カヤック日記


2020年10月の出来事



写真:2017年の台風21号の高潮で一旦減少しながらも、今月には新たな群落が見つかったりとむしろ以前より増えているワダン。




















写真:2017年の台風21号の高潮 で一旦減少しながらも、今月には新たな群落が見つかったりとむしろ以前より増えているワダン。

今シーズンのシックスドーサルズ・カヤックサービスとしての日本ウミガメ協議会への報告は以下のようになりました。
漂着報告には情報提供頂き藤田現地確認記録のものが9件含まれています。
報告では発見者のお名前は苗字を記載していますが、以下では念のため省かせていただきました。
情報いただいた方々に感謝いたします。

産卵上陸記録 ※主に6-8月
上陸×11 産卵×9 館山市×4上陸 南房総市×7上陸
産卵=卵を掘り出しての確認は行っていないが、産卵を済ませて埋めた痕跡(bp=ボディーピット)があり、状況から産卵したと考えられるものとして報告
発見日となっているものは毎日調査での確認ではないため発見した日付で報告
200531 和田浦 bpあり 発見日 7/19にO様より情報 台風の波で流出→誰かにより移転
200605 滝口 bpあり
200626 根本 bpあり
200705 平砂浦 発見日 bpあり
200706 平砂浦 発見日 bpあり
200720 根本 bpなし 上陸のみ
200721 砂取 bpあり
200804 平砂浦 発見日 bpあり
200811 根本 確認日 bpあり キャンプ場管理の方が8/7に確認
200829 根本 bpあり
200914 平砂浦 発見日 bpあり 不明瞭痕跡

写真:大型だった台風14号の波が届いていた館山市平砂浦の海岸。















写真:大型だった台風14号の波が届いていた館山市平砂浦の海岸。

ストランディング(漂着死骸)記録 ※通年
アカウミガメ×11 アオウミガメ×17
館山市×14 南房総市×14
数字は甲羅長さ
191015 坂田 アオ 72.1(ELNA計測)K様情報→ELNA→藤田
191020 塩見 アオ 67 I様情報
191021 塩見 アオ 97
191216 塩見 アオ 42
200208 野島崎 アオ 38
200305 見物 アカ 69
200306 千倉 アカ 76
200323 岩井 アカ 65 I様情報
200525 見物 アカ 83 S様情報
200606 砂取 アオ 45
200611 名倉 アカ 70 F様情報6/10発見
200612 白子 アカ 70
200612 和田 アオ 44
200612 和田 アカ 70
200622 富浦 アカ 63 K様情報6/21発見
200705 平砂浦 アオ 40
200706 平砂浦 アオ 40
200706 平砂浦 アカ 67
200707 船形 アオ 40 K様情報
200714 滝口 アオ 42
200720 平砂浦 アオ 46
200727 千倉 アカ 60
200802 見物 アオ 65 S様情報
200809 滝口 アオ 41
200811 和田 アカ 78
200824 白子 アオ 41
200913 塩見 アオ 94 I様情報
201025 香 アオ 41.5

