カヤック日記


2020年2月の出来事



写真:千倉港のすぐ南側に打ちあがったザトウクジラ













写真:千倉港のすぐ南側に打ちあがったザトウクジラ

今月も南房総の海ではいろいろな事がありました。
もちろん人間界での出来事も本当にいろいろあって、まだやっと3月…ほんとに?というくらいな気分ですね。
南房総の海辺の自然界の出来事としては、まず南房総市の千倉町にザトウクジラ(♀)の死骸が打ちあがりました。
2日にいつもウミガメの漂着を見つけるとご連絡くださるIさんから発見情報をいただきました。
もう夕方だったため、次の日の朝に現地へ確認に行きました。
クジラは写真のような状態で海に浮いていたのでメジャーを当てることができなかったのですが、目測では長さが9mほどに見えました。
そしてなぜ現時点でその正確な数値が言え無いのかというと、実は南房総市の処理対応までに数日経ってしまい、クジラは山から吹く強い風と大潮が重なった4日から5日にかけて再度沖に流れ出てしまい、このクジラは行方不明になってしまったのでした。

写真:今月はユリカモメがたくさん見られました。そして、あれだけいたカワウは減少。













写真:今月はユリカモメがたくさん見られました。そして、あれだけいたカワウは減少。

後に写真に写っているものの比から計算してこのクジラの長さを8.64mと確認しました。
ただし、尾ビレは沈んでいますし、岸に上げなければ正確なところは分かりません。
どこかでまた腐りきって、あのクジラが打ちあがった時には外観的な情報はほとんど損なわれている可能性が高いですから、今回のクジラと同じ個体かどうかを知るためには体長の情報は役に立つと思います。
しかし既に1か月ほど経ちますので、もう近辺の海岸に打ちあがることもなく遠くに流れて行ったのだと思いますが、今回は何も調べることができず本当に残念でした。
時化も続いていましたし、漂着した場所が複雑な地形であったことから重機なども近づけず、埋める海岸も目処がなかなか立たなかったようですが、千倉ではザトウクジラだけでも幾度も打ちあがっていますし(※)南房総市が漂着クジラ対応のノウハウを蓄積してきているはずです。
将来的には漂着クジラ対応のすばらしさで有名な市になったりしたら良いなと思いました。

写真:びっしりと貝殻!時化が好きになりそう…




















写真:びっしりと貝殻!時化が好きになりそう…

今回感じたのは海上保安庁がこの作業に参加してくれないものかな?ということでした。
海に浮かんでいるうちは浅瀬でも岸に寄っていても海上保安庁の管轄ですので、再度流出し船舶の航行の障害になる可能性への対応という形でクジラの処理作業の、特に埋設海岸までの曳航だけでも参加してもらえたら自治体の負担も減りますし、作業速度も随分と早くなると思います。
と、思ったので今度海上保安庁に訊いてみたいなと思っているところですが、自分は自治体の人でもないし…、博物館の人でもなく、どういった立場としてそういう打診をするのだろう???というところです。
今回のような場合には役所と海上保安庁の繋がりはとても薄いか、ほぼ無いのだということが感じられます。
私はIさんから情報を頂いて現地確認、国立科学博物館のストランディング対応をしている研究室にいつも通り連絡をして、連絡を取りあいながら現場先入りをして役所の人に博物館の調査希望を伝えて…という間にいる不思議な存在です。
役所の人も入れ替わりますし、人が変わる度に自己紹介といった状態でやってきました。
向こうも謎な人が来たな???と思っていることでしょう。
たまに勘違いされますが、この活動での金銭的な収益は一切ありません。
むしろ交通費が意外とかかって出ていくばかりです。
それでも私自身は、そういう生き物が好きですので勉強をする機会をタダで頂いているという風に考えています。
実際に過去にいくつもの様々なクジラやイルカに触れて、見る機会を得て、これだけのチャンスを与えられる事はそうそうないと感じています。
ただ、これからもそうなのだと思いますが、今回のような場面でも意見や提案を言う立場でもなく歯痒い思いでした。

