写真:
5月に生まれたばかりのシロチドリのヒナを確認していた場所で若鳥が3羽滞在していました。兄弟で場所を変えずに留まっていたのでしょうか?2020年5月の日記(6枚目にその時の写真があります)
産卵していると考えられるウミガメの上陸痕跡は今シーズン10か所でしたが、なんと1か所も子亀が脱出した痕跡が確認できませんでした。
「考えられる」というのは、卵を確認していないけれど、母ウミガメが残した痕跡から私の経験的に産卵しているであろうと判断した巣です。
ですから判断ミスで卵が無い場合が無いとは言えないのですが、過去の経験から間違いはほとんど無いと考えています。
また巣内で子亀が孵化していながら地上に出て来れずにいる場合もありますが、孵化率調査という掘り出しての巣内状況確認も近年行っていません。
いずれも私自身のいろいろな経験を元に不要と判断したものです。
長くなってしまいますので、経緯や詳細は省きますが単純に言うと「ウミガメの巣を掘り返し卵に触れることは良い事ではない」と思うようになったからです。
それでも今回のような場合には気になってやはり巣の中の様子を確認したいと少し思ったりもするのですが、少なくとも今年のうちには行うつもりはありません。
また全ての巣についてその後継続的に観察を続けているわけではなく十分な頻度で通い続けることが出来ていなかった巣については痕跡が見られなかったとしても実は脱出に成功していて、その後強風が吹いて痕跡をすっかり消し去ったのかもしれず、産卵以降の事実は記録できていないだけという場合もあります。
いずれにしても産卵上陸から全ての巣の孵化脱出確認までを確実に行うには負担が大きすぎるという実際的な問題もあり、少なくとも産卵上陸は記録し続けるということにコストを集約しています。
というわけで、寂しいですが今シーズンは子亀の足跡は見ることができずに終わりました。
写真:先月に続き館山市のグンバイヒルガオ群落で結実を確認。
ウミガメの調査がすっかり片付くと、ミサゴの観察を始めます。
夏季にはウミガメの産卵地を中心に私が行動することもあるのだと思いますが、ミサゴに逢える機会は極端に減ります。
冬の間に毎年ミサゴを観察している場所に行くことが難しくなってしまうので周年の観察はできずにいますから確かではないですが、どうやら冬季と夏季の行動範囲が変わるように思われます。
ミサゴの観察はここ何年かは主に翼の腹側の面を撮影し、個体識別し、行動範囲を知る手がかりを得るために行っています。
できるだけ多くの場所で、できるだけ多くの個体を撮影したいので、軽い装備で自転車やカヤック、スクーター、クルマ、そして徒歩でエリア毎に都合のよい移動方法で記録しています。
三脚を立てて超望遠で粘るというスタイルではないので、ミサゴと入れ違いになる場合も多いだろうと想像していますが、限られた時間でできるだけ広範囲の記録を取りたいと思い、こういうスタイルとなっています。
特にカヤックと自転車では大きなレンズなど持っていけませんし、揺れるカヤックの上では制限がいろいろありますが、真上を通過してくれる可能性は高くなり自分が必要としている翼下面の写真は結構撮ることができています。
デジタルの時代になって随分経ちますが、これもデジタルの便利さがなかったら出来ないことだと感じます。
多数の写真を撮ることができるのはまず第一ですが、その後の拡大や様々な調整の気楽さは本当に凄いと思います。
しかもそれほど最新鋭の機材を使わなくても私が行っている程度のことは古い安い機材で十分賄えるという点もありがたいです。
こういう調査を個人的に継続していくうえでいかにコストを抑えるかはとても大事なことですので。
そういう点では比較的近場で行えるものを調べているという点もコストを抑えることに繋がっています。
写真:凪の海上で魚を探している印象の強いミサゴも時化の海を飛びます。
近場で何年も季節毎にルーティーンで対象を決めて調べ続ける中で、いろいろとオマケの様な内容も記録します。
決まったいくつかの対象の周辺で見られた海に関わるものとの遭遇で横道に逸れつつ本題にそれを付属させて、どちらに遭遇しても記録するという風にしていくと結果的に今までよりもコストが浮くことにもなります。
同じ場所を見るのですから、浅く広くなりすぎないように「海に関わるもの」に限定しつつも無駄なく欲張って記録していきたいと思っています。
特に地域的、分類的に記録の少ないものについてはできるだけのことはしたいと思っています。
そんな中、今年の2月に海面を歩くクモを発見したことから、海上に出ると海面の蜘蛛や昆虫が気になるようになっていました。
ふつう陸上で暮らす小さな生き物という意味での所謂「ムシ」の海面での生態は分かっていないことが多いと想像はつきましたが、2月の経緯(※最下にリンク)で少なくともクモについては珍しいことだと分かりました。