写真:潮溜まりに迷い込んでいた小魚の群れ。















写真:潮溜まりに迷い込んでいた小魚の群れ。

2001年度から調査をしていますので今回で20回目となります。
ちょうど区切りも良いですし、そもそもなぜシーカヤックツアーを行っている者がこういう調査や報告を続けているのかについて少し書いておくのも良いかと思いました。
シックスドーサルズ・カヤックサービスとしてカヤックツアーを始めた当初1998年には館山の沿岸にミナミハンドウイルカという種類のイルカの小規模な群れが棲み着いていました。
今年4月のカヤック日記 にも似たような記事を書いていますが、もともと海の生き物を見るための足としてシーカヤックに興味を持ったことが私がシーカヤックを欲しいとか、漕げるようになりたいと思うようになったきっかけでした。
その「生き物」の中でも特に興味のあったイルカの一種が自分がホームウォーターとして5年ほど経った南房総の海に現れたことで、自身の目的が叶い、同時にそういう経験をシェアする必要も感じ始めました。
もちろんシェアするにはシーカヤックで一緒に海に出ていただきたいので、カヤックツアーを自身で始めるという準備をすぐに始めました。
それ以前も南房総を案内するツアーを始めたいという事は考えていましたが、良い機会を得られたと言えます。
イルカを観察する機会を持ちながら、ツアーという情報をフィードバックする場所が出来た事で観察に対する意識も大きく変わったように思います。
記録はイルカの背ビレや胴体の傷を写真で記録し、イルカを個体毎に見分けられるようにして群れの構成を知り、できればその後の移動確認など行動記録を確かにしておきたいという事が主体でした。
私は生物について大学で学んできたような人間ではないですから、他の海域で行われているイルカやクジラの個体識別調査を真似て手探りで始めた調査でした。
それでも結果的に翌年にはこれらのイルカのうち4頭が伊豆諸島の御蔵島から移動して来たということが確認できたりと、思った以上の成果が出たことも調査継続に繋がったと思います。
そして今ではミサゴなどでも個体識別にトライしていますが、これが個体識別で得られる情報の多さを知り、その面白さにハマった経緯です。

写真:今年もミサゴ観察の季節になりました。これはカヤックから撮影。カヤックで真上に一眼レフを向けて撮るのは難易度が高め…。




















写真:今年もミサゴ観察の季節になりました。これはカヤックから撮影。カヤックで真上に一眼レフを向けて撮るのは難易度が高め…。

そうやってそれらの群れが生息海域を移動したり、子イルカが成長して、また同じ母イルカから子イルカが産まれたり、群れの構成メンバーが変化したり、さらに行動範囲を大きく変えていったりしながら、この群れがいなくなった2000年初頭まで続きました。
イルカの経験で日常の観察とツアーでのフィードバックがセットになっている生活が身に付いた頃、南房総市の根本海岸でウミガメの足跡を見つけました。
この日は海が時化ていて、カヤックでの観察は諦めて岸から双眼鏡で観察する形で砂丘や岩の上からイルカを追っていました。
観察地は外海でしたので、海は厳しく実際には岸からの観察頻度は高かったのです。
ウミガメの足跡を辿っていくと分かりやすい感じで卵を産むために掘り返し埋めた痕跡がありました。
早速掘ってみると本当に卵があり、驚いてすぐに埋め戻しました。
これは大変だ!と思いました。今考えると変な反応ですが…。
それが2000年で翌年から夏を通して足跡を探したり、夜の海岸でウミガメの産卵の様子を観察するために通い始めました。
イルカとウミガメの観察はしばらく重ねて行っていたわけですが、当時の自分には関東でイルカとウミガメの産卵について調べることになるなんて想像もできない事態でした。
やっぱり今考えるとちょっと可笑しいですが。

写真:館山市太平洋岸の貴重な自然海岸。様々な海浜植物が活き活きとしています。















写真:館山市太平洋岸の貴重な自然海岸。様々な海浜植物が活き活きとしています。

まもなくイルカの群れはいなくなり、しかしウミガメの調査はそれ以来継続しています。 ウミガメの海上での遭遇頻度の高い場所もその頃に十分確認しましたが、イルカのようには簡単にツアーでフィードバックできるものでもなく、イルカのような派手さもなく、しかも外海で荒れやすくツアーでは漕げない日が多い海域でしたから、ウミガメ観察がシーカヤックツアーでそのままフィードバックできるわけではありませんでした。
しかし、ウミガメの産卵を調べるうちに、カヤックでは海に出る前に通り過ぎるだけだった砂浜海岸の環境について考えざるを得なくなりました。
以前から貝殻を拾ったりは好きでよくしていましたし、個人的に漕いでいる時もツアーでも休息時に上陸し休むのに快適な海岸を知っておくのは大切でしたが、それらの海岸がどういう問題に晒されているのかについては、今思うとほとんど気に留めずに過ごしていた感じでした。
そんな中で九十九里一宮在住で東邦大学の秋山章男先生と知り合うことができた事はその後に大きな影響になりました。
秋山先生と知り合えたのは、イルカを見に来た人がイルカの背ビレのシルエットで個体識別できるようにとコピーした紙を洲崎の駐車場(灯台下の弥平さん)で配ってもらえるように置いてもらっていたことがきっかけでした。
先生もイルカの話を聞きつけて洲崎に来た際に連絡先も書いてあったそのプリントを見ていたのでした。
その後連絡を取り合うようになり、「今度はウミガメの調査を始めようと思うのです」と伝えたところ、とても喜んで頂けたのでした。
先生は一宮周辺のウミガメの調査と共に、スナメリという小型で沿岸性のイルカの調査、ミユビシギをはじめとした海鳥の調査、その他海岸に生息する微小なものを含めたあらゆる生物、そして海浜植生の膨大な記録を行っていました。
先生の調査は海岸が主体でしたので、それを見たり、話を聞いて非常に大きな影響を受けてきました。
「ウミガメだけ、イルカだけを見るのではなく、その周りの環境全体の中のひとつとしてウミガメやイルカを見るべき」だと教えて頂きました。
とても残念な事に先生は昨年亡くなってしまいましたが、この20年ほどの間に教わった教えを忘れないで調査を続けていきたいと考えています。