写真:シーカヤックと打ちあがったスジイルカ















写真:シーカヤックと打ちあがったスジイルカ

そんなクジラ騒動?が収まったと思ったら9日には南房総市東京湾岸の大房岬(たいぶさみさき)の海岸にスジイルカ漂着の連絡が国立科学博物館の方から入りましたので、早速現場入りしました。
これもまた運搬になかなか困難が想像できましたが、クジラほどではありません。
発見者で報告者だった大房岬の青年の家の関係の人々が手伝ってくれたお陰で人力で運搬が済みました。
この時も私は合間の存在でしたが、イルカの運搬当日に人手が足らなければカヤックで岸に沿って牽引してみようと思い、カヤックで出動していましたが役立たずに終わりました。
まあ私的には沖合でイルカの漂流に遭遇した際にどれくらい牽引が可能なのかということを確認しておく良い機会だなと思っていたのですが。
あとは先日のクジラで自己紹介をしたばかりの農水産課の方に再会できましたので、次回は少しスムースでしょう。
ともあれ、私はいてもいなくて良いような存在ですが、突然やって来るクジラやイルカとの出逢いはこのように大抵は死を伴っていて、元々そういう生き物が好きな私にとしてはたまには活き活きと海を泳いでいる彼らの姿にも逢いたいなと思う今日この頃です。

写真:夕日もきれいな季節です。













写真:夕日もきれいな季節です。

ミサゴの観察はハイシーズン入りといった感じで今月は随分と記録が取れました。
ミサゴに限らず繁殖シーズンを前にいろいろな鳥が活発になってきてソワソワしています。
私はワクワクし、今年はハヤブサの繁殖が確認できるかな?ウミガメの産卵地のチドリたちはどうなるかな?というところが今年も気になりだしました。
もちろんウミガメの産卵シーズンもあっという間にやって来ますしですね。
鳥といえば今月はクロガモが多かったように感じました。
富津市の海では大きな大群が幾度か見られて、口笛のような鳴き声が初めて聞けました。
その鳴き声がみんなで同調していて緩やかなリズムがあるようで、海上でカヤックに乗ってその音に取り囲まれるとなんだかとても不思議な感じがしました。
単に私を警戒して連絡を取り合っていただけなのかもしれませんが…。
あとでもしかしたらYoutubeの方にアップしてみようかと思っています。
かなり地味な動画となりますが、もしよければ耳を澄まして彼らの鳴き声を聞いてみてください。

写真:海の上にいたシッチコモリグモ















写真:海の上にいたシッチコモリグモ

それと今月最も小さくて大きかった(?)出来事は海上でクモに逢ったことです。
雲ではなく蜘蛛の方ですね。
2006年の11月にも同じ富津市の海上でクモに遭遇していまして、そのクモは海面をしっかりと表面張力を利用して足先で立ち上がりながらゆっくりと水上歩行を行っていました。※
しかしこの時はパドリングを止めて海上で休んでいる時に目に入ってきたために、自分のカヤックに私が気づかずに乗っかっていたクモが落ちてしまったのだろうと考えたのでした。
ふつう、冷静に考えるとそう思うような場所でした。
当時の状況を考えてみると少なくとも岸から400mは離れていて、実際はもう少し沖だったと思います。
こんな場所にクモが自力でやって来るはずがないと思ったのでした。
カヤックを漕いでいると様々な虫が海面に落ちています、スズメバチの仲間、ミツバチの仲間、羽アリ、モンシロチョウを見たことがあります。
モンシロチョウは助けようと思い、捕まえようとしたところで自ら飛び立って去っていきました。
意図的に海面に片翅を浮かして休んでいたのだと思います。
しかし、チョウ以外の他の虫が海面にいる場合は完全に溺れていて、ミツバチも助けてみようと思い摘まんだところ指先を刺されたこともありました…。
そのあとにスズメバチが落ちているのを見た時には流石に助けられなかったですが。
沖合の海面低くを飛んでいくチョウはいろいろと見られます。
捕獲していないので種を確認できないですが、ひとつ確かなのはアサギマダラで、海上で見たのは一度ですが、まっすぐに海岸のスナビキソウ群落に向かって沖合から飛んできました。
またシジミチョウの仲間やモンシロチョウと思われる白い蝶が見られます。
スズメバチも意外と沖合で私の頭のすぐ上を素通りしたりして、ヒヤッとしたことは幾度かあります。

写真:海面を歩くクモと遠くに陸。海上でGoogle















写真:海面を歩くクモと遠くに陸。海上でGoogle mapで測ったところ岸から380mほどでした。

とにかく、海上にはいろいろとそういう小さな生き物が特に不思議でないほどにみられるのですが、それらに共通しているのは飛行するための仕組みを持っているという点です。
ですから、風に流されたとか、少し遠く見えるけど飛ぶものにとっては難しくもない数十キロほどの距離を対岸に渡ったりするのは大して危なくもないのでしょう。
しかし、今回のクモという存在は幼虫の時に風に乗って…というのは聞きますが、成虫が風に飛ばされるには無理があるような気がしますし、しかも落ち着いた様子で慌てる様子もなく海面を歩いていて、やっと見つけた漂流物であろう私のカヤックにもよじ登ろうという動きも見せず、その沖合で悠々としています。
その姿は何とも自分の中で説明がつかず、しかしきっと漂流物にくっついていたのだろうとか、漁師の船から落ちたのだろうとか、こじつけようといろいろ考えてしまいます。
ともあれ今回20日に富津市の沖合380mほどで遭遇したクモは確かに私のカヤックから落ちたものではなく、漕ぎ進んでいる私のカヤックの前方に現れたのでした。
結論を急いでも仕方ありませんので、「そういう事があった」という事をお伝えするに留めておく感じです。

