ストランディング(stranding)とは、「海(または水)の中にあるべきものが、岸(暗礁)にのり上げる」という意味の動詞、ストランド(strand)に由来します。哺乳類に限らず魚類や頭足類の場合にも使われます。元来は、生きた動物が自力でのり上げる場合に使われたようで、死体が漂流して打ち揚がる場合にはビーチング(beaching)という用語を使わなければならないともいわれます。日本語表記も前者の場合を座礁、後者を漂着として区別することもあります。 2002年茨城県波崎に生存座礁したカズハゴンドウ. ここでは、まず対象生物を海の哺乳類だけに限ります。具体的には、生死を問わず海の哺乳類の体が海岸付近にあって人間が何らかの働きかけをしなければならない場合すべてをストランディングとよぶことにします。そのストランディング個体が生きている場合にはライブストランディング(live stranding)、死んでいる場合には単にストランディングまたはデッドストランディング’(dead stranding)といいます。しかし、生死の厳密な判定は容易ではありませんし、発見時には死んでいたとしてもストランドした時には生きていた可能性もありますから、正確な区別は困難な場合があるでしょう。また、二頭以上の個体のストランディングをマスストランディング(mass stranding)といいます。ただし、母子の組み合わせの場合は除きます。 これらの現象を総称する用語としては、日本語ではどちらかといえば「漂着」を使いますが、英語の世界では「ストランディング」を使う傾向があります。「ストランド」には「途方に暮れる」に近い意味もありますから、より広く、どうにもできなくなっている状態を表現するように意味も少し変化しているのかもしれません。 海棲哺乳類のページで紹介しているハナゴンドウ. 港や入江に迷い込んだものもストランディングに含まれる. ストランディングに類似した状況ですが、定置網などの漁業目的の設備や装置に海の哺乳類が偶然捕らえられる場合があります。この場合は、人間活動がなければそのようなことは起きないのですから、ストランディングとは区別して「混獲」(incidental catch)といいます。 いずれにしても、本来ならば海を自由に泳ぎ回っているはずの海の哺乳類が浜にいるのですから、何か問題があるはずです。科学的にも、場合によっては人道的にも、放置するわけにはいきません。 かはく・国立科学博物館ニュース 第353号 9−’98 「海棲哺乳類ストランディングネットワーク構築に向けて」 国立科学博物館動物研究部動物第一研究室室長 山田 格 博士 著 より許可を頂き引用 |