写真:海水浴場不開設の効果で勢力が拡大しているハマゴウ。砂丘維持には大切な植生です。















写真:海水浴場不開設の効果で勢力が拡大しているハマゴウ。砂丘維持には大切な植生です。

そんな風にしてツアーが先か、調査が先か、といえば調査が先に始まって、それをシェアする場所としてツアーが始まったのがシックスドーサルズであるので、ウミガメの調査をやめる理由はなく、むしろそれをやめる時にはツアーも終わるかと思います。
そういう経緯の中で「シーカヤックツアー」とは何なのか?をいつも考えてきましたが、少なくともシーカヤックツアーは「シーカヤックに乗った」という事だけでツアーに参加した、もしくは「シーカヤックに乗ってもらった」というだけでツアーを行ったというものでは無いという事です。
「シーカヤックを漕ぐ」という事は、私もそうでしたが、その行為自体が未知の世界で、道具の扱いから何から全て新しい経験で、それをしているだけでも新鮮で楽しいという気持ちに満たされる事です。
つまりまだまだ不自由で這い這いをしていた赤ちゃんに戻る、もしくはカヤッカーという海棲哺乳類に生まれ変わる体験をしているという事でもあると最近気づきました。
だからヒトとして生まれたばかりの頃に(たぶん)毎日感じていたような新鮮な気持ちで「シーカヤックを漕いだ」というだけでも、その人の中に新しい世界が広がるわけですが、その新しい世界がシーカヤックというモノの中にあるという錯覚が起きている場合があるように思います。
赤ちゃんはヒトの身体で生きるということに新鮮さを感じてる可能性は高いでしょうから、同じようにそのなかなか上手く扱えない身体の一部であるカヤックの中にも「新しい世界」はもちろんありますが、多くはシーカヤックに乗った時に見える世界の方に「新しい世界」はあります。
だからシックスドーサルズのホームページには普通よく見られるシーカヤックの写真はほとんどありません。
シーカヤッカーはシーカヤックの舳先を見るために海に漕ぎ出すわけではなくて(赤ちゃんは不思議そうに自分の身体を眺めたりするかもしれないですが)、むしろシーカヤックで海へ漕ぎ出すことで見ることができる光景や生物との遭遇に興味の重点があるはずです。(自らの身体能力を試す場である場合もありますが)

