写真:クジラを探しに!
4日には東京湾フェリーの航路でザトウクジラの親子が確認されるという事がありましたが、海の哺乳類絡みのお知らせをひとつ。
3月11日に発売の「海棲哺乳類大全〜彼らの体と生き方に迫る」田島 木綿子(監修)山田 格(監修) 発行:緑書房の「ストランディング概要」というページにて藤田が撮影の写真を大きく使って頂きました。
本書は日本の海棲哺乳類研究者・水族館飼育員など総勢36名のエキスパートが執筆し、日本で長年ストランディング(海棲哺乳類の漂着)の対応を行ってきた国立科学博物館動物研究部の田島先生と山田先生によって監修された、日本で最新で最大の海の哺乳類の書籍と言えると思います。
そのような本の中で私の写真を使って頂けることになったのはあまりに光栄な事で、紙面を開くまではなかなか実感がありませんでした。
2001年に館山市坂田の海岸に2頭のコマッコウという小型の鯨類が打ちあがったので、知り合い伝に国立科学博物館の動物研究部に報告した際に翌日現場に駆け付けてくださったのが山田先生と田島さんでした。
現場ですぐに解剖が始まりました。
その作業はとても真剣なもので、鯨類の漂着についてこれほど一生懸命に調べている人たちがいるんだ!とクジラが好きな私は嬉しくなり、南房総に打ちあがった鯨類についてだけでもお手伝いをしていきたいと思ったことが始まりで、ちょうど20年ストランディングの現場に細々ではありますが関わってきました。
写真:微小貝と呼ばれたりするとても小さな貝はマクロで見たら凄いです!(探すのは大変…)
もちろん私にできることはかなり限られていて、しかし単に現場に近いというだけでも補助としての役割があることが分かりました。
先行して打ちあがったものの状態を確認し、場所を確実に把握して、できれば種類と性別を確認し、できるだけの撮影をしておくことが多くの場合の役割になります。
ここまでならやる気さえあれば誰でも出来ます。
素人でも出来ることがある!と分かってからは自分で思い起こしても少し面白いくらいにやる気満々でした。
そんな気持ちになっていたところ翌年2002年に今回使って頂いた写真の茨城県波崎町でのカズハゴンドウのマスストランディング(複数生存漂着)が起きたのでした。
こういう多数の漂着でしかもまだ生きているので、調査だけでなく救助という意味合いが大きな現場でしたから特に人手が必要でしたので、山田先生が連絡を下さって翌朝までに現場に駆け付けたのでした。
掲載頂いた写真はその朝、やっと光が出た頃にひとりで走り回って撮影しながら漂着数をカウントした時のものでした。
同じ写真がうちのストランディングのページにありますので是非ご覧ください。
漂着南端と思われる場所からカウントと撮影をはじめ、写真はまだ前半数百メートル程度の位置だったと記憶しています。
写真:海辺の常緑樹で集団越冬するオオキンカメムシ
振り返ってやっと撮影できるくらい明るくなってきた空をバックに撮ったのですが、撮影している自分の背中側にはまだまだ多くの漂着個体が横たわっていました。
しかも苦しそうにどの個体も息をしていて、しかしひとりではどうにもできないのだからまずは自分でできることとして写真記録と数の確認!と自分で勝手に動いていました。
そしてもちろんフィルムの時代で、36枚はあっという間に使ってしまいました。
全体の数は思い出せなかったのですが、科博のストランディングデータベースを見てみたら85頭でした。
とにかく、この日は大変でした。
できることをできるだけやって、夕方に作業が終了となったところで積んできたカヤックで漕ぎ出して、海に戻したイルカがちゃんと泳いでいるか確認しにいきましたが、うねりの中でイルカは見つからず、暗くて見えなくなるまで探して、南房総ではあまりないような遠浅の波長の長いサーフに乗って岸に戻ったのをよく覚えています。
今考えると自分でもずいぶん体力があったものだと思いますし、漂着し弱って海に戻ったイルカが心配だという気持ちがとても強かったです。
という思い出の写真ですが、それがおふたりとお会いしてから20年目の記念のように紙面に載せていただけたことは本当になんだか嬉しく思いました。
写真:海面のマイクロプラスティックとクモ
ところでこの「海棲哺乳類大全」ですが、内容の幅の広さに驚きました。
イルカクジラから始まってホッキョクグマまでの「海の哺乳類」のことが、分かっているだけ全部載っているような本でした。
それでいて専門書というむずかしさとか堅苦しさがなく、科博でクジラを描かれている渡辺芳美さんのクジラたちも所々に配置されていて、動物と海が好きなご家族の家の本棚に並べて頂きたい本だと思いました。
お子さんが小さい時には写真や絵を見るだけでも良いと思いますし、そのまま本棚にあればその子が中学生高校生になってから興味が戻ってきて自分で開くようになれば更に多くの情報が吸収できると思います。
こういう本が本棚にあることがお子さんの成長にとても大きな影響を与えると思います。
私自身も図鑑や恐竜の本をボロボロにして見ていた方でしたので、よく分かります。
そういうお子さんの中から山田先生や田島先生の後を継ぐ研究者が現れるというのは全く自然で、当然そうなるだろうなと思ったりしながらページをめくっていました。
もちろん大人にも大きな影響を与えると思います。
これがきっかけでストランディングの調査に関わる人が出てきたりするかもしれないですし、実際にクジラやイルカを見に行こうと思うかもしれません。
そんないろいろな可能性を感じる本でした。
写真:夜行性のハマダンゴムシがヨタヨタと昼間に歩いていました。どうしちゃったんでしょ?