その影響もあり、その他の「ムシ」についても海面での生態について興味が強まっていました。
それで今月はやっとウミガメから解放されたのでムシも積極的に探しながら、ミサゴも探し、と空と海面を交互に見ながら漕ぐという、ちょっと可笑しな状況になっています。
写真:海岸も草紅葉。
海面にいる1pに満たないような生き物を見つけようとするとなかなか速度を上げられません。
カヤックも多くの乗り物と同じように惰性がありますから、それなりの速度で漕ぐと楽なのです。
自転車をゆっくりと今にも止まりそうな速度で走るとペダルはいつまでも重く、バランスも悪く走り難いですよね。
大雑把に言うとそれに近い事がカヤックにもあって、あまり快適ではなくなってしまうのです。
しかし海面にあるこれほど小さなものを探しながら移動できる方法は他には無いでしょう。
泳いで探すのは水面では難しいですし距離にも限界があります。
サーフボード、SUPなどには可能性がありますが、移動能力に大きな差があり、カヤックなら必要な装備を十分に積載し、身体も機材もドライな状態で探索することができます。
カメラは濡れても良いものを使うことができますがレンズに水滴がない状態で撮影するには水面との距離感はボードよりもカヤックのような乗り物に近い形状の方が適しています。
また水面を乱さずに近くでその小さなものを観察するには水に浸かっているのは艇本体に限った方が良いのです。
写真:カヤックと水面を歩くクモ。(矢印)超大型船舶の傍を漕ぎ進むカヤックのような比率。
カヤックでもパドルを水に浸けておくと水面が乱れます。
せっかくベタ凪の日を選んで来ているのに、自分の手足が動く度に水面が乱れるとその小さな生き物がその「大波」に揺られてしまって生態を観察し難くなってしまいます。
その他に今はスマートフォンで賄えますが、GPSや必要であればノートをとるなどの場合にもカヤックの方が向いているでしょう。
そして何より運動量の少ない観察メインのパドリングでは身体がドライであるということが何よりありがたいと思います。
とカヤックをお勧めしているものの、カヤックをまず操船する技術を仕入れる必要があり、それは非常時のリカバリーをも含めたもので、それをある段階まで得てからでないと本当のカヤックの快適さは得られないということも事実です。
とりあえず漕ぎ出すことはできると思います。
ただ、準備と練習がなければ少し問題が重なっただけで命に関わる場合があることをお伝えしておきます。
しかしできればカヤックを用いてフィールドで調査をする研究者が増えることを昔から期待しています。
もし、対象物が水面のもので、しかも水面を乱したり、大きな音を立てたら逃げてしまうようなものが相手であるなら、そして深いところ浅いところと水深も気にせず、入り江の奥も岬の磯も探索したいというのであればカヤックは必ず役に立ちますから、是非取り入れてほしいのです。
それにあった講習も行えますし、どういうカヤックを選ぶべきかのアドバイスも可能です。
是非私が想像できないような分野の研究者の方々にカヤックを用いてほしいと思います。
写真:沢山あると思っていたハマアザミが実は千葉県で絶滅危惧T類指定と知り、改めて南房総でも少ないことを確認。ハマアザミのレッドデータマップ
そんなわけでムシを何種か海の上で捕獲しました。
基本的に生きているものを捕獲することはないのですが、2月のクモ発見の時に捕獲しなかったことが後で情報不足となり悔やまれたので、「ムシ」に関しては捕獲できればする事にしました。
しかし最も重要視しているのは生態で、海の上で単に溺れているのか?海面を自由に歩き回っているのか、翅があるものなら再び飛び立てるのか?ということを現場でできるだけ観察したいと思っています。
それが分からないと偶発的な事故なのか、意図して海の上に来ているのか、もしくは偶発的でも地上に降り立ったのと同じように問題なく過ごしているのかがまず分からないので。
もしも意図的に海面に来ている可能性があるなら、何の目的で滞在しているのか、再度岸に戻ることはできる前提で準備(位置情報など)があってそこにいるのか知ることができたら面白いだろうと思います。
そのうえで生物の種類が正確に分からないといろいろと意味がなくなってしまうので、最終的に捕獲をしておくという感じです。
海の上に小さな生き物がいる事の利点はシーカヤッカーとしていくつか感じることがあります。
我々シーカヤッカーも例えば大型船から見れば海面に浮かぶムシのような存在です。
船としては最小で乗船人数で言っても1人という点で1個体で海面を移動する存在ということもムシに似ていて、むしろ私としてはムシのひとつとしてしまいたいくらいです。
そんな小さなカヤックが海に浮かぶ利点はなんでしょうか?