写真:河口はカモメたちの水浴び場













写真:河口はカモメたちの水浴び場

ただ、このクモの種類だけは知りたいなと思っていたところTwitterで投稿した、そのクモの写真からクモの研究者で農研機構の馬場友希さんからコメントを頂き、シッチコモリグモであるという事を教えていただきました。
馬場さんは私の持っている唯一のクモの図鑑である「クモハンドブック」(文一総合出版)の著者の方でした!
馬場さん、ありがとうございました!
しかし、なんと幸運なことでしょうか。
最近Twitter越しに教えていただいたりすることが多く、本当に凄い時代になったものだと感じているところです。
シッチコモリグモは湿地の子守をする蜘蛛という意味の名称だそうで、やはり水っ気が好きなようです。
とはいえ海の上とは!
アメンボは海に完全に進出していますし、クモもその進化の段階を経ているところなのでしょうか?なんだかとてもワクワクします!
クモの海の上での生活については今のところまるで分かっていることがないようです。

写真:青空















写真:青空

カヤックの静かに音も波も立てずに生き物に近づけるという、本来ハンティングのために発達した利点を活かして、これからもっと海の上という非常にニッチな生物の生息場所の探索を続けていきたいと思います。
それが広がっていくにはカヤックの操船と海を往くためのノウハウを持ったカヤック乗りな研究者が増えることが、まず必要になります。
登山靴や長靴を履いてフィールドに入っていくようにカヤックを履いて海の上を観て歩く、そのための操船の基礎をしっかりと築いた、その上に立って海の生物を観る人が増えるお手伝いをしたいとも思っています。
海の上にそういう眼を持った人が増えていけば、広大な砂漠みたいに見られている海面の生態系の形が見えてくるかもしれないなと期待しています。
シックスドーサルズのカヤックツアーは1日1組で行っていますので、生物観察などご希望のカヤックの使い方に特化した講習もご要望に応じて行いますので、お気軽にお問い合わせください。
とりあえずカヤックの可能性を確かめるためにツアーに参加していただくというのも良いと思います。
是非ご参加ください。

写真:大時化続きの後に打ちあがったツキヒガイ。左右で紅白という、めでたい貝ですね。しかしこの2枚は別個体でした。















写真:大時化続きの後に打ちあがったツキヒガイ。左右で紅白という、めでたい貝ですね。しかしこの2枚は別個体でした。

最後に新型コロナウイルスへの営業対応ですが、今後状況を見て流動的に対応いたしますが、現在3月1日までのところは通常通り行っています。
ただし参加者にはツアー当日朝に必ず体温計測を行っていただき、平熱より高い場合にはその時点でお電話をいただき相談して無理なくキャンセルをしていただけるようキャンセル無料で対処しております。
またお客様の安全のため、ガイドの藤田も同じく当日朝に検温し、異常があれば朝の時点で中止とさせていただく事を予めご了承いただきご予約承っております。
私自身もガイドはひとりで運営していますから体調には万全をと普段から注意しておりますので、お互いの安全を保ち楽しむために恐れ入りますが、ツアー時の陸上ではマスク着用、車での送迎は収束まで無しでお願いいたします。
こちらでの対応は以上のようなものですが、あくまでご自身の判断、責任でご参加ください。
以前から、普段からインフルエンザ流行などの場合でもそうだったのですが、当方のツアーは1日1組ですから、マンツーマンから仲間内、家族だけという形で一日楽しんでいただけますし、フィールドでは特に海上で人と会うことも無いですから、こういう場合に比較的安心なツアー形態といえると思います。
南房総の海岸、海上のきれいな空気の中で過ごす一日はきっと免疫力をアップしてくれるだろうと思っております。
ご心配やご希望ございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

写真:自転車ツアーも最高に良い季節です。きれいな空気を吸いながらの、のんびりなツアーです。















写真:自転車ツアーも最高に良い季節です。きれいな空気を吸いながらの、のんびりなツアーです。

参考

「クモハンドブック」(文一総合出版)

馬場友希さんのホームページ「Spider's Web」

※2006年11月のカヤック日記(海上でのクモの写真)

※2016年1月のカヤック日記(過去のザトウクジラ漂着事例について掲載)

Twitterでのこのクモに関する投稿







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