そしてやっと2月の日記です。
やはり今月も海の上の虫、クモについて力を入れて観察をしていました。
先月までは海の上のものが主体でしたが、やはり自分の守備範囲として海浜の虫とクモについてももっと知っておきたいという欲が出てきました。
さらに今月は異常に風の吹く日が多いうえに風力も強く、そんな状況でしたので海の上でムシを観察するのに適した日を確保できるのは1週間に1日程度というペースでしたから、ちょうど良いと思いながら海岸の特にクモ、それと見たことのない昆虫を求めて動きました。
前にも昆虫は探していた時期があったのですが、結果的にアサギマダラのような目立つ虫の方に気持ちが行ってしまいましたが、今回は地味な方になぜか興味を感じました。
年齢の関係でしょうか…?
一方で、海面のムシが暖かさを求めて海面に来ているという自分の仮説が正しかったとしたら冬以外には観察できない可能性があると思うので、とにかく海面のムシに関しては調査初年度ですので出来るだけのことをしておきたいという気持ちです。
ちょうどストランディングに対して20年前に感じたような気分です。
写真:あまりに風が強く珍しく地面に降りていたミサゴ。狩りも上手くいかず途方に暮れているかのよう。
あとは季節的に間もなくハヤブサの繁殖活動も始まりますし、スナビキソウにはアサギマダラが来て、そうこうしてる間にウミガメの産卵調査が始まり、同時にチドリたちの繁殖も最近は見ていますし、そうなるとムシのために一日を使える日はそんなに無くなってしまいます。
そして、あっという間に夏が過ぎて秋には子ガメの孵化の確認や海浜植物、そしてまたミサゴの観察の季節になります。
その合間にツアーを行っているような状況ですが、その流れの中にクモや虫の観察の時間を設けられるのかな?と心配になりますが、広範囲にムシに拘らずに動くことで、むしろ新たな発見もありそうではあります。
とにかく出来るだけ注意してどこでもついででもムシを気にしていることが大切になりそうです。
そしてまた次の冬にはムシメインの活動ができるかと思いますし。
海岸のクモを探す中で太平洋岸のグンバイヒルガオの冬季の状況を確認に行った時にスナハマハエトリという砂丘に暮らすハエトリグモに逢うことができました。
ちなみに、こういうクモの種については幸せなことにクモ研究者の馬場友希さんに教えていただいています。
富津で観察した海面にいたクモについて発表した共著者の方です。
クモに限らず様々な昆虫についても教えて頂いていて、おかげで様々なクモと虫について知ることができています。
とてもありがたいことです。
これもストランディングの現場に行く度に山田先生たちにいろいろ教えて頂いた時のことを思い出します。
写真:先月の太平洋岸に続き館山湾岸でもスナハマハエトリを確認。
鯨類は元々好きな生き物でしたから、少しは知っていることもありましたが、知らないことがいくらでもあって何についいて教えて頂いても楽しくて仕方ありませんでした。
しかも現物の教材がある状態でしたから。
今回のクモや虫も現物を見て、それを元に教えていただくという学校教育ではなかなか得られない方法で勉強ができていて本当に幸せです。
興味の対象となるものとの出逢いがあって、そこから勉強を広げていくという事が学校ではしにくいと思いますが、もっと自由に幅広く自由課題に時間が費やせる教育ができたらよいなと実感として思います。
そういう点では今の様々な状況は学校というくくりを外す良いチャンスが来ているように思います。
オンラインでなら所属や学校に拘らず、様々な分野の先生と繋がって勉強でき、専門的な方向へ早い段階で進んでいけると思います。
小学生の頃から自由に野に山に海に出かけて何かを発見して帰ってきて、それを探求するのを補助するのが教育という時代になったら面白いんじゃないかなと思います。
自分で研究対象を見つけて自分で考えるという能力の発達を補助するのが先生の本来の仕事だと思います。
そういう「勉強」の形が普通になって育てば、みんな誰もが研究者と同じような視点でものを考えて見ることができるようになると思います。
それは結果的に世の中の問題をどうやったら良くできるのかな?と考えて実行できる人を増やすことになると思います。
写真:2月でも葉に青みがあり新芽も見られた館山市グンバイヒルガオ群落
話が大きくそれてしまいましたが、今月の最大の発見はセイリングするクモを観たことでした!