まず海面は生き物の生息場所として非常に空いているニッチな場所です。
競争が少ないのです。
そこが私自身、海面を移動することが好きな理由でもあります。
混み合っていて、みんなレースでもしているかのように急いでいる道路を自動車で走って来た後には尚更それを感じます。
写真:海の上は広々。
人間が水面を浮力に頼った船というものを発明してこれだけ活用できるのはそういうガラ空きな場所だったからです。
もしも海面にマングローブの巨大版みたいな樹木が密生していて、水面を浮いたまま暮らす巨大な生き物が多数いたなら今ほど自由に船を走らせることはできなかったでしょう。
太古の昔に丸木舟を我々の祖先が浮かべてみても良いなと思ったのにはそういう事もあったはずです。
敵が少ないのです。(現代のシーカヤッカーにとって、敵ではないですが大型で高速な船舶が最も危険な存在ではあります)
しかし海はそのものが敵になりえますし、生き物や障害物となる生き物が密生していない代わりに波や潮流、海流といったものと遮るもののない環境で強い風を受けるなどの障壁がいくらでもあります。
それらに対応できなければ沖合で長時間過ごすことはできず、天候の合間を見て少しの間だけの滞在になってしまいます。
しかし波や風への対応を行い、流れをも利用できるようになればもっと長い時間滞在することが可能です。
そういう点では天敵の多くなった地上にいるよりは海面は安全な場所になりえます。
あまり目立たないようにすれば海面下を泳いでいる捕食者である魚の目にも付きにくく海面には直接的な捕食者は見当たりません。
ただその点ではクモが海面を歩いている理由として興味を持っています。
もしもそれなりの密度でクモの餌生物となる昆虫がいるのであれば、見晴らしがよく餌を見つけやすい便利な餌場として海面を利用しているのじゃなかろうか?と今回クモを見た後にいくつかの昆虫を海面で見た時には思ったりしたのでした。
そんなことあり得ないのでしょうか?
ところが完全に海面での生活に順応している昆虫はいるのです。
ウミアメンボは潮溜まりにいるものが多いですが、沖合性の完全に陸とは縁の無い場所で生きる種もあります。
それが可能であるのなら、その中間的な陸上と海上を自由に同じように使う種がいても不思議はないというか、いない方がむしろ不思議ではないかと思うのです。
私自身がまだ勉強不足ですので多くを書くことができないですが、そういう生態の昆虫の情報は非常に少ないのは確かなようです。
写真:パドルの縁にいるヒメヨコバイの一種と思われる昆虫。水面で複数が歩くことなく、ただ浮遊していました。
シーカヤックを真冬に漕いでいると手が冷えます。
そこでどうするかというと私はよく海に手を浸けます。
気温が一桁でも水温は房総では二桁を下ることはないので、温かく感じるのです。
でまた風を受けて漕げば寒いのですが、一時は温まります。
それとカヤッカーは水面から上半身分の高さしかありません。
その1mとかの高さは空気よりも暖かい海の水の、その中でも最も温かい水面の温度に影響を受けて空気が暖められています。
その層の中をカヤッカーは往くので地上にいるよりも冬季には温かく感じられます。(夏は海の水で冷やされた空気の中を漕げます!)
これは実感としてたぶん多くのシーカヤッカーは当たり前な感じで受け止めていると思いますが、カヤックが年中快適な大きな理由になっていると思います。
つまり海にわざわざやって来る昆虫もその温かさを求めている場合があるのではないかと考えたりしています。
まだ煮詰めた考えではないですが、カヤッカーが実感しているそこら辺がムシも感じている目的のひとつかもしれないと考え始めています。
実際に状況を見て記録していけばある程度その可能性を確認できるかもしれませんし、それ以外の要因も見つかるかもしれないので、これまた気長に観察対象として見続けていきたいと思います。
どうせならシーカヤック、シーカヤッカーにしかできない事を調べたいと思いますし、それで何か海に関わる生き物とその環境に関する知見を増やすことに貢献できるかもしれないのですから、そう考えるとワクワクしてしまいます。
世界中の海の上をどれほどの数のムシが利用しているのか、それを知る手がかりの一部でも解明していけたらと思います。
写真:あっという間に一日が終わり陽が落ちる季節。
2020年2月のカヤック日記(海面で観察したクモの話)
2015年9月のカヤック日記(漂着したウミアメンボの話)
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