写真:大抵の海岸に上陸できてしまうのもカヤックの利点です。歩いてアクセスできないけれど行ってみたい海岸があればリクエストしてください。















写真:大抵の海岸に上陸できてしまうのもカヤックの利点です。歩いてアクセスできないけれど行ってみたい海岸があればリクエストしてください。

ツアーでも「どれだけ漕いだか」や「どんなスキルを覚えたか」を主体にはしないようにしています。
技術や槽力は多い方が安全に楽にシーカヤッキングを楽しめます。
しかしそれは初歩の必要最小限な「這い這い」から始まり、それをツアーという形で補いながら、本人が海に興味を抱き、理解するにつれて必要を感じながら上達していくのが実際的で自然な流れだと考えています。
私自身もクジラやイルカをシーカヤックから見たいと思い、シーカヤックを購入し、練習してきた当初の目的は厳し状況の海でも不安を感じずに落ち着いて生き物を観察、撮影をするのには操船技術が必要と感じたからでした。
つまり好奇心は大切で、子供に好奇心が備わっている事は運動能力の向上に大きな影響を与えていると思いますが、シーカヤックも同じだと思います。
実際、南房総にイルカが棲みついた場所は南房総の中でも特に潮の早いポイントでしたし、上陸するのもやや難しい場所でしたので練習してきた甲斐がありました。
そういう点で、カヤックを漕ぐ事そのものや操船の技術に興味が強くなった時期もあり、それは今ももちろん役立っていて良い事でした。
乗り物の操作の面白さというのはとても奥深くて、それ自体が一生の楽しみになります。
シーカヤック自体が北極圏の人々が海棲生物を捕獲するための乗り物で道具でしたので、彼らハンターにもそういうカヤックを扱う技術への執着や拘りと誇りはあったと思います。
操船が上手でなければ余裕がなく、獲物の発見率が下がり、銛は外れたでしょうし、海況に対応できる度合でハンターとしての能力に大きな差が出たはずです。

写真:海上で休息していたガの仲間。海面の微小な生き物を観察するにも適しています。














写真:海上で休息していたガの仲間。海面の微小な生き物を観察するにも適しています。

話が随分逸れたように感じますが…。
カヤックがその昔ハンターの道具であった頃、彼らはどれくらいの範囲で狩りをしていたのでしょうか?
キャンプをしながら何日もかけてという事もあったかもしれないですが、主には家の周りで済ませていたのではないかと思います。
海の哺乳類が捕獲対象だったこととカヤックの積載能力を考えれば近所になるでしょうし、近所で捕れるのであれば遠出はしないと思います。
私もそれに倣ってという訳ではなかったのですが、結果的にハンティングの一種である(と私の考える)生物観察、撮影は主に「南房総」と呼ばれる海岸線に限っています。
だからツアーも南房総に限って行ってきました。
実際、生き物や植物の生息地を頭に入れて日々観察するにはそんなに広い範囲を網羅できないと思うのです。
それでも新規の発見は限りなくあります。
たまにしか行かないような、よく知らない調べたこともない地域を案内するのではそもそも危険が増しますし、ほんとうの「ガイド」ができるとは思えないのです。

写真:富津方面の海岸に多いナミマガシワ。ツアーは富津市から鋸南町、館山市、南房総市までの海岸で行っています。















写真:富津方面の海岸に多いナミマガシワ。ツアーは富津市から鋸南町、館山市、南房総市までの海岸で行っています。

最近、自分が棲息している近所で同じく棲息している、ご近所さんである生き物とその生息環境が自分にとって最も大切な情報だということを改めて感じています。
それは全ての人に言えることだと思うのは、ひとつは自然環境の変化や状況の把握は自然災害の規模が大きくなってきた近年には益々重要になってきているということです。
例えば地震の際にどこの崖が崩れやすく危ないとか、津波が発生しやすい海岸線を知っておく事、台風では風向き、波の向きでどこが被害を受けやすいかなどは身を守るのにそのまますぐに役立つ情報です。
それらは身近な自然物の観察を普段から意識していれば自然と頭に入ってくると思います。
さらに今年になってからの移動制限が不安定に行われる状況での楽しみという点でも、制限に影響しない身近な範囲で自然を楽しめるように普段から接してみようとしてみることで、必ずしも遠くに行かなくても美しい自然があると認識できる機会でもあると思います。
気軽に飛行機に乗れなくなってしまったけれど、こんなに身近に自然が沢山あったんだと気づいていただければ自然から離れてしまうことなく、これからも生きていけると思います。
それぞれの地域にシーカヤックなど自然を案内する職業の人がいますから、それぞれがお住いの地域でそういうガイドを探してみるのもお勧めです。
きっと新しい発見があると思いますよ。

写真:夕日のきれいな季節です。















写真:夕日のきれいな季節です。





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