クモがセイリング???と思われると思いますが、そういう貴重な場面を目撃する機会に恵まれました。
写真のクモが爪先立ちでお尻を高く掲げていますが、これが風を受けるための姿勢だということが報告されています。
そして実際にこの写真の直後にこのクモは風下に向かって1mほど瞬時に移動したのでした。
見ていた私はクモが海面を飛んだと思いました。
そんな訳がないので、クモに見えていたけど翅のあるほかの虫だったのだなと思ったほどでした。
しかし再度近づいてみるとやがはりクモなのでした!
何が起きたのか分からず混乱気味でしたが、馬場さんにお訊ねしたところセイリングするクモがいることが実験的に確認されている(※)と教えていただきました。
しかしそれは実験室での観察で実際に海面をセイリングしている姿は記録がないかもしれないそうなのです。
少なくとも非常に貴重なシーンをこの南房総で見ることができました。
大量のイルカが打ちあがったあのシーンを見た時の衝撃と同じような出来事で、これはまたこれから欠かせない対象に出逢ったのかもしれないという気持ちになったのでした。
写真:海面で尻を高く掲げて風を待っているアシナガグモ
さらに今回のクモのセイリングの事で思い出したことがありました。
それは2015年の9月に南房総市南岸の海岸に生きたまま多数打ちあがった沖合性のアメンボのことでした。
2015年9月の日記に写真を載せていますが、6つある脚のうち真ん中の脚を高く掲げる個体がいたのでした。
こんな小さな生き物が翅も持たずに沖合で活動して、しかも群れで漂着する=自由に集散できるのが不思議だったのですが、当時これを見てセイリングだ!と思ったのでした。
今回のセイリングするクモの文献にあるクモの写真を見て「間違いない!おんなじだ!」と思ったのでした。
こちらもまた新たな課題となりそうです。
今の状況で仕事の暇が多いこの間にできることをどんどんやっておくべきだと思っていて、特に昨年の2月というタイミングに海面のクモのTwitter投稿で馬場さんとお知り合いになったことが良いきっかけとなっています。
波乱もうまくサーフィンすれば波として自分を進ませてくれるかな?と思っています。
カヤックでも乱れた波を活かせるか失速したり転覆するかは自分次第ですので、この際ですから三角波でもなんでも楽しんで漕ぎ切ってしまいたいと思います。
写真:波と戯れるカンムリカイツブリ。
記事関係リンク
版元ドットコム「海棲哺乳類大全」
株式会社緑書房オンラインショップ「海棲哺乳類大全」
※「水に落ちたクモ、ヨットのように移動 宮城教育大のチーム発見 脚や腹で風受け滑る」 日本経済新聞 2015年7月11日 21:24
※「Sail or sink: novel behavioural adaptations on water in aerially dispersing species」BMC Ecology and Evolution 03 July 2015
「金谷沖1マイル付近にザトウクジラの親子2頭」東京湾フェリーFacebook 2月4日 9:45
お知らせ
「船を追いかけて乗船するカモメ類(?)の群れ 2021年2月1日 千葉県館山市沖」をYouTubeにアップしました。是非ご覧ください。
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