイで交代で温め、むしろ暑くて卵が煮えてしまいそうな時には身体で日陰を作って適度な気温を保ち卵を孵します。
孵った雛はそれほど時間を必要とせず歩き出せるようで親鳥について海岸の小さな生物を自分で食べ始めます、しかし移動能力は弱いものです。
掌に乗るようなサイズの雛は、天敵が現れれば只々ジッとして、その砂のような体色で擬態できていることを信じて敵が去るのを待つばかりです。
親鳥はといえば、卵が産んである時にも、雛を連れている時にも擬傷行動という、自分が弱っているような真似をして捕食が目的である敵を自分の方に必死に誘引します。
敵が誘引されれば卵や雛から離れる方向に少しずつ敵を引き寄せて、十分な距離を保った時点で飛んで逃げて大回りをして子供たちの元に戻ります。
もう一方の親鳥は子供たちを誘導したり卵のそばで様子を見ていたりしています。
これらは私が南房総で実際に見てきた行動で、ほとんど例外はありませんが、他の地域では多少行動に差があるかもしれません。
いずれにしても飛ぶことができない雛や卵が擬態を頼りに砂浜にあるということは共通です。

写真:擬傷行動を見せるコチドリの親。













写真:擬傷行動を見せるコチドリの親。

このような状態で動けない雛、そして卵が砂浜に置いてある状態で、予めそれらの繁殖状況を確認せずに、また知っていたとしても対応せずに海岸清掃が行われている状況を考えると、日本中で大変な数のそのような鳥の子が死んでいる可能性があります。
今月19日には館山市の市街に近い海岸でコチドリの卵を確認しましたが、次に訪れた25日には卵は無く、孵化して周辺で親鳥と過ごしていると考えて探しましたが見つかりませんでした。
海岸には清掃のためと思われる作業痕が見られ、コチドリがいなくなった直接の原因の可能性を感じました。
また私の住む塩見でも31日に生まれたと思われる雛4羽が確認できましたが、6月1日に地区の清掃が行われ、一応行動範囲を示す目印を設置して作業を避けてもらえましたが、急に訪れた数十人の人間にコチドリ親子の混乱は激しく、2日にはすっかり姿が見えなくなってしまいました。
その後、確認できていませんが、行動範囲を変えただけであればと願っています。
今回のことで踏みつぶすという最悪の事態にならなくても動揺によって大きく行動が変わってしまうという事が分かりました。

写真:コチドリの親子。













写真:コチドリの親子。

コチドリは日本全国で言えば数に不安のある種ではなく、むしろ普通の鳥ですので、このような事で種が絶えるという心配は今のところ無さそうです。
ただし千葉県だけは他県とかなり隔たった状況でレッドリストでは絶滅危惧T類(絶滅の危機に瀕している種)と指定されています。
また似たような場所で似たような行動をして繁殖するシロチドリは環境変化に弱いようで、特に地面の質が気になるような感じがしますが、私が南房総でウミガメ調査のついでに見ているだけでも繁殖をしている姿を見る頻度が下がっています。
この種はコチドリと違い、他県でも数を減らしていて環境省カテゴリでも絶滅危惧U類(VU)=「絶滅の危険が増大している種」とされています。

このような状況で海岸清掃を繁殖期に行い続けていれば、海岸線の環境が悪化という彼らが数を減らす要因の上に、更に海岸清掃という善意の行動であるはずの活動によって多くの貴重な鳥を知らず知らずに殺していくということになってしまうと考えられます。
もう一段回上を目指すのは大変なことではありますが、繁殖地を確認し、指定し、指定海岸での海岸清掃を行う際には、観察方法を習得した例えば役所の担当による予めの調査を義務付けて、更にその対応も施策するという努力が必要だと思います。
長大な砂浜海岸を持ちながらレッドリストでは、これらの鳥に関して最も状況が悪いと指定されている千葉県が率先してこれを行って、成功事例を作っていくべきだと思うのです。

写真:5/30には館山市の市街の海岸で珍しいイチョウハクジラが漂着。国立科学博物館へ運ばれて調査されました。




















写真:5/30には館山市の市街の海岸では珍しいイチョウハクジラが漂着。国立科学博物館へ運ばれて調査されました。



コチドリのレッドデータ

シロチドリのレッドデータ

6DORSALS KAYAK SERVICES YouTubeページ「コチドリの擬傷行動」



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